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6前前-12 ボレアス帝国首都ビクセン1

崩れ落ちた屋根、今もなお燻ぶる炎、瓦礫で埋め尽くされたメインストリート・・・。

そんなビクセンの光景を見て、一同は一人ひとり別々のことを思い抱いた。


ルシアは、目の前の光景が自分の魔法によって起った結果だと。

ユリアは、帰るべき自宅が既に無くなってしまったかもしれないと。

シルビアは、そんな二人になんて声をかけていいものかと・・・それぞれ頭を抱えたのである。


そしてユキは・・・


「・・・」


・・・ビクセンの様子を見たまま固まってしまっていた。

彼女の頭の中を表現するなら、恐らく『真っ白』という言葉が適切ではないだろうか。


「・・・どうしようかしら?」


直下に広がるそんな街の光景に視線を向けながら、これからの行動を悩むワルツ。

彼女は、直接ボレアス・ビクセンと関係のないシルビアと並んで、思考には余裕があったと言えるだろう。


(もしも、ユキやユリアが『行きたい!』なんて言い出したら、止めるべきかしらね・・・・・・って)


ワルツがこれからの行動を悩んでいると、飛行する機動装甲の背中から、一番最初にルシアが飛び降りていった。

どうやら、ワルツが考えていた以上に責任を感じていたらしい。


それに続いてユリア、さらにはシルビアも飛び立っていく。


「ちょっ・・・みんな、どれだけ行動力があるのよ・・・」


昔見たスパイ映画で、工作員が飛行機から飛び降りる姿を思い出しながら思わず呟くワルツ。


飛行する(すべ)の無いユキが飛び立つことは流石に無かったものの、そんな仲間たちの暴挙に、


(あー・・・やっぱり、シートベルトは必要だったわね・・・)


と、ワルツは今更ながらに後悔するのであった。

なお、どうしてシートベルトをつけさせなかったのかという理由については、ユキ以外全員、空を飛べるから、という説明だけで十分だろうか。




「・・・待ちなさい、ルシア」


ワルツは落下していくルシアよりも早く飛行し、彼女の手を掴みとった。

同時に、ユリアとシルビアを重力制御で捕縛し、ユキを機動装甲の背中にベルト(?)でぐるぐる巻きに固定する。


「・・・お姉ちゃん・・・でも・・・私・・・」


目尻に涙を溜めつつ、ルシアが呟いた。

そんな妹の姿を見たワルツは、


ぎゅっ!


っと彼女を引き寄せて、そして優しく抱きしめてから、(さと)すようにして言った。


「ビクセンがこんなことになってるのは、少なくとも貴女のせいじゃないわ。まずは落ち着いて状況を整理するべきよ。・・・この意味が分かるわね?」


「・・・意味・・・?」


ワルツの胸で涙を拭いた後、顔を上げてからルシアが問いかける。


「そう。どうしてビクセンがこんなことになっているのか、それは今、考えなくてもいいの。まず最初にすべきことは、自分や仲間たちの身に危険が及ぶ可能性が無いかどうかを調べることじゃないかしら?」


「自分たちに危険・・・誰かがビクセンを滅茶苦茶にして、私たちを狙ってるかもしれないってこと?」


「そういうこと。・・・みんなには申し訳ないんだけど、私が居る限り、神とか天使とか、面倒な者たちに眼を付けられるのは避けられないのよ。もしかすると今回も、彼らが関係しているかもしれないしね。まぁ、サウスフォートレスで彼らを撃退したのは2週間前のことだから、すぐに攻撃を仕掛けてくるっていう可能性はあまり高くないかもしれないけど、念には念を入れてほしいのよ・・・」


「・・・」


そんなワルツの言葉を聞いた後、今もなお、黒煙が立ち上るビクセンに眼を向けるルシア。

・・・だが、そんな彼女の表情からは、先ほどのような、自分がこの惨事を引き起こしてしまったかもしれないという後悔の念は消えていた。


「・・・ルシアは、私の勇者になるんでしょ?」


「勇者・・・うん。私はお姉ちゃんの勇者!」


「・・・なら、私の話を聞かなきゃね?」


「えっと・・・うん・・・先走って、ごめんなさい・・・」


「んー、まだ、先走った内に入らないから別に良いわよ」


というわけで、ルシアはどうにか我に返ったらしい。


ワルツはそんな妹を機動装甲の背中に作った座席に座らせた後、今度はユリアに視線を向けた。


「・・・さて、ユリア?貴女も分かってくれるかしら?」


彼女にも今の会話は聞こえていたはずだが、ルシアと違ってユリアには、ビクセンの町の中に親類が住んでいるらしいので、素直に応じてくれるとは限らなかった。


「ワルツ様・・・」


シルビアと共に空中に捕縛されているユリアが、足元に見える町から視線を逸らさずに口を開く。


「・・・私はワルツ様に忠誠を誓った者です。ご命令とあらば、例えどんなことに手を染めても構いません。・・・ですけど・・・やっぱり・・・自分の故郷が傷ついてしまうのは・・・ぐすっ・・・」


