14.12-31 無力?31
???「ついに、私の存在すらも、認識されなくなったのね……」ずーん
ルシア・テレサ「「えっ」」
昼食時。
特別教室の生徒たちは、2つのグループに分かれていた。食堂に行くメンバーと、教室に行って弁当を食べるメンバーの2つだ。ワルツたちは言わずもがな、後者のグループである。というより、弁当を作っていていたのは、ワルツたちだけだった、と言うべきか。
授業が終わって、解散する際、クラスメイトたちは、ワルツたちの方を向いて、何かを言いたげな表情を向けていたようだが、結局、誰も何も言わず……。殆どの者たちは食堂へと向かったようだ。
そんな中で例外的に、ミレニアとジャックの2人だけは、ワルツたちと共に教室で昼食を摂ることになった。というのも、2人とも、ワルツたちと昼食を共にするため、わざわざ弁当を用意してきたのだ。ちなみに、自分で作ったというわけではなく、朝食を食堂で食べた際に、ついでに弁当を注文して、それを持ってきていたらしい。
2人は、今や親しい友人と言える間柄になっていたポテンティアを挟むように歩いていた。そんな3人組の前には、アステリアとマリアンヌがいて、そのさらに前を、ルシア、テレサ、それにワルツの3人が歩いて行く。
もう少しで食堂を通過し、校舎側からやってくる学生たちが見えてくる、といったところで、ジャックが何やら思い出した様子で、徐にポテンティアへと話しかけた。
「そういえばな、ポテ。寮でお前たちのことが噂になっているぞ?」
『はい?僕たちの噂、ですか?』
「あぁ。実は、最近まで外で活動していた学生が、昨日になってかなり返ってきたんだが、そいつらがどうもお前たちのことをあまり良く言っていないらしくてな……。まぁ、何か言われても気にすんな。訳が分からないことを行ってるやつがいたら、俺があとで締め上げておくからな!」
朝、ワルツたち一行は、上級生と思しき者たちに待ち伏せを受けた訳だが、彼ら以外にも、ワルツたちに対して、ネガティブな感情(?)を抱いているものがそれなりにいるらしい。
対するポテンティアとしては、噂を立てられる覚えがない訳ではなかったこともあり、自分たちがどんな噂をされているのか気になったようである。
『ちなみに、どのような噂をされているのでしょう?』
ポテンティアが問いかけると、ジャックは「それは……」と言いながら、険しそうな表情を浮かべる。あまり、ポテンティアたちには聞かせたくない内容だったらしい。
一方、噂を聞いていたのは、ジャックだけでなく、ミレニアも同じだったようだ。言い渋るジャックに変わって、ミレニアが口を開く。
「……見た目を悪く言う噂よ?」
『あぁ、なるほど。所謂、人種差別的な内容ですね』
ポテンティアが遠慮することなく推測を口にすると、ジャックとミレニアが、ギョッとしたような顔になる。
だが、ポテンティアに、他の者たちの反応を気にした様子はない。そこにいるメンバーで、見た目を気にしている人物はいないからだ。……まぁ、約1名は、幼く見える見た目を気にしていると言えなくなかったが、人種差別の問題とは異なるので、例外である。
『大した問題ではありません。多分、この世界にいる人口の割合からすれば、獣人の方が多いと思いますし、彼らが能力的に人に劣った存在というわけではありませんから。そこは、お二人ともがご存じの通りです』
「まぁ……な。さっきの授業を見ていた奴なら、絶対に喧嘩を売ったりはしないだろうな……」
「えぇ……。知らずにルシアさんなどに絡んだら、悲惨な目に遭うでしょうね……」
ジャックとミレニアが、しみじみと頷いた——そんな時だ。先頭を歩いていたワルツたちの前に、学生の集団が立ち塞がる。上級生の集団だ。どうやら、ジャックとミレニアの発言が、フラグになったらしい(?)。
上級生たちの表情に浮かんでいたのは、困惑と警戒の色だった。もしかすると、どこかで——例えば公都などで、ルシアたちの魔法を見たことがあるのかも知れない。それでも一行の前に立ち塞がろうとしたのは、単なる興味本位の行動ではなく、何か特別な理由があったからなのだろう。
そんな上級生の姿を見て、ルシアは思わず立ち止まろうとするが、その隣にいた人物が彼女の手を引っ張った。テレサだ。
彼女は上級生たちの姿を一瞥すると、面倒臭そうに溜息を吐いた後で、パチンッと指を鳴らした。するとその瞬間、上級生たちの反応が変わる。
「えっ……?」
「き、消えた?!」
「転移魔法か?!」
どうやら上級生たちには、一行の姿が見えなくなってしまったらしく、彼らはキョロキョロと周囲を見渡して、一行の姿を探し始めた。テレサの幻影魔法の効果だ。
結果、テレサは何事も無かったかのように、ルシアの手を引いたまま、上級生たちの隣を素通りしていった。足音を立てても、あるいは「ふふん、探したって無駄なのじゃ」と独り言を口にしても、上級生たちに気付いた様子は無い。
その様子を後ろから眺めていたポテンティアは、ポツリとこう口にした。
『まぁ、接触すること自体が困難なので、問題に発展することは無さそうですけれどね』
そんなポテンティアの言葉に、ジャックとミレニアには反応が返せず……。2人は、途方に暮れる上級生たちの姿をぽかーんと眺めながら、テレサたちの後ろを付いていくしかなかったようだ。




