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14.12-23 無力?23

 テレサの所作を見ていたライアンは、その動きを見た瞬間、これはダメだ、と直感した。テレサの身体の動きは緩慢で、一切鍛えられていない者の気だるそうな動き。例えるなら、筋力の衰えた老人のような動きだったからだ。


 そんな彼女は、やはり気だるそうに木剣を構えると、ライアンに対してこう口にする。


「妾はテレサ。お主……えーと、ライアン殿が怪我をせぬよう気は配るが、怪我をさせてしまったら申し訳ないのじゃ。その時は、ア嬢……妾のいm……いや、そこにおる者の力で治して貰うゆえ、安心するが良いのじゃ。では——参る」


 テレサはそう言ってライアンにノシノシと近付くと、上から斬り込んだ。


 対するライアンは、緩慢な動きのテレサを見て、やはりダメだと核心したようだ。剣撃を受けずに、そのまま"たまごコース"に分けようかとすら思ったようだが、ここまで全学生の剣撃を受けてきたこともあり、取りあえずは受けようと考え直したようである。


 ……それが過ちであるとも気付かず。


「とうっ!」


 大して気の入っていない打ち込みが、ライアンの木剣に襲い掛かる。衝撃など、あってないようなものだ。


 ところが——、


「んなっ?!」


——ライアンはテレサの剣を受け止めきれずに、そのまま剣を離してしまう。重すぎたのだ。


 そして——、


   ズドォォォォン!!


——木剣を撃ち込んだとは思えないような、激しい轟音がその場に響き渡る。テレサが撃ち込んだ木剣は、圧倒的な質量を伴うかのように、激しく地面に突き刺さって、その場に50cm程度のクレーターを穿ったのだ。


「ぎゃぁっ?!」ズササッ


 地面が吹き飛んだ衝撃で、ライアンが宙を舞う。まるでトラックに轢かれたがごとく、きりもみ状態になり、10メートルほど放物線を描いた後、そのまま地面にぶち当たった。


 それを見たテレサは「あちゃーっ!ア嬢!」とルシアに対して目配せした。しかし、テレサが目配せする前には、既にルシアの回復魔法がライアンを包み込んでいたようである。オートスペルと回復魔法を組み合わせ、ライアンに衝撃があると、自動的に回復魔法が彼の身体に発動するように準備をしてあったらしい。


「大丈夫……かの?」


 テレサは、柄しか無くなってしまた木剣を手にしたまま、ライアンへと駆け寄り、彼の顔を心配そうに覗き込んだ。そして、ライアンが死んでおらず、その顔に唖然と恐怖の色が浮かんでいるのを見て、彼女は満足げな笑みを作った。


「うむ。さすがはア嬢。ライアン殿はちゃんと生きておったのじゃ。まぁ、妾に剣の才が無いのは確かゆえ、大人しく、"たまごコース"とやらを学ぶことにするかのう」


 テレサはそう言うと、クラスメイトたちの方へと戻っていった。その際、クラスメイトたちが、何か恐ろしいものでも避けるかのように、2つに割れてテレサを避けていたようだが、本人にそれを気にした様子は無い。


 そして、回復魔法を使ったルシアの方にも、テレサを避ける素振りはなかった。まぁ、文句の1つくらいは言いたかったようだが。


「もう、テレサちゃんたら。いっつも私に手加減手加減ってうるさいくせに、テレサちゃん本人は全然手加減しないんだね?」


「いや、妾の意図とは関係無しに、これ以上無いくらい出力制限をされておるではないか。むしろ、制限されておるゆえ、振り下ろす木剣を止める事が出来なかったのじゃ。寸止めするにも力を使うからのう」


「ふーん。それなら、お姉ちゃんかコルちゃんに制限を解除してもらったら?」


「……まぁ、終わったことは仕方がないのじゃ。大した怪我も負ってないゆえ、大丈夫じゃろ。少なくとも、お主のおかげで証拠は無いのじゃ」


 と言って、ようやく起き上がろうとしていたライアンの方を見るテレサ。ライアンは何が起きたのか分からない様子で、テレサの事を見てしばらくボーッとしていたようだが、ようやく我に返ると、皆の前までやってきて——、


「……テレサちゃ……テレサ殿と言ったか。お前が剣を振ると危険だから、授業への参加は無しだ。単位はくれてやるから、見学だけにしてくれ。頼む!」


——と、テレサが予想だにしていないことを口にした。


 対するテレサは、断れば教師を辞めそうなライアンを前に、残念そうに肩を竦めたようである。無理に授業を受けるのは止めておくことにしたらしい。


 こうして、テレサは、剣術の授業を受ける必要が無くなった(?)わけだが、ライアンの受難はこれだけに留まらない。いや、むしろ、始まったばかりと言うべきか……。


『次は僕ですね!』


 テレサの次はポテンティアの番だ。


 彼は剣を取ると、立ち直った様子のライアンの前に立って、名乗りを上げた。


『僕はポテンティアです。よろしくお願いします!」


「お、おう……」


「ところで先生。打ち込みをする前に確認させて頂きたいのですが、本気で打ち込んでも、よろしいでしょうか?』


 対するライアンはポテンティアの所作を見て考えていた。


「(動きに無駄が無い、というわけではなさそうだな……。木剣を構える前に礼儀正しく挨拶をするというところを見る限り、初心者というわけでもなさそうだが……さて、どうする?テレサちゃ……殿のような馬鹿力をもっていないとも限らないからな……)」


 ライアンは悩んだ。ポテンティアの発言が、自惚れから来るものなのか、それとも自分の身を案じての事なのか、判断が付かなかったのだ。


 かといって、判断を見誤れば、さきほどのテレサのように吹き飛ばされてしまう可能性もある……。そう考えた後で、ライアンは判断する。


「……分かった。先生も本気で構えるから、遠慮無く打ち込んでこい」


 そう言って木剣を構えるライアン。どうやら彼は、気を抜かなければ、ポテンティアの打ち込みを受け止められると判断したらしい。テレサの打ち込みを受けられなかったのも、自分の気が抜けていたから……。そう考えたようである。


 そんな騎士科の教師の背中に、"熟練者コース"に決まった生徒たちは熱い視線を送ったようだ。だが、ポテンティアの強さを知っているミレニアなどは、表情を曇らせていたようである。


 そして実際、彼女たちの懸念は現実のものとなる。


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