14.12-02 無力?2
「私、どうすれば良いと思います?」
「んー……悩ましいかもだよね。イブも未だに悩んでるかもだし……」
イブは悩んだ。そんな彼女が、もっと自分の事を客観的に見ることが出来たなら、きっとまた別の考えに至ったことだろう。しかし、イブは、自分の事を、どこにでもいるような"普通の少女"としか思っておらず……。そのせいで彼女は視野狭窄に陥り、判断を誤ってしまっていたようだ。まぁ、それこそが、彼女たちの能力向上へと繋がっているのかも知れないが。
「そだね……話を聞く限り、アステリア様の耳が良いっていう能力は、ワルツ様も他の人も持ってない能力だと思うから、そこを伸ばすっていうのはどうかもかな?」
「耳……ですか?でも、耳を使っても、物を宙に浮かべることは出来ませんし、岩を割ることも出来ませんよ?」
「あ、うん……。えっと、これを最初に聞いておくべきだったかもだね。アステリア様はどんな風になりたいかもなの?強くなりたいかもなの?それとも、他に何かなりたいものがあるかもなの?」
なりたいものは何なのか。アステリアの夢は何なのか……。イブはそれを先にハッキリとさせておこうと思ったらしい。たとえアステリアに隠された特技があったとしても、それを伸ばすことでアステリアの思い描くような未来にたどり着けるとは限らないからだ。
対するアステリアは、「なりたいもの……」と零した後で、あまり時間を掛けることなく、こう答えた。
「妹に誇れるような姉になりたいですっ!」
「そっかー(妹さんと張り合ってる……かも?妹さんには負けたくないかもなんだね)」
もしも自分に妹がいたなら、自分は姉としてどうありたいと思うのか。あるいは、自分よりも年下の者たち——例えば、自分を慕ってくれているサキュバスの少女ローズマリーや、相棒の飛竜カリーナなどを前にしたとき、自分だったらどうありたいのか……。イブは考えを巡らせる。
「んと、多分、耳の良さって、妹さんも同じだと思うから、その能力を伸ばしても、あまり効果はないかもだね」
「え゛っ……で、でも、それじゃあ、私の取り柄が……」
「まだ、心配しなくても大丈夫かもだし。ちなみになんだけど、アステリア様が変身できるのって、キツn……人だけ?」
「えっ?えっと……試してはいないです。変身できるかな……」
アステリアはそう口にすると、ボフン、と煙を上げながら変身した。
そして煙が消えた時、そこには見かけないポットが現れる。高さ20cmほど。むしろ、ケトルと言った方が良いかも知れない。
「何でやかん……」
イブにはやかんに見えたらしい。彼女が怪訝そうに呟くと、ケトル(アステリア)はこう答えた。
『形的に変身しやすいと思ったんです。試したのは初めてですけど、ちゃんと変身できてます?』
「う、うん……。非の付け所は無いくらいに、上手く変身できてるかもだし」
と言いながら、ケトルを持ち上げるイブ。どうやら重量も変わっているらしい。
それから彼女は蓋を持ち上げて中を覗き込もうとするが——、
「むむっ?」ググッ
『あ゛っ……ちょっ……そこ頭です!』
「えっ……」
『ど、どんなに引っ張っても外れないですよ!』
——どうやらケトルの蓋のつまみが、元の姿で言う頭の部分だったらしい。蓋も開かないようだ。
「じゃぁ、取っ手の部分は?」
『もちろん、腕です』
「あ、うん……。ちなみにお湯が出る口の部分は?」
『そこは尻尾です』
「そうなんだ……(いったいどんな体勢になってるんだろ……)」
イブはアステリアの体勢を想像した。その結果、体躯座りをして、尻尾をピンと立て、そして両腕を胸の前でLの字に構えているアステリアの姿が浮かんできたようだが、何となくシュールだったためか、イブは首を振って、考えを霧散させた。
「んー、やかんじゃなくて、別の姿の方が良いかもだね」
と、イブが口にすると、ケトルはボフンと煙を上げながら、元のアステリアの姿に戻る。
「そうですか……」しゅん
イブの言葉があまりポジティブなものではなかったためか、アステリアはしょんぼりと尻尾を下ろした。
しかし、対するイブの表情は明るかった。
「あまり落ち込むことは無いかもだし!色々なものに変身できそうなんだから、あとはどう活用するかを考えれば良いかもだと思うよ?」
「活用……?」
「例えば、お洋服に変身してみるとか」
「お洋服……」ボフンッ『こうですか?』
アステリアの声でそう口にするのは、マフラーだった。真っ黒なマフラーだ。どう見ても狐の毛皮を加工したマフラーである。
「……ちょっと、自虐が過ぎるかもだね……」
『?』
どうやらアステリアには、イブが何を言っているのか分からないらしい。
対するイブも、アステリアの変身能力の可能性については、色々と思うことがあったようだが、服に変身させるというのはやめておくことにしたようである。何となく後ろめたい気分になったらしい。場合によっては、アステリアの毛皮で作った服のようなものができるかもしれない、などと考えたのだ。
それからイブは、アステリアと共に、変身魔法の使い道を考えるのだが、そう簡単に案が出てくることは無く……。他の者たちが起きてくるまでの間、二人で悩み続けたのであった。
狐のことは大好きなのじゃが、毛皮はいらぬのじゃ。
やはり生きておるやつを、ガッ、ギュッ、とやるのがいいのじゃ。




