14.12-24 無力?24
『では、参ります!』
そう言って剣を構えるポテンティアだったが、どういうわけか、彼はその場所からまったく動こうとしない。身動きすらせず、ただ剣を構えているだけだ。
一体、何をしているのか……。ライアンが怪訝そうに眉を顰めた次の瞬間。ポテンティアは何故かそのまま剣を下ろしてしまった。
その姿を見て、尚更困惑したライアンは、思わず問いかけた。
「どうした?」
対するポテンティアは、にっこりと笑みを浮かべながら、こう言った。
『もう斬ってしまいました』
「は?」
とライアンが口にした瞬間——、
ボトッ……
——彼の木剣が、真っ二つに分かれて地面へと落ちた。
「……は?」
ライアンは、自身の目が信じられなかったのか、口を開けたまま固まった。クラスメイトたちも、彼と同じような反応を見せており、一部の例外を除いて、皆、目を点にしていたようである。
そんな中で、ポテンティアは言った。
『全力を出しても良いと仰っておりましたので、遠慮無く斬らせて頂きました』
ポテンティアが説明するも、静まりかえったその場に喧噪が戻ってくることはない。なぜなら、ライアンもクラスメイトたちも、皆、同じ事を考えて、頭がフリーズしていたからだ。……説明されても全然分からない、と。
対するポテンティアは、皆の様子を見て説明を諦めたのか、小さく溜息を吐いてから、ライアンに対して、こう言った。
『まぁ、手の内を細かく明かすというのは下策ですので、とても速い攻撃をした、とでもお考え下さい。ただ、そうなると、僕の剣の実力がどの程度なのか分からないと思いますので、とりあえず今回は"たまごコース"に所属させていただこうと思います。僕自身、剣技に自信はありませんから、基礎からじっくり、学ばせていただこうと思います。それでよろしいですね?ライアン先生」
まるで、どこかの武士のように、腰に木剣を構えつつ、胸を張って問いかけるポテンティアの姿は、どう見ても初心者には見えなかった。それゆえか、クラスメイトたちは、半数以上の者たちが「お前のような初心者がどこにいる」と内心で思っていたようだ。まぁ、その言葉を口にする者は誰もいなかったようだが。
ライアンの方も、色々と言いたいことがある様子で、口をモゴモゴと動かしていたようだが、彼もその言葉を口から出すことは無かった。もしも本当にポテンティアが純然たる実力で木剣を斬ったのだとすれば、下手な質問は、そのまま侮辱となってしまうからだ。騎士道を嗜むライアンだからこその懸念だったと言えるかも知れない。
「……なるほど。ハイスピア先生が手を焼くわけだ」
ライアンは納得した。普段、ハイスピアが「自信が無い」と口癖のように零しているその理由を。
しかし、自分もそうなるわけにはいかなかったので、ライアンは思考を停止し、ポテンティアの問いかけに首肯する。
「俺には何も教えられんかも知れんが……それでも良いなら、"たまごコース"でいいぞ」
『えぇ、問題はありません。楽しみにしていますよ?ライアン先生』にこっ
と言って頭を下げ、クラスメイトたちの方へと戻っていくポテンティア。そんな彼の一挙手一投足が、やはり初心者には見えず、ライアンは——、
「(さて困ったな……)」
——と、内心で悩んだようである。
ポテンティアがクラスメイトたちの列の中に戻った後、別の人物が立ち上がる。
「えっと……ミレニア様の前に、私でよろしいのかしら?」
今日から特別教室に所属することになったマリアンヌだ。彼女は、ミレニアの顔を見て、その頭がコクリと頷く様子を確認してから、前へと踏み出した。
そして彼女は、ポテンティアと同じように、最初に木剣を手に取り、ライアンの前に立ってから、礼をして……。それから自分の名前を名乗った。
「私はマリアンヌと申します。ライアン先生」
「存じております。皇女殿下」
「えっと……こういう時は、いざ尋常に勝負!と、言えばよろしかったかしら?」
「いえ、そこまで気を入れる必要はございません」
「そうですの?まぁ、いいですわ。私、ポテ様やテレサ様のような真似は出来ませんけれど、剣には自信がありますの。……行きますわね」
マリアンヌがそう口にした次の瞬間——、
ブォンッ!!
——その場に強風が吹き荒れた。
よくよく考えてみたら、19人分も打ち込みを受け止めたら、ライアン殿の腕が疲労骨折してしまうような気しかしないのじゃ……。




