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6前前-15 ボレアス帝国首都ビクセン4

「そこまでして、ビクセンを潰したいの?」


わざわざ、転移魔法(?)を使ってまでビクセン上空へと移動して、尚且つ落下を続けている巨大生物を見ながら、ワルツは思わず呟いた。

そう、もしも地上に転移したのなら、相手は無事に済んだかもしれないだから。


「どうしよう、お姉ちゃん・・・。また転移させる?」


「・・・いえ、何度も同じことの繰り返しになるかもしれないし、最悪、上空1mとか近距離に転移されたら手の施しようが無いから、直接倒すことにしましょう。・・・というわけで、ルシア?もう、全力でぶちのめしていいわよ?」


「ホント?!」


姉の言葉に、にぱぁ、と満面の笑みを浮かべるルシア。


「えぇ、魔法による爆風と、生物の落下は私が押さえるから、ルシアは攻撃に専念してちょうだい?」


「うん!分かった!」


するとルシアは早速全力(?)で魔法を放ち始めた。


ドガガガガ!!


ルシアが得意とする光と炎の魔法が、視界を埋め尽くさん限りに広がって、巨大生物の前で収束し、一気に蹂躙しようとする。

・・・だが・・・


キラキラキラキラ・・・


『えっ・・・』


ルシアの魔法は、まるで『大河』に向けて放った時のように、光の粒になって消えてしまった。

どうやら巨大生物は、ルシアが転移魔法を行使した時点で、外からの魔法を打ち消すような対策魔法(?)を行使したらしい。


「・・・だったら!」


そう言って空に向かって両手を(かざ)すルシア。

そして彼女の手から放たれたのは、紫色の風船のような魔力の塊・・・即ち、嘗てビクセンの耕作地帯の半分を台無しにした、所謂魔力爆弾であった。


それが空へと登って行き、ワルツが落下速度を抑えていた巨大生物に当たった瞬間、


ドゴォォォォン!!


と爆発し、当然のごとく爆風を発生させながら、同時に巨大生物の体液を飛び散らせる。


「!?」


そんな光景を前に、子供の手を引いて避難を促していたユキは、何かに気づいたらしく、はっとした表情を浮かべた。

・・・ただし、ルシアの魔力の強さに対して・・・ではなかったようだが。


グォォォォォンッ!!


未だ距離が離れているためか、着弾からしばらく遅れてやって来る巨大生物の咆哮。

空が真っ赤に染まっているためにその身体を直接見ることは出来ないが、鳴き声を聞く限り、どうやら仕留め損ねてしまったらしい。


「なんなのかしら・・・こいつ・・・」


今は自分たちが対応しているのでどうにかなっているが、もしもここにいなかったとするなら、どうやって対応していたのか、と思うワルツ。

少なくとも、カノープスクラスの魔法使いが手に負える相手ではなさそうである。


(運が良かったで方付けていいのかしらね・・・)


妙なタイミングの良さに、ワルツは人知れず、言い知れぬ気持ち悪さを感じるのであった。


それ同時に、ボレアスに来た理由の一つについても考える。


(まず間違いなく、こいつがこの辺一帯の魔物たちを追い出した原因でしょうね・・・)


恐らく、絶対的な捕食者を前にして身の危険を感じた魔物達が、逃げ出そうと南方へと大移動した結果、ミッドエデンやメルクリオの周囲の魔物の大量増加につながったのだろう。

ただし、彼らが、一体どうやって『大河』を超えたのか、という疑問は残るところだが。


その上、ゾンビの件で、ミッドエデン北方(要するに大河周辺)の男手が減っているのである。

逃げ出した魔物たちにとっては、(さぞ)かし、移動し易かったに違いない。


・・・さて。

重力制御で障壁を作るだけの簡単な作業をしていたために暇・・・ではなく、それ以外にやることがなかったワルツが、そんな分析を行っていると、


「お姉ちゃん・・・」


獣耳を伏せてしょんぼりした様子で、ルシアがワルツのことを見上げてきた。


「・・・どうしたの?」


ルシアが悲しげな表情を浮かべている理由が何となく分かっていたワルツは、可能な限り優しく問いかけた。


()()()()()()()、倒せないみたい・・・」


そう言った後に俯くルシア。

・・・要するに、普通でなければ、倒せるということなのだろう。


「・・・何か悩んでいるみたいだけど、言ったわよね?全力でやっていいって」


「・・・でも、どうなるか分からないよ?」


(う、うわぁ・・・なにそれ。ルシア自身も怖くて全力が出せないってこと?)


