14.12-05 無力?5
「さっきのあれは、誤解なのじゃ!」
「ごめん、テレサ。何が誤解なのかよく分からないのだけれど……」
ワルツたちが、テレサとルシアを起こしに行ったところ、なぜか二人仲良く同じベッドで寝ていて(?)……。それを邪魔してはいけないと思ったのか、ワルツたちは、そっと扉を閉じて、リビングへと戻った。
そんなワルツたちを前にしたテレサは、それはもう焦ったようである。隣で眠るルシアの事などお構いなしに、布団を撥ね除け飛び起きて……。そしてワルツたちの事を追いかけようとした。
その際、ルシアが、不機嫌そうな様子で目を覚ましてしまったようだが、テレサは言霊魔法を使って容赦無くルシアの事を寝かしつけて……。そして、ワルツたちを追いかけて、リビングまで駆け込んだ。
「何が誤解って……それはもちろん、妾とア嬢が一緒に寝ておったことなのじゃ!」
「別に良いんじゃないの?」
「えっ……良いのか……いや、良くないのじゃ!」
「……ホント、ムキになって否定する理由が分からないのだけれど……仲の良い友人や姉妹と一緒に眠るとか、普通の事よね?」
「違う……違うのじゃ!こ、これは……その……そう!プライドの問題なのじゃ!」
「じゃぁ、ルシアの事、嫌いなの?」
と、ワルツが問いかけると——、
「…………」しーん
——急にだんまりと口を閉じるテレサ。決して、ルシアの事が嫌いというわけではないらしい。
そんなテレサを前にして、ワルツは言った。
「あまり誤解されるようなことを言ってると、ルシアに嫌われるわよ?」
「…………」
テレサは言い返す言葉が見つからなかったのか、シュンとしたまま俯いてしまった。ルシアに嫌われるというのは、プライドとは関係無く、不本意な事だったようだ。
それを見ていたワルツは、「やれやれ」と肩を落としてから、テレサに対して問いかけた。
「で、ルシアは?それだけ慌ててやってきたら、あの娘も起きているはずよね?」
ルシアも起きているなら、テレサと一緒にリビングへと来ているはず……。ワルツが問いかけると、テレサはしょんぼりとしたまま、返答する。
「今は眠っておるのじゃ。むしろ……眠らせてきたのじゃ」
「もう、何やってるのよ……。そろそろご飯だから、起こしてきてちょうだい。あと、ついでに、マリアンヌのことも起こしてきてもらえると助かるわ?」
「わかったのじゃ……」
テレサはそう言ってコクリと頷くと、その場を去っていった。そんな彼女の背中には、ズーンと青い色のオーラのようなものが纏わり付いていたようだが、どういうわけかワルツの表情は対照的に明るいままだった。
というのも——、
「さすがアステリア。バレなかったわね?」
——彼女はアステリアと共に、何やら実験を行っていたからだ。
『椅子がもう一つ増えていたら、疑問に思われるかと思ったのですが、まったく気付かれませんでしたね……』
「貴女、やっぱり、才能があると思うわよ?隠れんぼとかをしたら、最強だと思うわ?」
『いえいえ、ポテ様には勝てませんよ』
「……比較対象としてどうかと思うけれど、でも、良い勝負にはなると思うわよ?」
ワルツはそう言って苦笑を浮かべた。すると、そこにあった椅子がボフンという音を立てて、アステリアの姿に変身する。
「でも、それだけ擬態能力が高ければ、その内、自分の本当の姿を忘れることになっちゃうんじゃない?」
「それは……多分、大丈夫のはずです。変身している間、魔力を消費するので、魔力さえ止めれば、元の姿に戻りますから」
「なら良いのだけれど……」
変身が得意なキャラクターが、いつしか自分の本当の姿を忘れて化け物になってしまう……。そんな映画を思い出したワルツは、ふと不安に襲われたようである。
「ところで——」
何やら思い悩んでいる様子のワルツに対し、今度はアステリアが話しかける。
「あの2人は、どういう関係なのですか?」
あの2人——即ち、ルシアとテレサである。彼女たちはどういう関係なのか……。見る限り、姉妹には見えず、かと言って仲が良い友人同士のようにも見えず……。アステリアとしては、よく分からない間柄のように見えていたらしい。
対するワルツは、眉間の皺をより深く刻みながら、アステリアの質問に返答した。
「実は、私もよく分からないのよ。ただ言えるのは、すっごく仲が悪いように見えて、実はすっごく仲が良いってことくらいかしら。仲が良すぎて仲が悪く見えるっていうか……オーバーフローしているって言うの?」
「……すみません。オーバーフローというものがよく分からないのですが……」
「まぁ、そうよね……。分からないわよね……。とにかく、仲が悪いように見えるくらい、仲が良いって事」
「……すみません。やっぱりよく分かりません」
「うん。その認識で合ってるわ。私もよく分からないもの……」
ワルツもアステリアも、深く考えるのをやめたようである。
のーこめんとなのじゃ!




