14.12-04 無力?4
ルシアが目を覚ます。彼女は比較的朝に弱く、目を開けた後も、酷く眠そうな様子だった。
「ふぁぁぁ……ねむ……」
ルシアは大きな欠伸をした後、ベッドの縁に腰を掛けて、ボーッとした後、徐にベッドから起き上がろうとした。その際、彼女は、ベッドの中に妙な物体がある事に気付く。
フサァ……
「…………うん?」
見た目は銀色の毛玉のようで、大きさが60cm程度の物体。そんなものが、ベッドの中に転がっていたのだ。
その謎の物体を見たルシアは、ややしばらく考え込んでから、その物体が何であるのかを察した。
「これ、テレサちゃんの尻尾じゃん……」
なぜそのようなものが、ベッドの中に転がっているのか……。尻尾を握り締めたルシアは、しばらく尻尾を観察して、そして何を思ったのか臭いを嗅いでから、更なる異変に気付くことになる。
「……ここ、私の部屋じゃないじゃん……」
そう、ルシアが眠っていたのは、彼女の部屋ではなく、テレサの部屋だったのだ。
いったい、どういうことなのか……。寝起きだったためにまだボンヤリとしていたルシアにはよく分からず、とりあえず部屋を出て、自分の部屋へと戻ることにしたようだ。
そして、扉を開け、中に入ると、そのベッドの上に——、
「…………zzz」
——なぜかテレサの姿があった。理由は不明だが、ルシアとテレサとで、部屋を交換する事態になっていたらしい。
「……どういうこと?」
いったい昨日のうちに、何があったというのか……。
「…………まぁ、いっか」
多分、何かがあったのだろう……。ルシアのボンヤリとした思考では、深くを考えることはできず、彼女はベッドの中へと潜り込んだ。眠すぎたために、そこでテレサが寝ていようとも、どうでも良くなっていたのだ。
そして、テレサの温もりを感じている内に、ルシアの意識はフワリと夢の世界に旅立っていった。
◇
今度はテレサが目を覚ます。彼女は朝に弱いわけではなく、パチリ、といった様子で意識を覚醒させた。
だが、普段と違い、彼女は身体を起こせなかった。理由はただ一つ。
「(んなっ……な、なぜ隣でア嬢が寝ておる……?!)」
何故か隣にルシアの寝顔があったのだ。
「(ま、待てよ……待つのじゃ、妾……)」
いったいなぜこんなことになっているのか……。テレサは昨日何があったのかを思いだした。
昨日、夜遅くに帰宅した一行は、家に着くや否や、すぐに就寝の準備を始めたのである。中でも、ルシアは、家に着いた時点でウトウトとしており、半分意識が飛んでいる状態。そんな彼女は、歯を磨いた後、何を思ったのか、テレサの部屋のベッドで眠り始めてしまったのである。
そんなルシアの事を、本来であれば自身の部屋へと運ぶべきだったのだが、テレサには彼女の事を移動させることが出来なかった。ルシアは寝起きの機嫌が悪く、下手に起こすようなことをすれば、なにをされるか分かったものではなかったからだ。
なら、ルシアはそのままにして、自分がルシアの部屋で寝れば良い……。安直にそう考えたテレサは、ルシアのベッドで寝始めた、というのが昨日の顛末である。
「(いつの間に戻ってきたのじゃ……)」
恐らく、夜の内に、ルシアが目を覚まして、自身のベッドに戻ってきたのだろう……。テレサにはおおよその見当が付いていたようである。
問題はここからだった。このままルシアが目を覚ますようなことがあれば、おそらく事情を知らない彼女は、テレサの存在に気付いて、驚きの声を上げるに違いないのである。そうなれば、テレサは、なぜルシアと一緒に眠っていたのか、と弾糾されることになるはずだが、どんなに言い訳を言ったとしても、ルシアの部屋のベッドで眠っていたテレサの立場が弱いのは必至。ゆえに、テレサにできる最善の方法は、一刻も早くその場から逃げ出すことだった。
ところが、話はそう簡単ではなかった。ルシアがテレサの腕にしがみついて眠っていたのだ。
「(う、動けぬ……いや、腕を外して逃げるか……?)」
腕を犠牲にして部屋から逃げるべきか……。それはそれで後で何かを言われそうだと思いながら、しかし命には変えられないと考えたテレサが、人生最大の危機(?)を全身全霊を以て乗り越えようとしていた、まさにそんな時——、
コンコンコン……ガチャッ……
「「……えっ」」
「え゛っ」
「……zzz」
——なぜかタイミング悪く、ワルツとアステリアの2人が、ルシアの部屋へとやってきたのである。




