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14.12-25 無力?25

 強風を引き起こしたのは、マリアンヌの木剣だ。人の腕の力とは思えないほどの凄まじい筋力で振り下ろされた木剣が、大きなプロペラのごとく、その場の空気を乱したのである。


 しかし、彼女の剣撃が、ライアンの手にあった木剣に届くことは無かった。もちろん、ライアンが避けたから、というわけではない。


   すぽーんっ


 そんな効果音が聞こえてきそうな様子で、木剣がマリアンヌの手からすっぽ抜けて、飛んでいったのである。マリアンヌの手から離れた木剣は、ブンブンと音を上げながら回転しつつ、宙に弧を描き……。そして——、


   サクッ!


——学院の敷地ギリギリの所に突き刺さった。飛距離は300m弱くらいだろうか。投擲ですら300mの距離を飛ばせる者はいないので、凄まじいを通り越して、化け物じみた腕力だと言えるだろう。


 そんな木剣の行き先を確認した後、マリアンヌはガックリと肩を落としてから、ライアンへと頭を下げると——、


「申し訳ございません。先生。手を滑らせてしまいましたわ。すぐに取ってきますわね!」シュタタッ


——そう言い残して、その場から走り去っていった。それも、かなりの俊足で。


 そんなマリアンヌの一挙手一投足を見ていたライアンは、顔を青く染め上げながら確信する。


「(あ、あれ、俺に当たってたら、いまごろ死んでたんじゃないか……)」


 ライアンはそう考えながら、マリアンヌのコースを決めた。当然、"たまごコース"である。しっかりとした基礎が出来ていない状況で木剣の打ち合いをすれば、そのうち死人が出る気しかしなかったのだ。


 それと同時に、ライアンは思う。……打ち合いでコースを決めるんじゃなかった、と。


 しかし、今更、打ち合いを止めるとは言えず……。彼は仕方なく、次の生徒を呼ぶことにした。


「つ、次!」


「私ね……」


 次の番はミレニアだ。優等生であるがゆえに、彼女のことを知っていたライアンは、内心で安堵した。……次はまともな学生が相手だ、と。


「ミレニアちゃんか」


「えぇ、いつもジャックが迷惑をお掛けしていて、すみません」


「ははっ、礼には及ばないさ!」


 と、ラリーが受け答えしていると、後ろの方で、「お前は俺の母親か!」という声が上がるが、ミレニアは気にしない。


「では、先生。よろしくお願いいたします」


「あぁ!来い!」


 ラリーが構えた様子を見て、ミレニアが動く。


   タッ、タッ、タタタ!!


 常識的な加速度で走り始め、常識的な速さで剣を振りかざし、そして常識的な力の強さで——、


「たぁっ!」


   カコーンッ!!


——木剣を振り下ろす。その、ごく普通の動きに、ラリーは内心、感動していた。彼が生徒に求めていた剣撃とは、今のミレニアのように、ごく普通の剣撃なのである。ただの見極め試験だというのに、命のやり取りをするような殺伐としたものではないのだ。


「んー、やっぱり筋が良いな。熟練者コースでも良いと思うが……どうする?」


 熟練者コースの1つ下である"ひよこコース"を選んでも良い……。そんな副音声を込めて、ライアンが問いかけると、ミレニアはライアンにとって意外な返答を口にする。


「いえ、可能でしたら、"たまごコース"で基礎から学ばせて下さい」


「…………」


 ライアンは思わず閉口した。現状、"たまごコース"には、問題児と呼べる者たちばかりが集中し、カオスと化していたからだ。そんな中に、優等生であるミレニアのことを放り込むような真似をするというのは、どうにも気が引けたのである。


 しかし、ミレニアの決意は固かった。


「先生はもしかすると反対されるかも知れませんが、私はもっと強くなりたいんです。ですから、皆さんと一緒に基礎から学ばせて下さい。お願いします!」


 そう言って頭を下げるミレニアに対して、ライアンは首を横に振れなかった。ミレニアが、必死になっていることも、なぜ必死なのかも、分かっていたからだ。


「……負けず嫌いが悪いとは言わんが、何事も()()()()いつか身を滅ぼすぞ?」


「承知しております」


「……分かった」


 ライアンは折れた。それと同時に、彼は思う。


「(これ、"たまごコース"のカリキュラムをちゃんと考えないと拙いな……)」


 ライアンは、この授業が始まる前まで、適当に基礎を教えておこう、と考えていたのである。騎士になるつもりの無い学生たちに、剣術のセンスがあるとは思えず、高度な事は教えられないと考えていたからだ。


 ところが蓋を開けてみれば、特別教室の生徒たちは化け物揃い。この時のライアンには、適当に基礎を教える、などと言っていられるような余裕は無くなっていた。そんな"たまごコース"に、優等生たるミレニアも参加するとなれば尚更で……。彼女たちが半端な剣術を身につけることになるというのは、ライアンの教師としての沽券に関わると言えたのである。


 これは拙い……。ライアンがそんな事を考えていると、一人の少女が立ち上がった。


「次は私の番かなぁ?」


 ルシアである。


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