14.12-06 無力?6
「……ここまで来たのは良いが……」
テレサはスヤスヤと眠るルシアの前までやってきた。そんな彼女の言葉どおり、ここまでは問題無かった。そう、ここまでは。
問題は、ルシアに掛けた睡眠の言霊魔法を解いた直後、どうなるのか……。テレサは最悪の事態を想定しながらも、意を決してルシアに呼びかけた。
「……ア嬢。朝なのじゃ。『起きるのじゃ』」
その瞬間だった。
ガッ
目を瞑ったままのルシアが、テレサの胸元へと伸びてくる。狙いは襟首だろうか。
対するテレサは、慌ててその場から立ち退こうとする。横になっていたルシアの腕のリーチはそれほど長くないので、少しだけでも離れれば事なきを得られるはずだったからだ。
だが、テレサの思い通りにはならない。妙に身体が重くなり、その場から動けなくなってしまったのだ。寝ているわけではないので金縛りではないが、限りなく金縛りに近い状態だ。……ルシアの重力制御魔法の影響である。
「んなっ?!」
グイッ!
結果、テレサは、碌に抗うこともできないまま、ルシアに引き寄せられる形で、ベッドにダイブすることになった。
「……どうしてこうなったのじゃ……」
状況は、先ほど目を覚ましたときと同じだった。ルシアがテレサの腕にしがみつきながら寝ているという状態である。
「…………」
さて、どうしたものか……。もういっそのこと、ルシアと共に、このまま二度寝に突入してしまうべきだろうか……。テレサは悩んだが、心を鬼にして(?)、ルシアに向かって呼びかけた。
「……そろそろ朝ごはんなのじゃ」
「……zzz」すやぁ
「……早く起きねば、ご飯が冷めてしまうのじゃ」
「……zzz」すやぁ
「……残念ながら、寿司は無いがの」
「…………」ぎゅぅぅぅっ
「痛っ?!爪?!爪が立っておるのじゃっ?!」
「……zzz」すやぁ
「お主……絶対、起きておるじゃろ……」
テレサが指摘するも、ルシアが起きる気配は無い。いや、起きている気配はあって、狐寝入りならぬ狸寝入りをしている、というべきか。
なぜルシアは起きようとしないのか……。彼女との長い付き合いで理由を察していたテレサは、深い溜息を吐きながら、どこからともなく無線機を取り出して……。そしてその向こう側にいるだろう人物へと向かって、こう言った。
「……コルよ。寿司の出前を頼むのじゃ。ワサビ抜きで。それも出来たてほやっほやの奴を頼むのじゃ」
その瞬間——、
ガバッ!!
——と掛け布団が取り払われる。ルシアが飛び起きたのだ。
◇
「ほら、テレサちゃん!早く早く!早くしないとお寿司が届いちゃうよ?ミッドエデンとの時差ってどのくらいだったっけ……。もう向こうはお昼だし、お寿司屋さんも開店しちゃってるよね?!」
「……解せぬ」げっそり
睡眠状態から、一気に覚醒状態になったルシアに手を引っ張られながら、テレサは納得できない様子で廊下を歩いていた。ただ、内心ではホッとしており、無事にルシアの部屋から出られたことに安堵していたようである。
そんな2人がやってきたのは、マリアンヌの部屋だった。彼女の事を起こしに来たのである。
コンコンコン……
「マリアンヌさん?入るよ?」
「起きておるかの?」
返事が無かったため、2人は扉を開けて、マリアンヌの部屋へと入った。マリアンヌはまだ寝ているのだろうと思ったのだ。
実際、マリアンヌはベッドで眠っていたようである。そんな彼女の姿を見たルシアは、一瞬、勝ち誇ったような表情を見せた。この家では、彼女が一番寝起きが遅かったのだが、そんな彼女よりもマリアンヌの方がさらに遅かったからだ。
テレサもルシアと同じようなことを考えていて、ルシアよりも寝起きの遅そうなマリアンヌを前に、苦笑を浮かべていた用である。
しかし、その直後、2人の表情がピシリと凍り付く。というのも——、
「「……え゛っ」」
——マリアンヌが抱き枕のように、ポテンティアのことを、四肢で抱え込むようにして眠っていたからだ。それも少年の姿をしたポテンティアのことを。
気まずいやつなのじゃ。




