14.12-22 無力?22
「さて……実技の授業を進める前に、グループを分けようと思う。慣れている奴のための"熟練者コース"と、ある程度慣れている奴のための"ひよっこコース"、あと、まったくの初心者のための"たまごコース"で、合計3グループだ。本当なら、騎士科に入ってくる学生に初心者はいないんだが……まぁ、そこは仕方ねぇ。"たまごコース"の奴らには、特別教室らしく、特別授業を行うことにする。そんなわけだから、騎士科の連中は熟練者コースな?"たまごコース"にしたいとか言うなよ?数が増えると面倒だからな」
熟練度に応じて、教える内容が異なるためか、騎士科の教師ライアンは、特別教室の生徒を3つのグループに分けることにしたようである。魔法科や薬学科の学生に、いきなり高度な剣術の授業を教えたところで、そう簡単には覚えられないどころか、他の学生たちの足を引っ張る可能性もあるからだ。
特別教室の生徒25名の内、騎士科の学生は6名である。その6名が、"熟練者コース"のグループになり、残り19名をどうするかという話になった。ちなみに、ライアンと打ち合ったラリーは、騎士科出身なので、"熟練者コース"だ。その他、ミレニアの幼なじみであるジャックも騎士科なので、彼も"熟練者コース"に入ることになった。
「自己申告でも良いんだが……いや、やっぱり俺が直接打ち合って確かめた方が手っ取り早いだろう。出席番号順に、俺に打ち込んでこい」
ライアンはそう言って木剣を構えた。
出席番号順で行くと、1番はアステリアである。彼女は周囲を見渡して、皆が自分に視線を向けているのを察してから、何かを諦めたようにガックリと肩を落として立ち上がった。そして彼女は、箱の中から木剣を手に取って、ライアンと向かい合い、頭を下げる。
「ア、アステリアです!よ、よろしくお願いします!」
そこでようやく彼女は、木剣を構えた。
そんなアステリアの所作を見ていたライアンは、ふと疑問に思ったのか、問いかけた。
「ふむ……。もしかして、アステリアちゃんは、剣を振るった経験があるのか?」
「はい?いえ、無いですけど……」
「そうか……。まぁ、いい。俺に打ち込んでこい」
「は、はい!」
その瞬間——、
ズドンッ!!
——アステリアの姿がその場から消える。目にも留まらぬ早さだ。文字通りに"一瞬"でライアンに肉薄したアステリアは、そのまま木剣を振り下ろした。
「やあっ!」
カンッ!!
「っ?!悪くはねぇ!悪くはねぇけど……まだ原石だな。いや、すげぇ原石かも知れねぇな……これは」
一瞬の出来事だというのに、難なく受け止めたライアンは、アステリアのグループを決める。
「うん。"たまごコースだ"」
「は、はい……」しゅん
と、獣耳を倒して、クラスメイトたちのところへと戻っていくアステリア。そんな彼女の背中に向かって、ライアンは言った。
「落ち込むことはねぇぞ?アステリアちゃんは、ちゃんと磨き上げれば、俺なんかより遙かに強くなるはずだ。というか……下手をすれば、この国でも最強になれるんじゃねぇか?」
「「「えっ……」」」
「それだけすげぇ打ち込みだったってことだ。特に、速度はトンデモなかったぜ?まぁ、すげぇのは打ち込みだけで、剣筋は素人そのものだったけどな。だから初心者コースだ。丁寧に教えてやるから、覚悟しろよ?」
「は……はい!頑張ります!」
そう言って、今度は獣耳をピンと立てるアステリア。この時、ライアンは、アステリアの打ち込みを思い出しながら、内心でこんなことを考えていたようだ。
「(ふふん!獣人も悪くねぇ。っていうか、よっぽど人よりも教え甲斐がありそうだ)」
それは純然たる感心。彼はこれまで、獣人たちを取るに足らない存在だと考えていたのだが、アステリアと剣を交わし合ってからというもの、その考えを変えたようである。
その後、出席番号が若番の者たちから次々にライアンと打ち合っていく。現状は、"たまごコース"と、"ひよこコース"で、おおよそ半分づつ。学生たちには貴族出身の者たちも少なからず含まれており、小さな頃から英才教育を受けていた関係で、魔法だけでなく、剣術を嗜んでいる者も少なくなったのだ。
そして、生徒たちの半分ほどのテストが終わった頃。とある人物の番がやってくる。
「次は妾かの。よっこらせ……」
テレサだ。体育座りをしながら、皆の剣撃を見ていた彼女は、けだるそうに腰を上げた。




