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14.12-19 無力?19

「では、魔道具がどうやって魔石から力を取り出しているか、方法を知っている人はいるでしょうか?」


 ワルツが机の下に隠れてしまっても、ハイスピアの質問は続く。


 すると今度は、ワルツたちの知らないクラスメイトたちが返答を始めた。


「特殊なインクを使って魔道回路というものを描き、そこに魔石を接続すると、魔法が発生する……って、この前の先生の授業で習いました!」

「魔道回路を理解出来れば、複雑な魔法を使うことが出来るかも知れないけど、今の技術じゃ無理、とも言ってましたよね?」


 そう口にするのは、見た目がそっくりな少女たちだった。双子らしい。ハイスピアの授業を受けているとなると、おそらくは薬学科の生徒たちなのだろう。


 対するハイスピアは、少し嬉しそうな表情を浮かべながら首を縦に振った。


「そう。その通りです。然るべき種類の魔石を、然るべき種類の魔道回路に接続することで、人が手を介さずとも、魔法が顕現します」


 ハイスピアはそう口にすると、教卓の上に取り出してあったいくつかの魔石と、金属製のトレイを、グループを作りながら座っている学生たちの所に、1セットづつ置いていった。全員分は用意できなかったので、皆でシェアしながら使って欲しい、ということらしい。


 そして、すべてを配り終わった後、ハイスピアは黒板に綺麗な丸印を描いてから、その印を指しつつこう言った。


「いま配ったトレイの中に紙とインクと筆が入っているはずなので、それらを使って、黒板に描いたものと同じ絵を紙に描いて下さい。あぁ、魔石は必ず、紙とインクから離した場所に置いておいて下さいね?インクと魔石が触れると、何が起こるか分かりませんので」


 と、ハイスピアが口にすると、先ほど魔道具について話た双子姉妹の少女たちが、とても嫌そうな表情を浮かべながら、魔石を机の端の方に置いた。どうやら、2人とも、今、どんな授業をしていて、そしてどんな危険があるのか、予想が付いていたらしい。薬学科の授業で何か嫌な事でもあったのだろう。


 他の学生たちも、ハイスピアの言葉に素直に応じて、紙と魔石を十分に離れた場所に置いた。ワルツたちもそうだ。むしろ、ワルツたちの場合は、紙と魔石を離して置くだけでなく、ルシアを紙から十分に離すことにしたようである。テレサが手で「しっし!」と追いやると、ルシアは「いーっ!」と威嚇するような表情を見せるものの、彼女もなぜ自分が遠ざけられるのか理由を知っていたらしく、テレサの指示に大人しく従ったようだ。


 そして、すべてのグループで、紙に円を描き始める。薬学科の双子姉妹は、できるだけ綺麗に円が描けるように気を遣い……。騎士科と思しき男子生徒たちは、かなり適当な様子で円を描き……。そしてワルツたちのグループでは、代表して筆を受け取ったテレサが——、


「ふふふ……妾の達筆を見るがy——」ぐにゃっ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ?!」

「ふんっ!調子に乗るからだね!」


——途中まで綺麗な円が描けていたというのに、突然、筆を誤り、歪な形状の円を描いてしまう。たとえるなら、円を描いている途中で、まるで謎の力場が生じ、筆が勝手に動いたかのように、だ。


 しかし、描き直すことは出来ず……。テレサたちは仕方なく、歪な円のままで授業を受ける事にしたようである。


「では、皆さん、描けたでしょうか?これがコンロの魔道具に描かれている魔道回路です。この魔道回路のどこかに炎の魔道具を置くと、円の中心から炎が出ます。なので、円が描かれた紙をトレイの中において、燃えやすいものをトレイの近くから遠ざけ、その上で魔道回路の近くに魔石を置いて下さい」


 ハイスピアのその話を聞いたワルツは、やっぱり、と内心で納得した。かつて、ワルツは、エルフの長老(?)であるアルファニアのところで、魔道回路の実験を行った経験があり、魔道回路の形状によってランタンの魔道具や、エンチャント用の魔道具を、作ることができると知っていたのである。今回は、そのお()いのようなもので、すぐにピンときたらしい。まぁ、円形の魔道回路と、炎の魔石の組み合わせでできるものといえば、コンロくらいしかないので、アルファニアの所での経験が生かされているかは微妙な所だが。


 そして——、


   ボウッ


——クラスメイトたちの机で、それぞれ小さな炎が灯る。ライターやマッチの炎が、円形状の魔道回路から複数吹き出している、といった様子だ。それを見た学生たちは、大半が驚いて、目を輝かせていたようである。尤も、薬学科の学生にとっては、ありきたりの現象だったためか、双子姉妹を含めて、それほど感動している者はいない様子だったが。


 そしてワルツたちのところでも、テレサが炎の魔石を手に取り——、


   ボウッ


——と燃焼を開始させる。


「……魔道回路のインクに耐熱製があれば、ガスタービンエンジンの燃焼器に使えるのじゃがのう……」

「それだけじゃ、熱量が足りないんじゃない?」


 燃えさかる魔法陣の中に指を突っ込み、炎の魔石や魔道回路を弄ぶテレサとワルツ。いつの間にか、ワルツが机の下から出てきていたのは、魔道回路に小さくない興味を抱いていたからか。


 なお、その際、他の学生たちもワルツたちの行動を見ており、実はコンロの炎は熱くないのではないかなどと思う者もいたようだ。だが、ワルツたちのその行動を見たハイスピアが、悲鳴に近い声を上げて止めに入った様子を見て、慌てて思いとどまったのは言うまでもないだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 2888/2888 ・耐性持ち。多様性社会では当たり前ですね(?) [気になる点] 円がぐにゃるの分かります [一言] 8が並んでる。ちょっと嬉しいかも。
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