14.12-03 無力?3
ガタンッ
「おはよー」
「あ、ワルツ様!おはようございますかもだし!」
「おはようございます。ワルツ様」
食卓近くにあった地下室に繋がるハッチを開けて、ワルツが顔を出した。ハッチから出た彼女は、食卓にいたイブに気付くと、昨日のことを思い出して謝罪の言葉を口にする。
「ごめん、イブ。昨日は転移魔法陣が動かなくて、帰れなかったのよね?」
と、口にするワルツだったものの、イブから帰ってきた返答は、予想とは異なるものだった。
「んと、昨日は帰らずに、ワルツ様や皆の帰りを待ってたかも。夕ご飯食べると思って。でも……気付いたらイブ、ワルツ様のお部屋で寝ちゃってたかもなんだよね……」
「あ、うん……(ごめん、イブ。BBQを食べてきた……って言えない……)。貴女、最初は食卓で眠っていたのだけれど、起こすのは可愛そうだったから、私のベッドに移動させておいたのよ」
「ご迷惑をおかけしてしまったかもだし」
と言いながら頭を下げようとするイブに対し、ワルツは「迷惑だったらベッドに運ばないわよ」と答えて……。そして、食卓の椅子に腰を下ろした。
「ルシアが目を覚ましたら、ミッドエデンに転移魔法陣を設置してくるから、帰るのは少し待っててもらえるかしら?」
「助かるかも!」
イブはそう言うと、尻尾をフサッと揺らしてから、朝食の調理へと戻った。そんな彼女の背中を見ながら、ワルツはイブに聞こえない大きさの声で、ポツリと呟く。ただし、同じ食卓にいたアステリアには聞こえる程度の大きさで。
「イブって、良い子よね……」
「えぇ……」
アステリアには首肯しか返せなかった。アステリアから見たイブは、他の者たちと毛色こそ異なるが、皆と同様、強大な力を持っているように見えていたのだ。ただし、皇女という立場に付随する権力、という意味ではない。料理の腕然り、掃除の腕然り、誰よりも朝早くに目を覚まして皆のためを思って行動を始めること然り……。イブの一挙手一投足、人としての基本的な所作という点において、イブから何か滲み出る物を感じたのである。
そんなことを考えていたためか、アステリアの反応は淡泊なものになってしまう。それに気付いたワルツが問いかけた。
「ん?何かあったの?アステリア。なんていうか……元気が無さそうに見えるんだけど?」
ワルツが問いかけると、アステリアは——、
「い、いえ。なんでも……ありません」
——と、誰の目から見ても明らかに、なにかあったかのような反応を見せたので、ワルツは続けて問いかけた。
「何でもないようには見えないわね。もしかして……自分が非力とかそんな事を思ってたりする?」
「っ?!」
「図星、みたいね」
「ど、どうして分かったのですか?!」
「簡単な話よ?今まであって来た色々な人たちが、皆、同じ表情を浮かべながら、自分は非力だ、自分は無能だ、って嘆いていたから」
「え゛っ」
「そんなこと気にしなくたって問題無いわ?得意なことなんて、その内、勝手に見つかるものだし」
「え゛っ」
そんな簡単に見つけられるわけがない……。アステリアは、ワルツの言葉を聞きながら、内心のどこかで彼女の言葉を否定した。
しかし一方で、アステリアはワルツの言葉を信じたくもあった。そうでなければ、自分はただの無能・無力なだけの存在、ということになるからだ。
ゆえに、アステリアの口からこんな言葉が零れてくる。
「私……取り柄と言えるものが殆ど無いんです。さっき、イブちゃんと色々やってて、一つは分かったのですが——」ボフンッ『生き物以外のものに変身できるくらいのもので……だからといって、何かに使えるわけでも無くて……』
「……いや、それ、特技どころか、すごい才能だと思うけれど?」
ワルツはアステリアの発言を前に、思わず呆れたような表情を浮かべた。彼女は、アステリアの変身を見た瞬間に、その才能がもつ可能性に気付いていたのだ。
今日はサンタ爺が大陸間を弾道飛行する日らしいのじゃ。




