14.12-16 無力?16
「どうやったら、そんなに大きな力を身につけられるの?」
ミレニアは単刀直入に質問した。先日、彼女は、ワルツたちと同行して、ラニアの町へと赴き、ワルツたちの力を間近で目の当たりにしていたのである。その時の出来事は、彼女にとって衝撃的で、常識を書き換えられてしまうほどの強烈な体験だった。
ワルツたちの行動が記憶に深く刻み込まれていたのは、ミレニアだけではない。彼女の幼なじみであるジャックもまた同じことを考えていたようだ。
「実は俺も気になっていたんだ。どんな鍛え方をしたら、あんな大きな魔物を倒したり、町ごと移動させたり、森ごと浮かべたり出来るんだ?いや、そもそも、魔法でモノを浮かべるとか、聞いた事がないんだが……」
そんな2人の隣に並んで声を合わせるわけではなかったが、アステリアもまた、2人の質問に興味津々だったようである。朝方、彼女がイブやワルツに打ち明けたとおり、彼女は今、自分の非力さや無力さに悩んでおり、ワルツたちの強さの秘訣に興味があったのである。
対するワルツは、思わず大きな溜息を吐きそうになっていた。アステリアにしても、ハイスピアにしても、ミレニアやジャックにしても、誰も彼もが、何故か自分の無力さを嘆いているのだから、溜息も吐きたくなるというものである。
「……平和に暮らしていくことを考えるなら、必要以上の力なんて無い方が幸せだと思うわよ?力があったって、面倒臭い人たちに絡まれたり、疎まれたり、そもそも自分自身が力に飲まれそうになったり、暴走する力で仲間を巻き込みそうになったり……」
ワルツは、今まであった出来事を思い出しながら、まるで説得するかのように、強すぎる力の問題点を力説した。そのたびに、ルシアの顔から明るさが失われて、段々とその表情を暗くしていったのは、単に、外に浮かぶ太陽が雲によって光を遮られたためか。
しかし、ワルツが説明すれば説明するほど、今度は何故かミレニアたちの表情が明るくなっていく。力を持つという苦難を知らないためか、ワルツの言葉が魅力的に思えたらしい。
「……ってわけだから、一つ間違えると、大惨事にもなるし、自分の身を滅ぼすことにもなるのよ」
ワルツが説明に一息つくと、ミレニアから質問が飛んでくる。
「そんなに恐ろしい力なのに、あれほど上手く使いこなしているなんて……それ自体も力の一部って事よね?」
「えっ」
ミレニアから飛んできた逆説的な指摘に、ワルツは思わず面食らった。力を否定すれば否定するほど、逆に力を肯定していることに気付いたのだ。その指摘によって、ルシアの顔がパァっと明るくなったようだが、理由は不明である。
対するミレニアは、意味もなく力に憧れているというわけではなかったようである。
「ワルツさんが強すぎる力に大きな懸念を持っているって事は分かったけれど、でも私たちは……ううん、私は、より大きな力が欲しいの」
自分たち、ではなく、個人として力が欲しい、と話すミレニアに対し、ワルツは質問した。
「どうしてそんなに力が欲しいのかしら?」
するとミレニアは、待っていましたと言わんばかりに口を開こうとするのだが——、
ガラガラガラ……
「おはよー」「おはー」
「おはよう。うわ、他にも人が来てるって事は、授業があるな……」
「しゃぁねぇな……」
「……おはよう」
——ミレニアが理由を口にする前に、他の生徒たちが教室へとやってきた。
ミレニアとしては、力が欲しい理由を他の生徒たちに聞かれたくなかったらしく、彼女の口からはそれ以上の言葉は出ず……。彼女の口はそのまま閉じられてしまった。それも、誰の目から見ても、しょんぼりとした様子で。
そんなミレニアの様子に気付いたのか、他の生徒たちの視線がミレニアやワルツたちへと集中する。雰囲気としては、ミレニアがワルツに何か辛いことを言われて、落ち込んでいるようにも見えなくないだろう。
それゆえか——、
「えっ……なにあの空気……」
「えっ……ミレニア、怒られてるの?」
——などという、ミレニアを心配するような声が、次々と教室へとやって来る生徒たちの中から立ち上がり始めた。
その言葉は、ワルツの耳にも届いていて……。段々と彼女のことを居たたまれない気持ちが苛み始めたようだ。
結果——、
「し、仕方ないわね……。放課後に理由くらいは聞いてあげるわ?」
——ワルツが妥協したようにそう口にすると、ミレニアの表情にパァっと花が咲く。ミレニアのことしか言っていないの、ジャックの表情も明るくなっていたようだが、ワルツは気にしないことにしたようだ。
それから間もなくして——、
ガラガラガラ……
「……みなさん……おはようございます……」げっそり
——まるでゾンビのごときハイスピアが教室へと戻ってきて……。授業が始まったのである。




