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14.12-17 無力?17

「今日も授業があるという連絡は回しておりませんでしたが、自発的に集まれてくれて、先生はとっても嬉しいです」げっそり


 どこからどう見ても嬉しそうには見えない様子で、ハイスピアは授業を始めようとした。しかし、その前に、彼女には生徒たちに言わなければならないことがあったようである。


「今日は、授業を始める前に、皆さんの新しいクラスメイトを紹介しようと思います」


 その言葉を聞いて、ワルツたちは一斉に同じ事を思った。……"あの人物"は、特別教室の所属になるのだ、と。


 実際、その予想通りの展開になる。ハイスピアは、廊下の扉を開けて、そこにいた人物に声を掛けた。


   ガラガラガラ……


「マリアンヌ様。どうぞこちらに……」


 教室に入ってきたのは、学生服に身を包んだマリアンヌだった。どうやら試験に合格した上、その成績が認められて、特別教室への所属が決まったらしい。


 彼女は固めの表情で教室へと入ってくると、どこか不安げな様子で部屋の中を見渡した。そして、知っている顔の面々を見つけて、すこし顔を緩ませた。


 そんなマリアンヌのことを教壇横まで案内してから、ハイスピアはクラスメンバーに対し、マリアンヌについての紹介を行う。


「この方は、エムリンザ帝国の第一皇女、マリアンヌ=ローゼハルト様です」


 ハイスピアのその言葉に、ザワザワとした騒ぎが生徒たちの間で一斉に広がった。皆、寝耳に水といった様子で、噂の"う"の字も聞いていなかったらしい。


 一般的には、王族、あるいは貴族レベルの入学者がやってくるとなった場合、引っ越しの荷物の搬入やら、召使いたちの出入りやら、あるいは護衛の騎士たちの警備やらで、学院内が騒がしくなるものなのである。ところがマリアンヌの場合は、ワルツたちの家から学院へと通うために、引っ越しの荷物や召使いどころか、護衛の騎士すらおらず……。そのおかげと言うべきか、まったく騒ぎにならなかったために、学院にエムリンザの皇女がやって来るという噂が広がることはなかったのである。その他、"ワルツたち"という噂話に事欠かない者たちの存在や、ここ数日の間に急に帰校し始めた上級生たちの存在など、噂話が事欠かなかったことも、マリアンヌについての噂が広がらなかった理由だと言えるかも知れない。


「では、マリアンヌ様。よろしければ一言、ご挨拶をお願いいたします」


 ハイスピアはそう言って、教壇から身を引いた。その代わりにマリアンヌが教壇に立つ。


「……皆様。お初にお目に掛かります。私は、ハイスピア先生のご紹介に与りましたとおり、マリアンヌ=ローゼハルトと申しますわ?以後、お見知りおきを」


 必要な事すら説明していないと言えるような、ごく短い名乗りだけを口にした後、マリアンヌはカーテシーをきめて、挨拶を終えた。彼女としては、わざわざ自己紹介をする必要を感じなかったのだろう。なにしろ、クライスメイトたちの半分弱は、顔見知りどころか同棲している者たちなのだから。


 至極短い挨拶を口にしたマリアンヌを前に、教室の中では新たなざわめきが起こる。マリアンヌの自己紹介が短かったことで、新たな憶測が生まれたのだ。


 特に多かったのは、マリアンヌが機嫌を損ねているという噂だった。彼女が自己紹介中にチラリと視線を向けていたのは、ワルツたちのグループの方。そしてワルツたちは、トラブルに事欠かない者たち。つまり、マリアンヌとワルツたちとの間で、何か確執が起こったのではないかと考えた、というわけである。


 しかし、噂話をする者たちに、今この瞬間に事実を確認する術は無く……。授業の合間などで確認しようと考える者が大半で、ざわめきは次第に小さくなっていった。


 ところが、彼らの噂話は、次の瞬間にヒートアップすることになる。


「ではマリアンヌ様。お好きなところにお掛け下さい」


 ハイスピアがそう口にすると、マリアンヌは「はい、先生」と端的に相づちを打ってから、とある場所へと真っ直ぐに進んでいった。ワルツたちのグループが陣取っていたエリアだ。より具体的には、ポテンティアの隣に腰を下ろす。


 その事実に、生徒たちの間で、再びざわめきが生じる。マリアンヌがワルツたちのグループのところに腰を下ろしたことで、自分たちの予想が間違っていたのではないかと、騒ぎになったのだ。


 しかしその一方で、逆のことを考える者たちもいたようである。王族や皇族といった者たちはプライドを重んじる者たちなのだから、ワルツたちのことを嫌厭しているとはいえ、わざとらしく距離を取って座れば、それはワルツたちから逃げたことと同義。ゆえに、ワルツたちから距離を取って座るのではなく、むしろ真隣に座るべきだと考えたのではないか……。そんな予想を立てたのだ。


 彼らの議論は、ハイスピアから注意されるまで白熱したようである。ちなみに彼ら話はワルツたちの耳にも届いていて——、


「(なに意味不明なことを言ってるのかしら?)」

「(皇族とか貴族って、大変だね……)」

「(世の中、もっと単純に考えねば、やってられぬと思うのじゃがのう……)」


——などと考えていたようである。


 そしていよいよ——、


「では、今度こそ、授業を始めます」


——ハイスピアがそう宣言して授業を始めた。そんな彼女が、持参した袋の中から徐に取りだしたものは、昨日、ワルツたちが、ラニアの町の迷宮から回収してきた赤い魔石だった。


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[良い点] 2886/2888 ・いえーい。王族投下 [気になる点] 単純化は大事。アイディアバラマキすぎると疲弊しちゃう
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