14.12-30 無力?30
「嗚呼……この瞬間を何度夢見たことか……」わなわな
木剣を手にしたテレサは、感動のあまり、肩を震わせた。積年の恨み(?)が、今、遂に果たされようとしていたためか、興奮を抑えきれないらしい。
「ふっふっふ……今日という今日こそ、ボッコボコにしてやるのじゃ!」
テレサはグググと木剣を握り締め、ジャックが打ち合いの合図を口にする瞬間を待った。
それから数秒後——、
「……始めっ!」
——いよいよテレサが待ちに待った瞬間がやって来る。
「では、ア嬢!覚悟するが良い!」
テレサはそう言って、木剣を振りかぶった。その剣先に揺れも迷いも無い。
対するルシアは、テレサの言動に付いていけず、戸惑いが隠せない様子だった。振り上げられたテレサの木剣を見て、慌てて受けの体勢になる。そして、ギュッと目を瞑りながら、自身の木剣に衝撃が伝わるのを待った。
ところが——、
しーん……
——いつまで経っても衝撃は伝わってこない。5秒、10秒と経つが、ブンブンという音が繰り返し聞こえてくるだけで、テレサはまったく打ち込んで来なかったのである。
打ち込みが始まってから15秒後。ルシアは意を決して薄らと目を開けた。するとそこには——、
「あ、あれ?おかしいのう……」ブンブンッ
——と、ルシアが持った木剣に自身の木剣を叩き付けようとしているテレサの姿が。
どうやら、何かトラブルが生じているらしい。テレサは木剣同士がぶつかる直前で、寸止めしている様子だった。
とはいえ、ルシアが避けていたわけでもなければ、オートスペルによって自動的に防御していたわけではない。テレサの身体に何らかの力が働いて、彼女は木剣を振り下ろせなかったのだ。
「くっ!何故……何故なのじゃっ!何故当てられぬっ!」ブンブンッ
「……何やってるの?」じとぉ
「う、打ち込みをしておる……つもりなのじゃ!」ブンブンッ
テレサを見る限り、必死な様子だった。ふざけているわけではないのは確かだ。
そんな彼女の様子を見て、ルシアは推測する。
「もしかして、テレサちゃん、私の事を攻撃できないように制限されてるんじゃないかなぁ?」
ルシアがテレサのことを攻撃しようとした時は、テレサのリミッターが一時的に外れて、彼女は本来の実力を発揮できたのである。それとは真逆で、テレサがルシアのことを攻撃しようとすると、テレサの身体にリミッターが掛かり、ギリギリのところで攻撃を止めようとするのではないか……。ルシアはそんな予想を立てたらしい。
結果、彼女は、にやぁ、と笑みを浮かべてから、木剣を構えるのを止めて、胸を張った。
「残念だねぇ?テレサちゃん。せっかくやり返すチャンスだったのにねぇ?」ニヤニヤ
「…………」イラッ
ゴンッ
「痛っ?!」
「あー、当たらないのー。おかしいのー」ブンブンッ
「ちょっ?!今、当ててたじゃん!しかも頭に!」
「そりゃ、いくらリミッターがあろうとも、風とかの影響とかで、たまには当たることもあるのではないかの?ア嬢が手を抜くから悪いのじゃ」
「ぐ、ぐぬぬっ!」
と、歯を食いしばりながら、テレサを睨んで、そして渋々といった様子で再び木剣を頭の上に構えるルシア。しかしやはりテレサの木剣は、たったの1回を除いて、ルシアに当たる事はなく……。そのまま打ち込みの時間は終わってしまったのである。
もしも、そんな2人の行動にワルツが気付いていたなら、彼女はこう考えたに違いない。……テレサにルシアの事を攻撃できなくなるような機能は搭載してないのに、なぜテレサは攻撃をしないのか、と。まぁ、その当の本人は、ニコニコと笑みを浮かべるハイスピアの前で何故かへたり込んでいて、今にも泣きそうな表情を浮かべていたようだが。
こうして、特別教室における初めての剣術の授業は、無事に(?)終わりを迎えて、昼休みがやってきたのである。




