14.12-27 無力?27
ルシアは基本的に非力である。魔法を使わなければ、同じ年の者たちよりも体力は無く、ちょっとした階段でも、すぐに簡単に根を上げてしまうほどだ。
ゆえに、魔力を伴わない彼女の剣撃は、"ものすごく"という形容詞を付けなければならないほどに弱く、誰かが防具無しで彼女の一撃を受けたとしても、小さな打撲の跡が残る程度のものでしかなかった。……ただし、魔力を伴わなければ、の話だが。
ギュゥンッ!!
ルシアは非力である。しかし、魔力を使いこなす彼女は、まさに別人と言えるほどの力を持っていた。重力を操る事の出来る彼女には、自身の身体も木剣も、その質量を好きなようにコントロール出来るのである。しかも好きなタイミングで、どんな体勢にあっても、だ。
ブォンッ!!
物理現象を無視したような加速力でライアンに肉薄したルシアは、彼のことを下から斬り上げた。するとライアンの身体は、重力の軛から解き放たれたかのように、軽々と宙を舞って空高く飛んでいく。それも、凄まじい速度で。
「あーーーーっ?!」
「「「『あー……』」」」
悲鳴を上げながら空の彼方に消えていくライアンを、テレサやポテンティアたちは、そっと見送った。彼女たちには追いかけることはできず、最早どうにもならないからだ。
他のクラスメイトたちに至っては、ぽかーんと口を開けたまま、空を見上げていたようである。たとえ魔法が使える世界だったとしても、人が空の彼方に飛んでいくという光景は、到底理解出来るものではなかったのだ。
そして、ライアンの姿が米粒よりも小さくなり、いよいよその姿が見えなってきた頃。ルシアは空に手を向けて、そして何かを引っ張るような素振りを見せた。するとライアンの身体が逆に大きくなってくる。彼が空から戻ってきた——いや、降ってきたのだ。それも、猛烈な速度で。
「あ゛ーーーーっ?!」
ライアンの悲鳴が一瞬だけ聞こえた後、彼は無残にも地面に叩き付けられた。その出来事に、皆の表情からは一切の色が消える。
叩き付けられたライアンは、当然と言うべきか、一言も喋らない。彼はまるで死んでしまったかのようだった。
その様子を見たルシアは、「うん?」と少し考え込んだ後、周囲の学生たちを見回して、その表情が固まっている様子を一瞥してから、戸惑い気味にポツリと零す。
「え、えっと……す、すごいですねー。先生ー。空をトベルナンテー」棒
「いや、ア嬢?その冗談は無理があると思うのじゃが?というか、ライアン殿は生きているのかの?」
「……そっと下ろしたから問題無い……はずだもん!」
「…………」
ピクリとも動かないライアンの所へと、テレサが駆け寄っていく。そして彼の首に手を当てて、テレサは首を横に振った。
「残念じゃが……生きておるのじゃ」
「それ、残念じゃないし!っていうか、当然だし!」
「いやいや、この先、ライアン殿が、ア嬢に授業を教えなければならないことが可愛そうだと思っての?もしもここで死んでおったなら、ライアン殿は、今日よりも恐ろしい思いをせずとも済んだのに、と思っただけなのじゃ」
「んぐっ……!」
「強く生きるのじゃ。ライアン殿……」
そんな事を口にするテレサに対し、ルシアは色々と言い返したかったようだが、その言葉が見つけられず、顔を真っ赤にしたようである。ルシア自身、テレサの言葉を否定できなかったからだ。
「で、どうするのじゃ?これ」
「……医務室に運んでおく」ブゥン
と、その場から消えるライアンの亡骸(?)。ルシアの転移魔法で医務室まで直行である。
結果、授業を教えるべき者がいなくなり、その場に重い空気が立ちこめることになるのだが……。幸いと言うべきか、その場には落ち着いて行動できる者たちがいたおかげで、学級崩壊に陥ることは無かったようである。
『しかたありませんね……。ミレニアさん。ハイスピア先生を呼んできていただけますか?』
「う、うん!分かったわ!ポテくん!」
『ジャック君。僕には騎士科の授業が分からないので、先生が来るまでの間、代わりに授業を進めてもらえないでしょうか?』
「お、おう……。ポテの頼みなら、しゃぁねぇな……」
といったように、いつでも冷静だったポテンティアの行動によって、授業は自主学習となり、ひとまずは事なきを得た(?)のである。
まぁ——、
「あ、あれ?私は何コースは……?」
——約1人だけ、コース分けが行われなかった者がいたようだが、彼女の話は置いておこう。