・・・抑えきれなくなったのか、故郷の地に向かって、ユリアの眼から大粒の涙がこぼれ始めた。


「先輩・・・」


真横にいたシルビアも、今のユリアには何と声を掛けていいのか分からない様子であった。

いや、分からないからこそ、せめてユリアの側に居ようと思い、彼女に付いて飛び立っていったのだろう。


「ユリア・・・。貴女が故郷をどう思っているのか、私も元の世界で故郷の地を守っていたからよく分かるわ。でも今、貴女が行ったからって、考えも無しに何が出来るのかしら?まずは情報収集が先じゃない?・・・だって貴女、一国の諜報機関のトップなんだから・・・」


「・・・ぐすっ・・・」


故郷に向かって悲しげな視線を送るユリア。


・・・だがそれも短い時間のことであった。

間もなく彼女は、文字通り歯をくいしばり、まるでその身か心が削れているかのような苦悶の表情を浮かべた後で、鋭い視線をワルツに向けてから口を開く。


「・・・オーダーを・・・ワルツ様」


「・・・シルビアと共に危険分子が存在しないかどうかを確認。その後の行動については追って連絡するわ。あと、敵がいた場合は無茶しちゃダメよ?もしも戦闘に発展しそうなら私とルシアが行くから、連絡を頂戴?」


『承知致しました』


そしてワルツが拘束を解いた瞬間、2人は真っ直ぐにビクセンの町へと降りていった。

・・・ただし、いつもの偵察任務のように、変身魔法を行使した状態で。


(説得するのって大変だけど・・・こればっかりは仕方ないわよね・・・)


内心で溜息を吐きながら、一番対話が大変そうな相手に視線を向けるワルツ。


「・・・ユキ?少しは、我を取り戻したかしら?」


「・・・」


・・・返事がないところを見ると、まだ真っ白になっているらしい。


だが、しばらくの後、ユキは眼を瞑った後で、自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をしてから、ワルツに視線を向けて話し始めた。


「・・・ボクをビクセンに降ろしていただけませんか?」


ある意味、予想通りの言葉が飛んできたので、ワルツはユリアに言った言葉を、そのままユキに向ける。


「・・・今、貴女が行ってどうにかなるの?」


そんなワルツの言葉に、ユキは首を横に振った。


「ボクにとっては・・・どうにかなるか否かは関係無いのです。どうにかしなくてはならないのです」


そしてユキは・・・左手の中指に付けていた指輪を外したのである。


すると・・・


「・・・!」


ユキの見た目が大きく変化しているらしく、ルシアが驚きの表情を浮かべた。

どうやら、彼女の外した指輪は、変身するための魔道具だったらしい。

・・・ただし、変身魔法の効かないワルツには、全く変わって見えなかったが。


ただ、仲間たち・・・それも、ユキの本来の顔を()()()()()ユリアやカタリナを(あざむ)くという意味では、十分な効果を発揮したことだろう。


・・・そしてユキは、ワルツの前で跪いた後、とんでもない暴露を始めた。


「ワルツ様。改めてご挨拶申し上げます。・・・ボクがボレアス帝国皇帝、ユークリッド=E=シリウスです」


・・・どうやら、ボレアス帝国は2ヶ月近くの間、皇帝不在だったらしい・・・。

先ほどのことじゃ・・・。

工具を持って何かを作っておった主殿が『あ゛ーーー!!』と意味不明な声を上げた後で、ふて寝を始めてしまったのじゃ。

一体、何が起ったのじゃろうか・・・まぁ、たまにあるから良いか。


それはさておきじゃ。

妾は書いておって思ったのじゃ。

ルシア嬢の『自分たち()危険・・・』というセリフが、『自分たち()危険・・・』に見えると・・・。

・・・例えそうだとしても、全く違和感が無いのはどうしてじゃろう・・・。

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