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14.12-37 無力?37

 マリアンヌは自分自身のことを、性悪魔女だと自己評価していたようである。臭気魔法を使って人を騙し、富と名声を得る、悪い魔女だ。いつか、遠い未来で、自滅の瞬間がやって来るかも知れない……。そんな予感は持っていたものの、まさか自分よりも悪そうな魔女(?)に捕まって最期の瞬間を迎えることになるとは、夢にも思っていなかったようである。


「ふむふむ……やはり、別の大陸の魔女とはいえ、身体の構造は人と同じようですね」


「……カタリナ?」


「あぁ、すみません。少し考え事をしてました。確かに、体内で生成する魔力の量と、漏れ出ている魔力の総量を比べると、漏れ出る魔力の方が多いので、慢性型魔力欠乏症と言えるようです。まぁ、生成と漏出の差は微々たるものなので、その日の体調によっては、プラス収支になることもありそうですね」


 カタリナは、ベッドに寝かせたマリアンヌの身体を触診しつつ、獣耳で魔力の流れを()()()()()()()、病状を確認した。獣耳が無ければ出来ない、彼女らしい診察の仕方だ。


 そんな彼女の指が、仰向けになったマリアンヌの背中に触れる度、マリアンヌはゾワゾワと産毛を逆立てていたようである。カタリナの手の皮膚は、回復魔法や薬品の影響を受け、ボロボロになっており、触れると細かなヤスリのようにざらついていて、マリアンヌとしては少し痛かったのだ。しかし文句は言えず……。マリアンヌはギュッと口を一文字に結びながら、羞恥と痛みと恐怖に耐えているようだった。


 しかし、ワルツに、マリアンヌの反応に気付いた様子はない。


「それで、どう?治りそう?」


「症状が出ないようにする事は可能ですが、一つだけ問題があります」


「問題?」


「魔力欠乏症は、未だ原理がよく分かっていない病気です。特に漏出の原因が分かっていないのです。そのため、対症療法として、魔力の生成量を増やすという処置を行うことになりますが、そうなると、身体から常にある程度の魔力が漏れ出ることになるのです。重症であればあるほど、そして魔力を生成すれば生成するほど、たくさんの魔力が漏れることになります」


「つまり、常に魔力を垂れ流しながら、生活を送らなきゃならなくなる、ってことね?」


「まぁ、多少魔力が漏れ出ていたとしても、普段の生活の中で気付く人はそう多いわけではありませんので、問題にはならないと思います。問題があるとすれば、冒険者や兵士など、気配を消さなければならない職に就いている方の場合です。意識を集中させて探されてしまうと、たとえ物陰に隠れていたとしても気配をハッキリと捕らえられてしまいますから」


「あぁ、なるほど……」


 この世界の住人は、それほど魔力に敏感というわけではない。しかし、まったく感じないというわけでもなく、意識を集中させれば、ある程度、魔力の存在を感じ取ることは出来るのである。


 ちなみに、ルシアのように魔力の塊のような人物が近くにいた場合は、意識を集中させずとも知覚することは可能である。彼女からは、常時、莫大な魔力が流れ出ているので、大音量のサイレン発生装置を頭に乗せているようなものだからだ。


 治療を行うことによって、マリアンヌも似たような状況になる可能性が高かった。ルシアの場合は、魔力を隠蔽する専門のスタッフ(?)が側に付いているので問題にはならないが、マリアンヌにも同じ対応をする、というわけでにはいかず……。魔力を漏出させながら生活を行わざるを得なくなるのである。


 そうなると、彼女の場合は、一つ、大きな問題が生じてしまう公算が高いと言えた。


「マリアンヌの場合は、お姫様だから、暗殺の危険にさらされる可能性が高くなるってことよね……」


「暗殺されるかどうかは分かりませんが、護衛の方々は大変になるでしょう。姿だけでなく、魔力も隠さなければならないんですから」


 と、カタリナが相づちを打ったところで、ワルツはふと何かを思い出す。


「そういえばリアはどうしているの?リアもお姫様だったわよね?」


 リアは、カタリナと共に勇者パーティーに所属していた魔法使いで、カタリナが初めて治療した魔力欠乏症患者である。彼女はエンデルシア王国の王女であり、立場的にマリアンヌと似ていると言えたので、ワルツは気になったらしい。


 そんなワルツの問いかけに、カタリナは言った。


「リアは別に良いんです。彼女は強いので」


「あぁ、うん。そうだったわね……」


 リアはカタリナのライバル。そんな彼女が弱いはずも無く……。下手をすれば一国を一人で滅ぼせるくらいには力を持っていた。襲われたところで、彼女が命を落とす可能性は、ほぼゼロである。


 しかし、マリアンヌはどうか……。


「まぁ、マリアンヌも強いから大丈夫じゃない?物理的にだけど……」


「……物理?」


「えぇ、実はね——」


 と、今日の授業であった出来事を説明するワルツ。そんな彼女の口から言葉が一つ漏れる度に、マリアンヌの目からは精気が失われていったのだが、やはりワルツがマリアンヌの反応に気付いた様子はなかったようだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 2906/2906 ・お久しぶりの、やってますねえ [気になる点] なんでしょうねこの、もっと強い奴が出てきてショボンするの [一言] ゾワゾワ!
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