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14.12-20 無力?20

「え、えっと……皆さんが体験したとおり、魔道回路と魔石を触れさせることで、魔道回路に魔素を流し込むことが可能です。あとは、流れ込んだ魔素が回路の中で魔力となり、魔法として顕現します」


 生徒たちが交代交代で魔道回路の体験を終えた後、ハイスピアは総括するように、魔道回路についての説明を行った。ただ、その内容は、ワルツが知っている範疇以下のことであり、授業に興味を示していた彼女としては、すこし残念な内容だったようだ。


 それゆえか、ワルツの口からこんな言葉が飛び出す。


「先生。質問良いですか?」


「はい、ワルツ先生。どうぞ」


「コンロ以外の魔道回路も教えて下さい」


「えぇ、良いですよ?」


 ハイスピアはそう言って、黒板に様々な図形と文字を書き込んでいく。今回、実験で使った図形の上には火。その他、棒線一本しか引かれていない図形の上には光、といったように、全部で8種類。具体的には、火水土風雷金光闇といったように、一般的に分類わけされている魔法の属性の数だけ書き上げられた。まぁ、無属性だけは無かったようだが。


 それを見て、ワルツは思う。


「(まぁ、これも大体は知ってる範疇なのよね……)」


 エルフの長老であるアルファニアのところで、ワルツは基本的な魔道回路についても教わっていた。今日、新しく学んだことは、魔道回路の種類に応じて魔石を使い分けなければならないという点くらいで、やはり彼女の表情には残念そうな色が浮かんでいたようである。


 そんなワルツの様子を見たハイスピアが、困った様子で問いかける。


「えっと……ワルツ先生が知りたかったことは、もしかして、各属性の魔道回路の書き方……ではない?」


 対するワルツはコクリと首を縦に振る。そして自分の言葉が通じるかどうか不安になりながらも、彼女は再び口を開いた。


「例えば……条件分岐って無いかしら?外部からの入力……例えば魔力を与えるのでも良いのだけれど、それによって動作が変わるとか、使われる回路が切り替えられるとか……。あとは、属性の異なる魔道回路同士の接続方法も知りたいところね」


 そう口にするワルツが、この時、何を考えていたのかというと、今朝、自身の工房で色々と試した転移魔法陣についての知見だ。ワルツは転移魔法陣を解析することで、遅延起動など、簡単な設定くらいであれば、ある程度操作する方法を見つけていた。しかし、それは大雑把もので、条件分岐など細かな設定する方法までは分からなかったのである。


 魔道回路とは、即ち、魔法陣と同じモノなのだ。もし、魔道回路において条件分岐などの表現が可能なら、それを魔法陣に流用して、転移魔法陣の高機能化が実現出来るのではないかと考えるのは自然な事だと言えるだろう。


 対するハイスピアは、ワルツの問いかけにすぐに答えることが出来なかった。ワルツが知りたいと思っているような知識は確かに存在するが、大半は国家機密に関わるものだったからだ。あるいは、話せたとしても、かなり高度な話であり、初等科の学生たちの前で話す内容ではなかった。


 ゆえに——、


「……詳しい説明については、放課後にでも個別に行いましょう」


——ハイスピアはその場での回答を避けて、個別に対応することにしたようである。それを聞いたワルツは、午後からの予定があったために、すこし不満げな表情を浮かべるものの、知りたい情報は得られそうだったので、渋々「はい」とだけ答えることにしたようだ。


 こうして、特別教室におけるハイスピアの最初の授業は、一時的に脱線しそうになるものの、どうにか彼女の思い通りに進むことができた。ただ、授業の終盤で、騎士科の男子学生であるラリーから飛んできた質問によって、この授業におけるある意味最大の山場を迎えることになる。


「……先生。質問がある」


「はい、何でしょう?ラリー君」


「俺たちは騎士科の学生だ。だが、今日のこの授業は明らかに薬学科の授業だったように思う。なぜ騎士科や魔法科の学生に、薬学科の授業を教えたのだろうか?」


 ラリーの問いかけは尤もだった。本来であれば、騎士科や魔法科の学生が、魔石の使い方や魔道具の作り方の授業を受ける必要は無いのだ。にもかかわらず、なぜハイスピアは、関係の無いはずの他学科の学生に薬学系の授業を行ったのか……。その場にいた学生の大半が抱えていた疑問だった。


 対するハイスピアは、一瞬考え込んだ後、何かに気付いたのか、ハッとした、様子でこう答えた。


「あぁ、すみません。私の説明が足りなかったです。本来であれば、一番最初に話すべきでした。実は……皆さん特別教室の学生には、今後、全学科の専門授業を受けてもらうことになります」


「「「……えっ……」」」


「授業内容は、単純計算で3倍に増えてしまいますが、特別教室の皆さんなら、どうにか乗り越えられると考えています。乗り越えられると判断したからこそ、皆さんの事を選抜したのですから」


 その瞬間、教室の中の空気が固まった。どうやら、どの学生にとっても、今のハイスピアの説明は、寝耳に水の内容だったようである。



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