14.12-35 無力?35
後ろの方で"紹介"となっていたのを、"説明"に変えたのじゃ。
マリアンヌ殿は、カタリナ殿と初対面、というわけではないからのう……。
ミレニアの魔法を見て、驚く者はいない。むしろ、皆、納得した様子だった。魔法を使ったのがミレニアだということだけで、皆、その魔法を"そういうものだ"と認識したのである。常識人として認知されていた彼女の人徳だと言えるだろう。
しかし、コルテニアだけは違った。彼女は唖然とした様子で固まって……。そして、自分のバングルを見て、更に固まった。
ピシッ!
バングルが罅割れて、欠けてしまったのである。恐らくは、機能も失われてしまったことだろう。
「そ、そんなことが……」
「えっ……えっと……すみません!つい、的に虫が付いているのを見たら、反射的に魔法が出てしまって……」
「あ、いえ、何も問題はありません。今は、皆さんの魔法を見せて貰う授業をしているのですから〜……」
コルテニアの表情をうかがい知る事は出来なかったが、彼女は表面上、何も無かったかのように取り繕って、授業を継続することにしたようだ。
「次の人〜」
そう言いつつも、コルテニアの興味は既に授業から失われ、彼女は生徒たちの採点をしつつも、何かを考え込んでいる様子だった。帽子が深く被られたその視線の行き先をうかがい知る事はできなかったが、恐らくは一人の女学生へと真っ直ぐに向けられていたに違いない。
◇
結局、授業は、皆の魔法の披露が一回りしたところで終わりを迎えた。中でも特に魔力が強かったのは、魔法科の学生たちで、逆に魔法が一番弱かったのは、騎士科の学生たちだ。皆、得意な分野を伸ばすために学院へと入学してきた影響か、科によってかなり偏りがでていたようである。
そして、放課後がやって来る。
ワルツたちが抱える予定は2つあり、そのうち1つは、マリアンヌのことをカタリナに診せるため、ミッドエデンへと行くというタスク。そして、もう1つは、強くなりたがっているミレニアとジャックに、ルシアがオートスペルの使い方を教えるというタスクだ。
その内、前者は、ワルツとマリアンヌだけで行動すれば良く、後者はルシア1人だけで、事足りると言えた。ゆえに、ワルツたちは、2つのグループに分かれることになる。ワルツはコミュニケーションに難があるので、未だあまり親しいとは言えないマリアンヌと2人だけで行動することができず、誰か付き添いが必要だったのだ。ルシアについては、単独行動をさせると、世界が滅びる可能性があったので、誰かが側についてブレーキを掛ける必要があると言えた。
具体的には、ワルツのグループに、アステリアが同行することに……。そして、ルシアのグループには、テレサ、ポテンティアの2人が付くことになった。
というわけで、視点をワルツたちのグループに移す。
早々に予習を終わらせて村へと戻ってきたワルツたちは、急いで自宅地下にある転移魔法陣へと向かった。現在時刻は15時過ぎ。しかし、ミッドエデンとは時差があるので、今頃ミッドエデンは21時頃になっているはずである。普段のカタリナにとっては、すでに営業終了(?)の時間で、もう少しで眠る時間のはずだ。急がなければ、明日、再度、訪問することになるだろう。
そして、自宅に辿り着いたところで、ワルツはふと気付く。
「あ゛っ!転移魔法陣が使えないのを忘れていたわ!」
「「えっ?!」」
そう、ミッドエデン直通の転移魔法陣が使えなくなっていたことを、彼女はすっかりと失念していたのだ。
「ごめん。ルシアたちが帰ってくるまで待つことになるかも知れない……」
むしろ、自力で飛んでいった方が早いだろうか……。ワルツはそんなことを考えながら、自宅の扉を開けた。
するとそこには——、
「おや?お帰りなさいませ〜、お姉様〜?」
——と口にするコルテニアもといコルテックスの姿が……。
「……その格好でいるときは、コルテニアって名乗るんじゃないの?」
「いえいえ〜、仮面を被るのは生徒たちの前だけで十分です。私生活まで仮面を被るのは御免被りますよ〜?」
「あ、そう……」
いったいどこからが私生活で、どこからが公生活なのか……。ワルツが内心で首を傾げていると、コルテックスとは別の影が、キッチンの方からスッと出てくる。
「お邪魔しています。ワルツさん」
カタリナだ。どうやら、コルテックスが連れてきたらしい。
「あら、こっちに来ていたのね?カタリナ」
「えぇ、面白そうな実験d……興味深い患者がいると聞きまして、来てしまいました」
「あ、うん……。患者が怖がるから、実験台とか、実験動物とか、内心で思ってても、口に出して言わないようにね?」
カタリナがギリギリで口を噤んだというのに、その続きをわざわざ口にしてから……。ワルツは後ろにいたマリアンヌのことをカタリナに説明しようとした。
しかしここで、思わぬ事態が生じることにになる。ワルツが後ろを振り向くと、マリアンヌが顔を真っ青に染め上げながら、一歩、二歩と、後ろに下がり始めたのだ。
そんな彼女の表情は真っ青で、視線は真っ直ぐにカタリナへと向けられていた。それは紛れもない恐怖の色。壁際まで追い詰められるように後ずさった彼女は、そこでようやく口を開いてこう言った。
「な……何なんですの……この方は……?!」




