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14.12-28 無力?28

 担当教師であるライアンがおらずとも、生徒たちは一心不乱に剣術の授業に取り組んだようである。ただし、いきなり打ち合いをするようなことは無かった。もしもルシアの相手をすることになれば、次は自分がライアンのようになってしまうからだ。


 具体的には、騎士科の学生たち——つまり"熟練者コース"の者たちを中心にして、"ひよこコース"と"たまごコース"の学生たちに剣術の基礎を教えるという形になった。とはいえ、難しい話ではない。誰にでも出来る素振(すぶ)りがメインだ。何十回、何百回と、真っ直ぐな剣筋になることを目指して、ひたすらに素振りを続けていく。


 この時、その場にはハイスピアもいたが、彼女は、ニコニコとした表情を浮かべながら、ユラユラと揺れていて、監督者として機能していなかったようである。騎士科(たいいくかいけい)の教師であるライアンが、薬学科(りけい)の学生に打ちのめされたという事実が、ハイスピアには受け入れがたかったらしい。


 まぁ、それはさておき。流石に30分以上、素振りだけを繰り返していると、段々と集中力が切れ始めたり、体力の限界を迎えたり、あるいは腱鞘炎一歩手前の状態になる者が現れ始める。もういい加減、素振り以外のことをしてもいいのではないか……。ルシアと打ち合うことになるのは怖かったものの、流石に精神的な限界が近付いていたと言えた。


 それはルシアたちも同じだ。


「もう素振りは良いんじゃないかなぁ?」ブォンブォン


「……ア嬢はまだ良いじゃろ。木剣の重さを感じぬゆえ。……っていうか、妾……ライアン殿から授業を見ておるだけ良いと言われたような気がするのじゃが……」ブォンブォン


 ルシアがテレサと会話しながら、そんな言葉を零す。すると、今度は逆に、周りの生徒たちが、何故かやる気に満ちた様子で、木刀を握る手に力を込めた。今、素振りを止めれば、ほぼ確実に、ルシアとの打ち合いに発展するからだ。


 それからさらに時間が進み、ライアンが退場してから45分ほどが経過した頃。あと15分ほどで昼休み、といった時間になる。それまで皆、素振りだけをひたすら繰り返していたせいか、一部から悲鳴や呻き声のような声が上がり始めていた。まぁ、それでも、誰一人として、木剣を止める事は無かったようだが。


 監督役を買って出ていた騎士科の学生たちも、これは拙い、と危機感を露わにしていたようである。素振りではなく、別のメニューにすべきか……。しかし、いったい何をさせれば良いのか……。たったの残り15分が、彼らにとっては永遠の時間のように感じられていたようだ。


 そんな中で、木剣を止めて、騎士科の学生たちに声を掛けたのはポテンティアである。彼も延々と素振りだけを繰り返す事には、そろそろ飽きてきていたらしい。


『ジャックさん、そろそろ別のことをしては如何でしょう?皆さん、ヘトヘトになっているようです。このままでは怪我人も出てしまうかも知れません』


 対するジャックは、ポテンティアの提案に眉を顰める。


「あぁ……だけどなぁ……」


『ルシアちゃん、ですか?』


「あぁ。本当なら、素振りの後は、工房に別れて打ち合いをする、って授業にしたいんだが……ルシアちゃんがなぁ……」


『それでしたら、ルシアちゃんとテレサ様をペアにすれば良いのです』


「……えっ?」


『テレサ様でしたら、ルシアちゃんから()たれることに慣れていますから』


 と、提案するポテンティアを前に、ジャックは戸惑った。ライアンとの()ち込みの様子を見ていた限り、動きの緩慢なテレサに、ルシアからの打ち込みを受け止められるようには見えなかったからだ。


 しかし、ジャックには、ポテンティアの提案を無碍にすることはできなかった。今ままの授業を続けるのは拙いと思っていたことも理由の一つ。しかし、何より、ジャックには、ポテンティアが冗談で危険な提案をするとは思えなかったのである。


 結果、彼は、他の騎士科の学生たちとも話し合い、授業の内容を切り替えることに決める。時間は残り10分と少し。攻守を順次交代しながらの打ち合いが行われることになった。


 組み合わせは適当。殆どの者たちは、気が合う者たち同士でペアを組む。例外は、ルシアとテレサのみ。彼女たちの打ち合いは、ポテンティアの指示通りに強制で、騎士科の学生たちによる監視の下、行われることになった。というより、クラスメイトたち全員の視線を集めていた、と言うべきか。


 そして、ルシアとテレサが相対する。ルシアが打ち込む側、テレサが打ち込まれる側だ。


「木剣、壊れないかなぁ?」


「むしろ、木剣を壊さぬ程度に打ち込むべきではなかろうか?」


「んー……自信が無いから、結界魔法を掛けて補強しておくね?」ブゥンッ


「お主、人の話を聞いておらぬじゃろ?」


 2人のそんなやり取りを聞いていたジャックたちは、ギョッとしたような表情を浮かべる。固い木剣が壊れるほど打ち込むなど、常軌を逸した発言に他ならないからだ。打ち込む側も打ち込まれる側も、ただでは済まないのは明らか。ここに来て、ジャックたちは、自分たちの判断が間違っていたのではないかと心配に襲われてしまう。


 ゆえに、ジャックには、開始の合図を口に出来なかったわけだが……。またしても彼は、ポテンティアに背中を押されることになった。


『大丈夫です』


「ほ、本当か?」


『えぇ、ダメでしたら、その時は、僕も止めに入ります』


 ポテンティアがニコリと浮かべる笑みを見て、ジャックは決断した。


「……では、打ち込み、始めっ!」


???「(……クラスの人数は25人。内、6人が熟練者コース。つまり、19人で2人ずつに分かれる、ってことだけど……私の相手、どこかしら?余っている人、いないんだけど……)」

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