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1.1-27 村21

その後。

色々な意味での一番風呂に浸かったルシア。


ちなみに、お湯張りは、セルフサービスで……。

彼女は水魔法を使って浴槽に水を張ってから、それに火魔法を掛け、お湯に変えたようである。


その際の彼女の一言は、こうだった。


『あっ……そっか。お風呂に入りたかったら、魔法を使えば良かったんだね……』


どうやら、ルシアは、今の今まで、小さな魔法が使えない自分の力の使い道について、考えたことが無かったようである。


なお、その際、彼女がワルツと入浴したさそうにしていたのは、言うまでもないだろう。

そして、そんなルシアに対し、ワルツが何と答えたのかについても……。


それからしばらくが経ち。

ルシアは顔を真赤にしながら、満足げな表情で、浴室から出てきた。


そして、身体を風魔法で拭き上げ、服を着ようとした所で……。

彼女は一言、こう口にする。


「……臭っ!」びくぅ


「まぁ、そりゃそうでしょうね……。向こうの村でも、こっちの村でも、しばらく着替えしてなかったからね……」


「ちょっとこれ、洗濯しないと着る気になれないかも……」


そう口にして、一糸まとわぬまま、服を持って、再び浴室へと戻っていくルシア。

どうやら彼女は、浴槽のお湯を使って、洗濯をするつもりのようだ。


その様子を眺めながら、ワルツは頭を悩ませていた。


「(さーて、どうしたものかしら?服を買おうにも、売ってる所、無いのよね……)」


ようするに彼女は、下着を含めた服を1セットしか持っていないルシアの今後の事を考えていたのである。


ちなみに、村人たちが服を調達する場合は、兄弟たちの古着をそのまま使いまわすか、知り合いから譲り受ける、というパターンが殆どだった。

中には、町へと出かけた際に古着を買ってくる者や、布だけを買ってきて自分で作る者もいたようだが……。

いずれにしても、手元に布がない上、知り合いと呼べる者が、狩人と酒場の店主くらいしか居なかったワルツたちには、村人たちと同じような方法で服を調達するのは難しい話だった。


尤も。

ワルツが服を譲って欲しい、と村の中を巡れば、譲ってくれる者がいる可能性も否定はできなかったが……。

人と接した経験があまりない彼女にとって、その選択肢は、心的な負荷があまりに高すぎて、選びようがなかったようである。


「(無難なのは、町に買い出しに行くことかしらね?それに……町に出かけたら、服の他にも色々と買わなきゃならないものがあるし……)」


そんな事を考えながら、机の上にあったランタンの光を見つめるワルツ。

彼女の視線の先では、ランタンの炎に重なって、昨日今日にあった出来事が、ふわりふわりと浮かび上がってきていたようだ。


と、彼女が考えを巡らせていると――


「ねぇ、お姉ちゃん?簡単に服を乾かす方法って無いかなぁ?私の火魔法じゃ、服を燃やしちゃいそうな気がして、ちょっと怖んだよね……」


ルシアが濡れた服を持って、すっぽんぽんのまま、戻って来たようである。


「ちょっと難しいわね……。乾燥機があればすぐなんだけど、簡単には作れないからね……。まぁ、風通しの良い所に干しておけば、そのうち乾くでしょ。……でも、ちょっと待ってね?」


「うん?」


ワルツは、自身の言葉を聞いて首を傾げていたルシアから濡れた服を受け取ると……。

それを空中に浮かべて――


「えーと?ギュッ……ってところかしら?」


重力制御システムを使い、服の水を絞ったようである。


その結果――


「はい、どうぞ?」


「うわっ……殆ど、乾いてる……」


服の繊維の隙間に入っていた水分子が、重力の力場に引っ張られて外へと抜け出して……。

ルシアの服は殆ど乾いてしまったようである。

言い換えるなら、超重力を使った超強力脱水、と言ったところだろうか。


「まぁ、完全ではないけど、これで干しておいたら、1時間くらいで、完全に乾燥するんじゃないかしら?」


「えっと……ありがとうお姉ちゃん」


思った以上に乾燥していたためか、戸惑いながら頭を下げるルシア。


そんな彼女に対し、ワルツはこんな提案を口にした。


「で、ルシア?ちょっと相談なんだけど……明日、町に出かけない?」


「町?」


「そっ、町。買い物に行こうかなーって思って。ルシアの新しい服を買いにね?」


その瞬間――


「えっ?!服を買いに行くの?!」キラキラ


と眼を輝かせて、尻尾を振りながら、ワルツに迫るルシア。

どうやら彼女としても、服を買いに行きたかったようである。

……それもワルツが想像していた以上に。


「え、えぇ……。そんなに服が欲しかったの?」


「えっとねぇ……服が欲しいのは欲しいんだけど、それよりも、沢山のお洋服があるお店に行って、色々と見て回れるかもしれない、って方が楽しみかなぁ?」ぱたぱた


「そうことね……。まぁ、お金はあるから、ルシアの好きな服を探してきましょ?」


「うん!」


そう言って、嬉しそうな表情を浮かべると――


ポフッ……


と、椅子に座っていたワルツに、頭から抱きつくルシア。

その際、彼女がワルツの胸に頬ずりをしていたところを見ると……。

よほど買い物に行くのが嬉しかったようだ。


ただ、その直後。

ルシアは何故か急に難しそうな表情を浮かべると……。

ワルツに抱きついたまま、こんな言葉を口にした。


「……匂いが……しない……?お姉ちゃんも、私と一緒に着替えてなかったはずなのに……」くんくん


「まぁ……なんていうか……そういう体質だからね?」


「えっ……?」


と、ワルツの言葉の意味が分からず、全裸のままのルシアが首を傾げた――そんな時だった。


コンコンコン……


「失礼するぞ?」


家の扉をノックしたものの、中の人物の返事を聞かずに、来客が家の中に入ってきたのだ。

猫の獣人の狩人である。

おそらく彼女は、酒場の店主に、ワルツたちが工房を構える、と言う話を聞いて、2人の様子を見にやって来たのだろう。


まぁ、タイミングは言うまでもなく最悪だったが。


「…………」


扉を開けて家の中を見たら、ワルツに抱きついている全裸の狐娘がいて……。

思わず閉口してしまった様子の狩人。


それから彼女は、なぜか泣きそうな表情を浮かべながら、回れ右をしてワルツたちに背を向けると――


「……ふっ。これは失礼した……。続けてくれ……」


何かを勘違いした様子で、その場から立ち去っていこうとしたようである。


彼女がワルツたちを見て何を思ったのかは定かでないが……。

その耳は真っ赤になっていた、とだけ言っておこう。



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