14.12-41 無力?41
そして、夕方と夜との境目くらいの時間になり、ルシアたちは解散することになった。その際、岩の上からなかなか動こうとしないハイスピアに、皆が困り果てて……。その結果、皆、改めて、ハイスピアの視線の先に顔を向けることになる。
「やっぱり、この光景を見て心を病んじゃったのかなぁ?」
「まぁ、痛々しい光景ではあるの」
「これをやったのって、やっぱり……」
「ミレニア!しっ!」
『えぇ、お二人ともお察しの通り、僕たちがここを魔法の練習の場にしたことが原因です』
湖の周辺の森は、まるで強烈な嵐に見舞われたかのように、木の葉や木々が吹き飛んで、禿げ山のようになっていた。幸い、湖の水が濁っていたり、水位が低下しているようなことはなかったが、それでも、大規模自然破壊と言っていい光景が広がっていたのである。
その光景は、正体がエルフであるハイスピアでなくとも、心を痛めてしまうほどに痛々しく、ミレニアとジャックも、苦々しい表情を浮かべざるを得ないほどだった。つい先日まで、青々とした木々が茂っていた湖の姿を知っていたことも、大きく関係していたようだ。
そんなミレニアたちの反応を見ていたルシアは、段々と居たたまれなくなってきたらしい。森が荒廃した原因は紛れもなくルシアにあったので、皆から無言の内に責め立てられているように感じられていたのである。
結果。
「そう……だよね……。やっぱり、放置は良くないよね……」
ルシアはそう言いながら、片手を空へと向けた。
その直後、彼女の手の先に、大量の光の球が集まってくる。いや、光の球などと可愛らしく表現するのは適切ではないだろう。一つ一つが直径5mほどはある大きな光球——人工太陽だ。一つ爆発すれば公都くらいなら丸ごと消し炭になってしまうほどの魔法が、空中に数百個ほど現れて、周囲をまるで昼間かのように照らし始めたのだ。
ミレニアは驚いて腰を抜かした。ジャックも、そしてハイスピアも、だ。彼女たちが見てきたどんな魔法よりも、遙かに強大な魔力の塊がそこに浮かんでいたのだ。
そんな3人に向かって、ルシアが宣言する。
「これがオートスペルの使い方だよ!」
ルシアは普段、オートスペルを使って、不可視の人工太陽を常に宙に浮かべて持ち運んでいるのである。しかも、毎日のように余った魔力を人工太陽に変えているために、その数は、日を追うごとに増えていき、今では数え切れないほどになっていた。もしも不可視の人工太陽を可視化出来たなら、ルシアの周囲は光で包まれて、何も見えなくなっているに違いない。
そんな数百個ほどの人工太陽を、ルシアは空中で操作する。すると、最初は黄白色だった人工太陽が、一気に緑色に変化する。
それから、ルシアがクイッと指をスナップすると、緑色の光球が、すべて空高く飛んでいった。そして雲の向こうがで一つにまとまって……。
「ちょっと衝撃が来るかも知れないけど、痛くはないと思うから安心してね?」
『「「「「は?」」」」』
「ひっ?!」
ルシアが再び紐でも引っ張るかのようなジェスチャーをした瞬間、猛烈な速度で空から緑色の巨大な光球が落下してきたのである。
その見た目は、まるで巨大な隕石だ。直径にして、およそ500m。そんなものが一行の頭の上に落ちてきたのだから、ミレニアたちは思わず頭を抱えて縮こまってしまう。
そんな中で涼しい表情(?)をしていられたのは、ルシアの魔法の直撃を受けても耐えられるテレサと、分体たちを各地に派遣しているがために多少マイクロマシンたちを消し飛ばされても痛くもかゆくもないポテンティアくらいのものだった。
「これ、当たったら痛いやつではなかろうか?」
『まぁ、いつものやつだと思いますので怪我はしないでしょうけど……』
対するルシアは否定する。
「ううん。大丈夫。そんなに密度は高くないから。もしも人にぶつけるなら、もっとギュッと圧縮するよ?」
「ホントかのう?」じとぉ
『ホントですか?』じとぉ
「ホ、ホントだって!」
テレサたちからジト目を向けられたルシアは、自信が無くなってきたのか、空から落ちてくる緑の塊を更に巨大化させて、密度を下げるよう調整した。その結果、倍以上に膨らんだ緑色の光球は、遠く離れた公都からも見ることが出来て、そちらはそちらで大騒ぎになっていたとか、いなかったとか……。なお、より近くにある学院については、敢えて言うまでもないだろう。
そして——、
ズドォォォォン!!
——という効果音が聞こえそうな勢いで、緑の魔法が地面に落下した。
しかし、ルシアの言葉通り、魔法で森が滅びるなどということはない。落下した魔法は、荒廃した森へと溶けるようにして、急速に広がっていったのである。
その直後——、
ゴゴゴゴゴ……!
——小さな地響きが地面に響き渡る。森全体が揺れ始めたのだ。




