14.12-18 無力?18
「今日は、魔石の授業をします」
「「「(魔石の授業?)」」」
「皆さんは、魔石がどのようにして出来るのか、知っていますか?」
ハイスピアが問いかけると、真っ先にミレニアが手を挙げる。
「はい、先生!」
「ミレニアさん、どうぞ」
「魔石の生成は大きく分けて2種類あると言われています。迷宮などのマナが多い土地で自然と魔素が結晶化する場合。または、魔物の体内などで魔素が結晶化する場合の2つです。ただ、両方とも、魔素が結晶化するという点においては同じメカニズムだと言えるので、研究者によっては、敢えて種類分けをする事なく、一緒くたに"魔素が結晶化したもの"と表現することもあります」
「……さすがはミレニアさん。完璧な答えです」げっそり
ミレニアの返答を聞いたハイスピアは、ミレニアの返答を褒めつつも、ゲッソリとした表情を浮かべた。完璧な返答だったために、補足する言葉が見つけらず、教師としての自分の存在価値を疑うという病気(?)が再発してしまったらしい。
しかし、ハイスピアがそこで止まるようなことは無かった。彼女が言いたいことは、魔石の生成の過程ではなく、それとは別にあったからだ。
「そう、ミレニアさんが言うとおり、魔石とは魔素の結晶体だと考えられています。では、魔石から魔法を作り出す事は出来るでしょうか?」
と、ハイスピアが改めて問いかけると、今度はジャックから声が上がる。
「先生!それって、自動杖でやっていませんでしたっけ?」
詳しい原理は不明だが、誰でも魔法が使える杖である自動杖が、まさに魔石から魔法を作り出していると言えるのではないか……。そう考えたジャックが問いかけると、ハイスピアはニコッと笑みを浮かべて、こう返した。
「確かに、自動杖でも魔石に蓄えられている魔素を使って魔法を作り出していますが、自動杖に使える魔石は、なんでも良いと言うわけではありません。自動杖に使われている魔石は、術者が魔素を充填できる特殊な魔石ですから、一般的な魔石とは異なるのです。詳しくは、機密事項ですから、自動杖を研究する研究室に所属してから、学んで下さい」
と、そこで一旦言葉を切るハイスピア。ジャックも、自動杖が国家機密であることを知っていたので、それ以上は問いかけようとしなかった。
それからハイスピアは、再び質問を投げかける。
「ここでの私の質問は、一般的な魔石……そう、たとえばこの炎の魔石を使って、魔力を取り出す方法はあるか、という質問です」
すると再び、ミレニアが手を挙げた。
「炎の魔石でしたら、コンロの魔道具など、炎を使う系の魔道具などで、魔石から魔素を取り出して、魔法に昇華させていると思います」
対するハイスピアはコクリと頷いて、ミレニアの発言を肯定した。
「えぇ、正解です。魔道具を使えば、魔石から魔素を取り出して、魔法に昇華させることが出来ます。とはいえ、魔道具で作り出せる魔法と、私たちが使う魔法とでは、大きく異なる点があります。それが何なのか、分かる人はいるでしょうか?」
魔石と魔道具を組み合わせて、例えば火を吹き出すコンロであったり、光を生み出すランタンであったり、水を生成する水筒であったりと、魔法を利用した日常品といえる魔道具は数多く存在していた。しかし、ハイスピア曰く、魔道具が生み出す魔法と、人が生み出す魔法では、決定的に異なる点があるらしい。
そんなハイスピアの問いかけに対して、生徒たちは考え込むような素振りを見せるのだが……。そんな中で返答したのは、意外な人物だった。
「……まず、威力」
ワルツである。
「それに自由度も違うし、燃費も違うわね。威力って言うのは、そのまま魔法の強さのことで、自由度っていうのは、例えば炎を飛ばすとか、水を動かすとか、魔法の操作に関係する部分のことね?あと燃費は……まぁ、そのまま燃費よ。巨大な魔石を使えばそれなりの出力の魔法は使えるかも知れないけれど、魔石と同じ重さの人が魔法を使った方が、圧倒的に長く連続的に魔法を使えるのよ」
そして総括するように、ワルツは言った。
「ようするに魔道具は、攻撃の手段としては適さないってことよ?まぁ、自動杖は例外なのだけれど」
ワルツはそう言って肩を竦めた。機動装甲を失った当初、彼女は魔道具を使って機動装甲の代わりになるものを作れないかと考えていたのだが、単純に魔石を使った魔道具だけでは、機動装甲の代わりと言えるような装備を作成できなかったのである。そんな苦い経験があったせいか、ワルツは本来人見知りが激しいというのに、ハイスピアの質問に思わず答えてしまったらしい。
「……はっ?!」
自身の考えを口にした後、クライスメイトたち全員の視線を集めている事に気付いたワルツは、驚いたような表情を見せつつ、ズズズ、と机の下に下がっていった。あまり深く考えずに返答したこともあって、今になって恥ずかしくなってきたようである。
一方、ワルツの返答を聞いたハイスピアの目は、何故か、キラッキラと輝いていたようである。教師としてやっていけるのか心配になっていた普段の彼女からすれば、ワルツの指摘は精神的なダメージとしてクリティカルダメージを与えるはずだったのだが、ハイスピアはワルツの事を生徒として見ていなかったためか、逆に感動してしまったようである。
「そう!その通りです!ワルツ先生!」
「「「ワルツ先生……?」」」
クラスメイトたちの間で、小さなざわめきが生じた。その声を聞いたワルツが、尚更に机の下へと隠れてしまったのは、敢えて言うまでもないことだろう。