「んー、でも、お姉ちゃんがそう言うなら・・・」


「ちょっ・・・!」


・・・そしてルシアは、慌てふためくワルツを置き去りにして、魔力を開放した。




最初に起った変化は、ビクセン全体の地面から染み出すようにして、紫色の霧が生じたことであった。


「な、何・・・」


憧れの魔王と手を繋いでいた少女は、そんな周囲を埋め尽くさんばかりの高密度の()()に、思わず犬耳を塞いでしてしまう。

隣りにいる魔王の方も、そんなただならぬ気配を前に、空に浮かぶ巨大生物にではなく、周囲の様子に対して気を配っているようであった。


そんな時、ふと少女の視線が、視界の中に、特に魔力の濃い場所を捉える。

その場所では・・・あまりにも濃度が濃すぎるためか、まるで魔力が実体化したような、そんな紫色のローブを纏った自分よりも少し年上の狐耳の少女が、真っ直ぐに空を見上げていたのである。


その様子は・・・お伽話(フェアリーテイル)に出てくるような伝説の『魔王』のようでもあった。


だが、次の瞬間、


ブワッ!!


狐耳の少女を中心として、まるで魔力が着火して燃え広がるように、真っ白な色が街中へと広がっていったのだ。


『?!』


その瞬間、町の中からは喧騒が消え、辺りからは巨大生物の鳴き声しか聞こえなくなる。


・・・そんな中で


「じゃぁ、本気でやっちゃうね?お姉ちゃん!」


周囲を取り巻く空気のことなどいざ知らず、と言った様子で、狐耳の少女が隣りにいた白っぽい服を身につけた金髪碧眼の別の女性に問いかけた。


「ちょ、ちょっと待って・・・私も念のため全力出すから」


『姉』と呼ばれた女性は、そんな少々頼りない言葉を口にした後、眼を瞑り、


ブワッ・・・


真っ白な光を放つ狐耳の少女と相反するような、真っ黒な色を身体から漏れ出させ始めたのだ。


そんな2人の様子に、隣に立っていた魔王が呟く。


「勇者と魔神・・・」


「勇者・・・魔神・・・?」


魔王の言葉を、どこかぼんやりとした様子で繰り返す犬耳の少女。

つい先程まで命の危険に接していたというのに、彼女の表情に恐怖の色が無かったのは、憧れの魔王と手を繋いでいたためか・・・それとも、目の前の2人に何か思うところがあったからなのか・・・。


「ルシア?準備出来たわよ!」


「それじゃ、いくねー?」


そして狐耳の勇者は、笑みを浮かべたまま、空に手を向けて、指を鳴らす素振りを見せながら言った。


「どーんっ!」


カスッ・・・


・・・慣れていないためか指は鳴らなかったが、その代わり、


ドゴォォォォン!!


巨大生物は、体内から吹き飛ぶようにして、木っ端微塵に吹き飛んだのである。

・・・今日、ルシア嬢の部屋に、いつもおやつを取られている復讐をしようと、押しかけてみたのじゃ・・・。

するとそこには、何やら黒い粉の入った袋を持ったまま息絶えていた(?)ルシア嬢の無残な姿が・・・。

・・・言っておくが、妾が()ったわけではないぞ?


死体の近くにはダイイングメッセージが残されておったのじゃ。


『これ、ココアじゃない・・・』


そして地面に伏せるルシア嬢の口と手には・・・ベッタリと黒い『コーヒーの粉』が付いておったのじゃ。


・・・あれじゃな。

死因は、急性心ふz(ry


・・・その後で、ココア入りクッキーを作らされましたとさ、なのじゃ。

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