14.12-11 無力?11
コルテックスが呼んだ人物は、敢えて言うまでもないことかもしれないが、カタリナだった。彼女に薬を処方して貰えば、マリアンヌが患っているという慢性型の魔力欠乏症を治すことが出来ると考えたのだ。
しかし、カタリナは、コルテックスによる召喚を断ったようである。
「……今は問診が忙しくて、すぐには来られそうにないようです。可能ならミッドエデン時間の夜に、部屋を訪ねて欲しいとのことでした〜」
「まぁ、カタリナは忙しいからね。ミッドエデン時間で夜、か……。ってことは、学院の授業が終わったらすぐにミッドエデンに行く感じかしら?」
と、時間を計算しながら、ワルツは頭を悩ませた。その際、彼女は、ふと疑問に思う。
「そういえば、今日って、授業はあるのかしらね?」
予定では、昨日から数えて10日間ほど、特別教室の生徒は迷宮探索へと出かけているはずなのである。ワルツたちはその予定を即座に終わらせて戻ってきたので、本来であれば9日間は授業が無く、暇なはずだった。
しかし、ラニアの迷宮への自由な出入りが出来なくなった今、連絡は授業に参加した生徒全員に伝えられているはずなので、授業は取りやめになったとしてもおかしくはなかった。そうなれば、今日から授業が再開されるのは必然。
もしも、授業が無いというのなら、今からミッドエデンに行くというのもありなのではないか……。ワルツがそんな事を考えていると、マリアンヌからこんな言葉が飛んでくる。
「今日は合格発表があるとのお話でしたので、私は学院に行かなければなりません」
「そう……。あの学院、試験をやってから結果が出るまで、無茶苦茶早いのよね……。まぁ、それはともかくとして……じゃぁ、午後になるまでミッドエデンには行けない、ってことね」
「申し訳ございません……」
「いや、謝る必要は無いわ?マリアンヌに対して、学院に行くべきだ、って言ってるのは私たちな訳だし。それに、今からカタリナの所に会いに行ったところで、向こうも向こうで会えないと思うし」
ワルツはそう言って首を振った後、頭を切り替えた。考えても仕方がない事だったこともそうだが——、
「おっと、そろそろ時間ね?ご飯を食べないと」
——登校の時間が段々と迫ってきていたからだ。
◇
教員室にいたハイスピアは悩んでいた。最近は悩まない瞬間が無いほど、常に悩み続けていると言えたが、今この瞬間の彼女は、普段に輪を掛けて悩んでいると言えた。
「はぁ……。私、特別教室の先生なんて出来るのでしょうか……」
今から2日ほど前の彼女は、それなりにはやる気に満ちあふれていた。オリエンテーションの授業を行うことで、生徒同士の繋がり、あるいは絆と言うべきものを育めると考えていたのである。あわよくば、生徒間だけでなく、生徒と先生との間の関係も上手く育めれば、とも考えていたようだ。
しかし、蓋を開けてみれば、結果は真逆。行って帰ってくるまでに最低でも6日間は掛かるはずの学院-迷宮間の距離を、半日以下の時間で移動した挙げ句、探索すべき迷宮ごと破壊して(?)、そしてその日のうちに学院へと戻ってきた生徒が現れたのだ。それも、1人ではない。複数人が、だ。
そんな生徒たちのことを束ねて、授業など行えるのだろうか……。いや、そもそも、彼女たちに教えられることなどあるのだろうか……。ハイスピアが頭を悩ませてしまうのも仕方のないことだと言えた。
ただ、彼女は、担任教師であることをやめようとは思わなかった。もちろん、自分の正体がエルフであるという弱みを、生徒たちに握られているから、というのが理由だったわけではない。彼女が受け持っていた生徒たちは、皆が真面目で、授業を真剣に受けてくれる者たちばかりだったからだ。あるいは、一部の生徒(?)から、自身が知らない知識を教えて貰えることがあったことも、理由だと言えるだろう。
だとしても、胃にズシリとのし掛かってくる"責任"という名の重圧を押し返せるわけではなかったので、彼女は悩んでいたのだ。もしも自分にもっと力があれば……。もっと教師としてのセンスがあれば……。悩んでいる内に、時間ばかりが過ぎていった。
「……おっと、もうこんな時間ですか……」
ハイスピアは資料と教材を手に取ると、自身の教員室から、教室へと向かった。オリエンテーションの授業は急遽取りやめになってしまったが、スケジュールを繰り上げて、本来であればオリエンテーション後に行う予定の授業を、今日の授業として行うことにしたのだ。
そして、彼女がふと廊下の窓のそとに視線を向けた——そんな時のことである。
ドゴォォォォンッ!!
激しい落雷が、校門付近に落下した。それも、文字通り、青天の霹靂と言えるような落雷が。
……毎年、1月1日に悩んでおるのじゃ。
「あけましておめでとうございます」←この言葉を、妾言葉(?)として表現できぬか、と。
あけましておめでとうございますなのじゃ?
……どう考えてもおかしいじゃろ。
まぁ、それが良いという考え方もあるにはあるのじゃがのう……。




