14.12-07 無力?7
テレサとルシアは、その事実に狼狽えた。
「ふ、不潔……」
「ポ、ポテが、大人の階段を登ってしまったのじゃ……」
あまり広くない家の中で、いったいなんてことをしてくれるのか……。口を手で押さえながら顔を真っ赤に染め上げる2人だったものの、彼女たちの思考は、後ろから聞こえてくる声によって、中断することになる。
『おや?お二人とも。おはようございます』
何ということはない、といった様子で現れたのはポテンティアだ。ちなみに2人目(?)である。
「ちょっと、ポテちゃん?!あれ、どういうこと?!」
「ポテよ……いや……うん……プライベートなことゆえ、妾たちが口を挟むというのも何なのじゃが……あれはどういうことなのじゃ?!」
『ん?あぁ、あれですか。あれは、僕によく似たマネキンですよ?』
「「……えっ?」」
『昨晩のことですが、マリアンヌさんが、暗い部屋で一人で眠るのが怖いと仰いましてね?添い寝が出来る何かを要求してきたのですよ。でも、僕自身が抱き枕になるというのも、皆さんから後で何を言われるのか分からなかったので、しかたなく自分そっくりのマネキンを作ってベッドに寝かせておいたのです』
「どういうこと?」
「なんというか、説明を聞けば聞くほど、事情がよく分からなっていくのじゃ……。別に、ポテ型マネキンじゃなくても良かったのではなかろうか?」
『えぇ、マリアンヌさんも、男の子なら何でも良いと仰っておりましたので、最初は僕以外の誰かの姿を真似ようと思ったのですよ。ですが、僕が知っている男の子と言えば、アトラス様か、ジャックさんか……。ですが、あのお二人のマネキンを作るというのは、本人の許可も頂いておりませんし、気が引けてしまったのです』
「まぁ……そうだね……ん?男の子なら何でも良い……?」
「ただ飾るだけでも、本人たちに見られれば問題じゃからのう。ましてや抱き枕ともなれば、尚更なのじゃ」
『ですよね。ですから結局、僕自身のマネキンを作った、というわけなのです。まぁ、僕は男の子でも女の子でもありませんが……』
「ふーん……」
「ポテを抱き枕にするとか、酔狂なのじゃ」
ルシアとテレサは、一応納得した様子で、未だ眠るマリアンヌに視線を送った。そんな彼女は、姦しい部屋の中でも眠り続けており、目を覚ます気配は無い。
「すごいね。これだけ騒いでるのに目を覚まさないとか」
「まるで言霊魔法を受けた——」
「『…………?』」
「……いや、何でもないのじゃ」
テレサはすべてを口にせず、言葉を飲み込んだ。今ここで言霊魔法を使って某人物を寝かせたことを打ち明けてしまうと、自分の身に危険が及ぶと思ったのだ。
結果、彼女は、話を誤魔化すついでに、マリアンヌに近寄って、彼女の肩に手を置いた。そして彼女の肩を前後に揺する。
「マリアンヌ殿?マリアンヌ殿!朝なのじゃ!早く起きねば食事が冷えるのじゃ?……出来たての寿司をア嬢に食わせねば、妾の命が無いゆえ、起きて欲しいのじゃ……」ぷるぷる
しかし、テレサが声を掛けても、マリアンヌが起きる気配は無い。
あまりに起きなさすぎるマリアンヌを前に、テレサは首を傾げて、更にマリアンヌのことを揺すろうとする。その際、彼女はふと気付いた。
「むっ……冷たい……?」
マリアンヌの体温が低い——そんな気がしたのだ。
「いや、まさか……」
死んでいる……。そんな懸念を抱いて、テレサがマリアンヌの首元に手を伸ばした——その瞬間の事だ。
ガバッ!!
「?!」
突然伸びてきた白い手に引っ張られて、テレサがベッドの中に吸い込まれた。つい数分前に、別の部屋でほぼ同じ光景があったように、彼女はマリアンヌの手に引っ張られて、ベッドの中へと引きずり込まれてしまったのである。




