6前前-11 旅路(ミッドエデン-ボレアス)4
前話と前々話の、ボクっ子ユキの一人称を修正。
空に少々雲が広がっている昼下がり。
キィィィィン・・・
そんな甲高い金属音が鳴り響く大空の上で、
「ぱくっ、はむはむ・・・うん、美味しいわね」
「狩人さんが作ってくれた料理って冷めても美味しいよねー」
ワルツ達は、狩人に手渡された昼食を摂っていた。
「・・・あの・・・ワルツ様?これって、旅なんでしょうか・・・」
つい先日、ヒイヒイ言いながらノースフォートレスまで石油(?)を汲みに行ったことを思い出したのか、シルビアがそんな疑問を口にした。
「んー、私がいた世界では旅って言ったらこんなものじゃないかしらね?」
と、テレビで見た、壁なし飛行機を売りにしている航空会社のCMを思い出すワルツ。
なお、ワルツ自身が飛行機に乗ったことはない。
もしも乗るとすれば、座席の小さい客室ではなく、恐らく貨物室に入る事になるだろう。
「随分、優雅な旅ですね・・・」
「それを売りにしてる旅行会社もあるくらいだから・・・」
「えっ・・・旅行会社って・・・旅を売っているんですか?」
「えぇ。行こうと思えば、星の裏側まで3時間で行けるような世界なんだけど、それでもゆっくりと景色を見ながら美味しいものを食べて移動したいっていう需要も多いしね。なんか、為替とか行き先とかの条件よって、儲かったり、儲からなかったりしてるみたいよ?サービスを代理通貨にしたFXみたいなものかしらね・・・」
「はあ・・・」
ちなみに、この世界では単一通貨のやり取りしかされていないので、為替は存在しない。
故に、為替やFXと言っても仲間たちには理解できなかったようだが・・・シルビアは、旅の売買という言葉に、興味を持ったようである。
「ただ人を運ぶ・・・っていうわけじゃないんですよね?」
「えぇ。その地方での旬の食材を提供したり、名物を見て回ったり、綺麗なホテルを用意したり・・・。それを全部手配して、客が旅を満喫出来るように提供するのが、旅行会社の役目よ?」
「そうですか・・・。なんか、面白そうですね!」
どういうわけか、ワルツの言葉に目を輝かせるシルビア。
彼女の様子を見る限り、どうやらこの世界には旅行会社は無い・・・というよりは、旅行会社という概念自体に初めて気づいたようである。
「でも、楽な仕事ではないでしょうね。旅先で客がケガをしたとか、事故に遭ったとか、そういった時に責任を取らなくてはならないのは旅行会社だから。・・・まぁ、そうなっても良いように会社も保険に入っているわけだけど・・・って、そっちの話も説明すると、長話になって日が暮れちゃうと思うから・・・詳しい話はコルテックスにでも聞いてもらえるかしら?」
「はあ・・・分かりました」
ワルツの言葉に、少し残念そうな表情を浮かべるシルビア。
その後、何やら手帳のようなものを取り出して、ワルツの話を書き込んでいるようであった。
(マメねぇ・・・)
そんなシルビアの姿を見ながら、彼女の血液型はきっとA型ね・・・、などと、ワルツは日本人的な予想を立てるのであった。
その後、10分ほど経って・・・
機動装甲の頭の上で、ワルツとルシアが一緒に足をブラブラさせながら景色を眺めていると、大河から始まった平原がそろそろ終わりを見せようとしていた。
「で、ユキ?方角は大丈夫かしら?」
「はい。目の前に見える高い山を超えたところがビクセンです」
「ふーん。普通、空から景色を見ると、自分の家や町がどこにあるとか分からない人が多いと思うんだけど・・・もしかして、あの山がユキの故郷だったりするの?」
「いいえ。ですが・・・そうですね・・・。ボク自身はビクセン生まれのビクセン育ちですけど、先祖はあの山で生活していたと言う話ですよ?」
「そう・・・寒そうだしね・・・」
頂にうっすらと雪が積もっている山に視線を向けながら、ユキの先祖は登山者を襲ってたのかしら・・・、などと思うワルツ。
