14.12-34 無力?34
最後の言い回しを修正したのじゃ。
ルシアが的の前に立つ。内容は入学試験と同じで、離れた場所にある的に向かって魔法を撃つというシンプルなものだ。属性などは関係無く、好きな魔法を撃って良いのだという。
そんなコルテニアの説明に、特別教室の学生たちは、その表情をいよいよ真っ青に染め上げた。何の制限も無くルシアが魔法を放てば、訓練棟どころか、自分たちにも被害が及ぶと直感したのだ。
しかし、コルテニアも、ルシアも、そして時間も何一つ止まらない。ルシアが片手を上げ、的に狙いを定めた。生徒たちにとっては、死神が鎌をもたげたように見えていたに違いない。
最早これが今生の終わりか……。などと、一部の学生が生を諦めた、その時、不意にコルテニアが口を開く。
「あぁ、そうそう〜。遠慮せず、全力で撃って下さいね〜?」
ただでさえ、危機的状況だというのに、火に油を注ぐ——いや、ウランに中性子をぶつけるような発言を口にしたのだ。さすがに、許容できなかったのか、アステリアやマリアンヌでさえも顔を青くした。例外は、ワルツとテレサ、そしてポテンティアの3人くらいのものだ。
「任せといて!」
そして——、
ピカッ……
——ルシアの手元から眩い光が放たれた。彼女が得意とする光魔法だ。
しかし、皆が想像していたものとは随分と異なっていたようである。ルシアの光魔法は、ピカッ、と光るだけで、それ以上の効果は無く、的が壊れることも、崩れることも、蒸発する事も無かったのだ。例えるなら、かなり強烈な懐中電灯で的を照らす程度のもので、ワルツたちも訝しげな表情を見せていたようだ。
だが、中でも一番納得がいっていなかったのは、ルシア本人である。
「あれ……全然、魔法が出ない……?おかしいなぁ……」
と言いながら、的に向かって2発目の光魔法を放とうとするルシア。ところが結果は同じで、人畜無害(?)な魔法しか出ない。
いったい何故なのか……。事情を知っていそうなコルテニアに対してルシアが視線を向けると、コルテニアは、深く被った帽子の奥で、喜々の色を見せながら、なぜルシアの魔法がまともに発動しなかったのか、説明を始めた。
「実験は大成功です。新型の魔道具が完成したのですよ〜」
「新型の……魔道具?」
「魔法を無効化するという魔道具で、強さを本来の1京分の1にしてしまうというものです。ジャミングですよ〜?」
「ふーん」
「ですが〜……実は、ルシアちゃ……ルシアさん向きではありません」
「……え゛っ」
「これはダンベル。そう、ダンベルのようなものなのです。これを付けてずっと魔法を使い続ければ、段々と魔力が鍛えられて、魔法の威力が強くなっていくのですよ〜」
「それは……確かにいらないね」
コルテックスが手に持つ腕輪を見て、ルシアは首を横に振った。ただでさえルシアは魔法の強さに困っているというのに、さらに強くなると言われれば、到底受け入れられるものではなかったのである。
「ルシア……さんには、このバングルの知見を生かして、そのうち、ちゃんとした魔法制限用のバングルを作りますからね〜。あぁ、私ではなくて、私の知人が〜、ですけれど〜」
「あぁ、うん。ありがとう。コルちゃん」
ルシアが礼を口にすると、コルテニアは「いえ、私はコルテックスなどという名前ではなく……」などと言っていたようだが、それが墓穴になっていることに彼女は気付いていない様子だった。ルシアが言ったのは飽くまで"コル"という名前だけ。一言も"コルテックス"とは言っていないのだから。
そして、ルシアの番が終わり、次にミレニアの番がやって来る。その頃には、生徒たちも大分落ち着いてきていて、ルシアの魔力を完全に抑え込んだコルテニアに対し、熱い視線を向けていた者や、涙ぐんでいた者までいたようである。
ちなみに、ミレニア自身は、それほど取り乱してはいなかった。ワルツたちに慌てた様子が無かったので、危険は無いと冷静に判断していたのだ。まぁ、コルテニアとコルテックスが同一人物であることに気付いていたかどうかは不明だが。
「では次〜。ミレニアさん」
「はい」
そしてミレニアが同じように的の前に立つのだが……。ここでイレギュラーが発生する。
カサカサ……
的の上で、何やら黒い物体が動いていたのだ。それもゆっくりではない。相当な速度で、だ。
その瞬間——、
「殺ッ!」
ズドォォォォン!!
——ミレニアの手から、強烈な冷気のビームが放たれ、的に大きな穴を開けてしまったのである。
光狐「そうそう、魔法って言ったら普通、あんな感じだよねー」




