14.12-13 無力?13
元々陸橋は、ルシアが土魔法(?)を使い、作り上げたものである。ゆえに、強度は一般的な建築構造物とは比べものにならないほど高く、コンクリートなどと比べても遙かに固く頑丈に出来ていた。
にもかかわらず、空から落ちてきた落雷は、軽々と地面に穴を開けてしまったのである。人に当たっていれば、"痛い"では済まず、爆発四散するか、跡形無く蒸発する事だろう。
そのトンデモない雷魔法を前に、アステリアは怯えて、尻尾を股の間に挟み込み、その場にしゃがんでしまったようである。獣ゆえ、と言うべきか、雷が怖かったらしい。
事情を知らないマリアンヌも似たようなものだった。突然の轟音と、爆散した地面を見て、彼女も慌ててしゃがみ込むと、橋の欄干の隙間に身を滑らせた。それで身体を守れるとは思っていなかったようだが、何もしないよりはマシだと思ったらしい。
上級生たちの反応も似たようなものだった。突然の落雷に驚き、その場にへたり込む者、逃げ帰る者、慌てて近くの茂みに飛び込む者などなど……。皆、命の危険を感じて、大混乱に陥っている様子だった。
そんな者たちとは対照的に、驚いていない者たちもいたようである。雷魔法を使った本人であるルシアと、爆音や爆風などに慣れてしまっていたワルツ、テレサ、それにポテンティアの4人である。特に、後者3人は、突然雷魔法を使ったルシアを前に、呆れたような表情を見せていたようである。
そんな中の1人、テレサが、ルシアに対して苦言を呈する。
「……ア嬢?いきなり雷魔法を使うというのは拙いと思うのじゃが?あの上級生たちが敵対的な行動をしてくるとは限らぬじゃろうに……」
対するルシアは、明後日の方向に視線を逸らしながら、シレッとこう言いのけた。
「ちょっと、何を言ってるのか分からないなぁ?晴れてる日に雷が落ちてくるっていうのも、たまにはあるんじゃないかなぁ?」
飽くまで落雷は自分とは無関係だと言い切るつもりらしい。
実際、落雷がルシアの魔法だと言える証拠はどこにも無かった。テレサがルシアの魔力を幻影魔法で常に隠蔽しているので、相当に強大な魔法を使わない限り、落雷に魔力が使われていることを認知できる者は誰もいなかったのである。強いて言うなら、ルシアがその場にいること自体が状況証拠と言えなくなかったが、それを指摘するというのは言いがかりに等しく、第三者がルシアの事を弾糾するのはほぼ不可能だった。
それゆえか、テレサは大きな溜息を吐くと、それ以上、ルシアに絡むのはやめたようである。
「……まぁ、良いのじゃ。ハイスピア殿辺りに何か言われたら、ちゃんと自分とは無関係であることを言うのじゃぞ?」
「うん。任せておいて。慣れてるから」
2人がそんなやり取りをしている間、ワルツとポテンティアが、それぞれアステリアとマリアンヌに手を差し伸べる。
「アステリア、大丈夫?なんか、全身の毛が逆立って、真ん丸になっているわよ?」
『マリアンヌさん、大丈夫ですか?立てます?』
「「んなっ……何なのですか?!あれは!」」
「あれが何か?」
「あれですか?」
「ただの落雷よ?」
「ただの落雷ですね」
ワルツとポテンティアは、揃って同じ事を口にした。2人とも、ルシアの魔法だ、とは言わない。ただの自然現象。ルシアたちが自然現象で押し切る以上、自分たちも同じ主張で押し通すつもりだったのである。
「あれがただの落雷……(いや、絶対、違いますわよね?!)」
「ただ落雷……と、マスターが仰るのですから、ただの落雷なのですね……」
2人とも、納得出来なさそうな様子だったが、ワルツたちが落雷だと言い張るので、反論することは出来ず……。大人しく従うことにしたようである。ワルツたちと共に行動するということは、そういった理不尽を飲み込むことでもあるのだと、心のどこかで諦めていたのかもしれない。
それからアステリアとマリアンヌは立ち上がって服の埃を払うと、ワルツたちと共に学院に向かって歩き始めた。すると、一行は必然的に、上級生たちの前を通過することになる。
上級生たちは、未だ腰が抜けた様子でその場にへたり込んでいたり、あるいは遠くに逃げていたりして、ワルツたち一行に敵意を向ける者は誰一人としていなくなっていたようである。彼らが顔に浮かべていたのは、ただひたすらの恐怖だけ。
へたり込んでいた学生の前をルシアが通過した際、彼女がチラリと視線を向けただけで、上級生は——、
「ひうっ……」ばたっ
——気絶して倒れてしまったようである。
「……少々、やり過ぎではなかろうか?」
「……うん。でも、後悔はしてないもん」
ルシアはそう口にすると、その場を素通りし、学院へと向かった。その際、彼女は、テレサと共に——、
「……あっ、回復魔法で吹き飛ばした方が良かったかなぁ?」
「あれは、そのうち死人が出るのじゃ」
——などと、上級生たちの耳に良く聞こえるよう大きめの声で会話をするのだが……。それが大規模な混乱に繋がる引き金になるとは、2人とも予想だにしていなかったようである。