そんな時、
「・・・皆様。予め言っておかなくてはならないことが3つほどあります」
ユキが急に改まって、そんな事を言った。
「・・・話が長くなるなら、速度落とした方がいい?」
「え?」
「いや、このままだと、3分くらいで山を超えて、ビクセンが見える距離に入ると思うんだけど・・・」
「3分ですか・・・恐らく、ちょうどいいでしょう」
刻一刻と近づいてくる山を一瞥してから、ユキは頷いて話し始めた。
「まず1つ目です。あの山を超えて見えてくる景色を見ても、驚かないで下さい。見た目ほど大変な事にはなっていないので」
「・・・!」
ビクセン周辺で大爆発が起こった原因であるルシアは、その言葉を聞いた途端、耳と尻尾をピーンと立てて、ユキの顔に視線を向けた。
・・・だが、ユキの表情は硬いものではなく、どこかコルテックスのように柔和な表情を浮かべていたので、ルシアはすぐに落ち着きを取り戻す。
とはいえ、ユキの言葉から察するに、ビクセンの見た目は相当大変なことになっているようなので、ルシアは心配そうな表情を進路の先へと向けるのであった。
「・・・2つ目です。見ず知らずの他人には、基本的に素性を明かさないで下さい。その理由については・・・言わなくても分かりますね?」
「要するに、貴女がミッドエデンの王城に来た時、私たちがした対応の逆ってことでしょ?」
「そういうことです。人間側の人々がやってきたというだけで、大騒ぎになるので・・・」
「・・・ていうか、私たちの格好でばれないかしら?」
「えぇ。大丈夫です。魔族も人間も服装に大差無いので、バレることはないでしょう」
補足するなら、服装だけでなく、顔つきや身体つきも、ということなのだろう。
「そして最後の1つです」
そう言ってユキは徐ろに立ち上がると、前方と下方の景色に鋭い視線を向けた。
「・・・頃合いですね」
機動装甲の直下を、ユキの先祖が暮らしていたという山が通過していくタイミングでそう呟くが・・・
・・・
「・・・あれ?」
何かを待っている様子のユキだったが、一向にその何かが起こる気配はなかった。
「ん?何かあったの?」
「はい。本来なら国境を越えた時点で、国境警備兵がやって来るはずなのですが・・・今日は来ないんですよ」
そう言いながら頭を傾げるユキ。
「ふーん。防空識別圏的なものがあるわけ?」
「ぼうくうしき・・・?・・・えっと、ボレアスはテイマーが多いので、飛行性の魔物に乗って越境する者たちを取り締まるために、空にも国境を設定してあるんです」
「テイマーね・・・」
(まさに、魔族の領域って感じね)
なお、ミッドエデンではテイマー人口が少なすぎるため、防空識別圏も領空も設定されていない。
・・・ただし、一般的には、だが。
「それで、国境警備兵が来る前に、言わなくてはならないことが・・・」
ユキが何かを言いかけた、そんな時だった。
「そ、そんな・・・」
雲の隙間から見えてきた景色を前に、ルシアが顔を青ざめさせながらへたり込んだ。
「ど、どうしたのルシ・・・!?」
ワルツも、
「嘘っ・・・」
シルビアも、
「え・・・」
ユリアも、
「・・・ボ、ボクの国が・・・」
そしてユキも、皆、言葉を失った。
・・・なぜなら、
「見た目ほど酷いことにはなってないって言ってたけど・・・これ、そう言うレベルじゃないわよね・・・。戦争でもあったの?」
ビクセンが、まるで戦争か災害が通り過ぎた後のように、ところどころ黒い煙を上げながら、廃墟と化していたからである・・・。
プロローグを修正したのじゃ・・・。
それでも修正しきれていない気しかせぬのは、妾の気のせいじゃろうか・・・いや、気のせいであって欲しいのじゃ。
それと、ついでに、6前前-01〜10までを微修正したのじゃ。
おかげで、次話のバッファが無くなってしまったがのう・・・。




