14.12-21 無力?21
学生たちの間からは文句が噴出した。ただし、学ぶ範囲に文句があったわけではない。テスト範囲が全学科に渡るということが問題だと言うのだ。学習量が3倍になり、テストの量も3倍になるというのなら、文句の一つや二つくらい出て当然だと言えるだろう。
対するハイスピアは、生徒たちからの苦情を受けて、追加で説明をした。そう、彼女の説明はまだ終わっていなかったのである。
「授業の内容を3倍に増やしても、筆記試験まで3倍に増やすようなことはしません。基礎教科は全科目、これまで通りに筆記試験を受けてもらいますが、専門教科については、それぞれ、座学か実技かを選んでテストを出来るようにしようと考えています」
座学と実技のテストを選べる、と聞いた瞬間、ほぼ全員の表情が和らいだ。テストが増えることに変わりは無いが、選べるのと選べないのとでは雲泥の差だったからだ。
ワルツもまたその例外ではなく、内心で安堵していたようである。というのも、もしも魔法科の専門教科で実技が必須となると、魔法が使えない彼女の場合、合格するのは不可能だからだ。
「(まぁ、それなら良いんじゃない?)」
と、自分の場合は問題無さそうだと考えた後で、彼女はふと思う。
「(そういえば、騎士科のテストとか、何をやるのかしら?やっぱり、剣技の試験とかあるんでしょうね……。魔法科だったら、混合魔法とか、上級魔法とかを撃ち込む授業があるのかしら?)」
そう思いながら、ワルツは隣に座るルシアをチラ見する。
「……何?」
「実技の授業を受けるとき、手を抜かないと大変なことになりそうね……。私たち」
「そう、だね……」
姉がどんな未来を想像したのか察したらしく、ルシアは小さくコクリと頷いた。
◇
そして早速、授業は次へと移る。元々あるはずだった10日間の遠征が無くなった分、専門科目の授業が急遽組まれたらしい。ただし、どの授業もいきなり高度な授業はやらず、お試しのような授業内容だ。学科を越えて行う授業なので、素人と言える学生が授業を受けなければならず、最初から高度な授業を行うことは不可能だったからだ。最近、学院に入学したばかりのワルツたちにとっては、望ましい授業内容だったと言えるだろう。
というわけで、次の授業は騎士科の授業である。場所はグラウンドで、皆、制服から、動きやすい運動着に着替えた状態である。
「俺は騎士科の担当のライアンだ。これから剣術の授業を始める」
ライアンと名乗った教師は、木剣を肩で担ぎながら、生徒たちを見渡して……。そして何故か自分の頭をワシワシと掻いてから、こう言った。
「って言っても、ここには素人の嬢ちゃんたちもいるわけだから、いきなり打ち合えってのは無理だと思う。とりあえず、ラリー。少し付き合え」
ライアンは、元々騎士科だったラリーの名を呼んだ。彼が個人的に目を掛けていたらしい。
対する、ラリーは、言われたとおり立ち上がると、これから何があるのかを察したのか、ライアンに言われる前に、置いてあった箱の中から木剣を取り出した。
そんなラリーの行動を見て満足げに頷いた後、ライアンは生徒たちに対してこう言った。
「これから先、お前たちには、今から見せるような剣技を身につけてもらう。付いて来られなければ、容赦無く落第だからな?必死に頑張れ。……来い、ラリー!」
ライアンがそう口にした瞬間——、
「うぉぉぉぉぉぁああっ!!」
カンッ!
——普段口数が少ないとは思えないような大きな声を張り上げながら、ラリーがライアンに斬り掛かった。ビリビリと響くような気合いの入った声が辺りに広がる。
ただ、やはり経験が違うのか、ライアンはラリーの剣撃を、真っ正面から軽々と受け止めてしまう。そもそも体重が違うのだから当然だ。むしろ、ライアンは、その体躯を利用して、力押しでラリーのことを圧倒できるはずだが、そうしなかったのは、これが授業だからか。
しばらく拮抗状態が続いた後で、ライアンは、ニッ、と笑みを浮かべると、木剣に殆ど力を込めることなく、ラリーの木剣の表面を滑らせるように一度下げてから、今度は一気に振り上げた。すると、木剣は捻れるようにラリーの手を離れて、宙を舞い……。そして間もなくして——、
サクッ
——と地面に突き刺さった。やはり、ラリーよりもライアンの方が遙かに上手だったようである。




