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14.11-51 生徒の帰還2

 視点は変わる。


 ワルツたちがいた学院には、学生寮があって、乗合馬車が定期的に出ていて、そして物資を運ぶ馬車が定期的に往来していた。規模としては村以上。むしろ、かなり大きな町一つ分くらいの規模だった。


 しかし、ワルツたちが学院で学生生活を送っている間、彼女たちはそれほど多くの学生たちを見かけることは無かった。乗合馬車は、看板があるだけで、周辺の町からやってくる事はなく、まるで廃線になった路線バスのよう。食堂も大規模なだけで、人は疎ら。教室も、数え切れないくらいたくさんあるものの、ガラ空きの教室が半分ほどあって、過疎化が進んだ田舎の学校のようになっていたのである。


 そう、学院には、本来、もっと多くの学生がいるはずだったのだ。ところがどういうわけか、学院の中には生徒たちも、そして教職員も、普段より人数が大幅に少なかったのである。


 いったい何故なのか……。理由は複数あるが、基本的にはワルツたちのせいである。彼女たちが、レストフェン大公国のトップであるジョセフィーヌを誘拐したが為に政府が不安定になり、国の方々、あるいは周辺諸国に出向いていた学生たちや教職員たちが、帰るに帰れなくなっていたのだ。ポテンティアがエムリンザ帝国を崩壊一歩寸前まで追い込んだのも理由の一つと言えるかも知れない。


 それが先日、ジョセフィーヌの帰還によって、大きく改善した。最も大規模な例は、今まで公都から出られなかった学生たちである。将来の就職先である軍や各種ギルドにおいて職場体験(インターンシップ)を行っていた学生たちが、ようやく公都から出られるようになったのである。


 そして今日。彼らの第一陣が学院に到着しようとしていたわけだが——、


「……なぁ」

「あん?」

「何だありゃ……」


——馬車に乗っていた学生たちの目に、何やら奇妙な光景が見えてくる。


「学院の前で、野営してんのか?」

「は?いやいや、そんな馬鹿なことをしてる奴がいるわけ——」

「なんか焼いて食ってるな……」

「……マジで野営してんのかよ」


 学院の目と鼻の先と言えるような場所で、何やら生徒のグループが野営をしていたのだ。


「なんかの授業じゃねえか?」

「ん?あそこにいるのは……ハイスピアじゃねぇか?」

「じゃぁ、やっぱり授業だな」

「おい!てめぇ!ハイスピア"先生"と言えよ!あるは"様"付けか」

「「「…………」」」


 馬車に乗った学生たちは、未だ頭が柔らかかったためか、非常識な行動を見せる学生たちを見ても、大きな混乱を見せることは無かった。本来であれば、魔物がいつ現れるとも分からない学院前で料理をするなどありえないことであり、もっと大きな騒ぎになったとしても不思議ではなかったのである。


 彼らが柔軟な考えを持っていた(?)のは、なにも若いことだけが理由ではない。彼らはここに来る前での間、必要以上に適応力を求められてきたのだ。公都にいた頃は、公都を取り囲むように謎の堀ができたり、謎の光球に襲撃を受けたり、そして学院の新兵器(?)による砲撃に曝されたり……。粉々に常識を壊されていたのである。


 公都の外でも同じだ。帰路では、いつの間にか妙に発展した村や、知らないうちに出来ていた巨大な陸橋などなど、驚きの連続に苛まれてきたのである。今更、非常識な生徒たちの行動を見た程度では、驚くことはないはずだったのだ。


 ……そのはずだったのだ。


  ドゴォォォォッ!!


「「「ッ?!」」」


  ヒヒィンッ!!


 馬車が急停車する。馬が驚いて止まってしまったのだ。


 学生たちも目をひん剥くほどに驚いていた。非常識な環境の中で鍛えられたはずの彼らの意識が、一斉に混乱という名のカオスの中へと叩き付けられていく。


 というのも、野営をしていた学生たちの頭の上に浮かんでいたのは、誰しもが忘れられない物体——先日、公都を襲った謎の光球(フレア)だったからだ。つまり、そこにいる学生の誰かが、光球を浮かべたことになるのである。


「「「嘘だろ?!」」」


 馬車に乗った学生たちが、自分の目を信じられない様子で唖然としていると、野営場で更なる変化が生じる。


  ドゴォォォォッ!!


 光球が無くなったかと思えば、今度は、天を貫かんばかりに炎の柱が現れたのだ。


「「「…………」」」ぽかーん


 その圧倒的な魔法を前にして、馬車の学生たちは頭が真っ白になった。そんな彼らは、例外なく全員がこう思ったようである。……自分たちは帰ってくる場所を間違えてしまった、と。


 なお、野営場の炎の近くにいた学生たちは——、


「やっぱ、キャンプって言ったら、人工太陽(フレア)じゃなくて、キャンプファイヤーよねー」

「もうちょっと強くしてみる?」どごー

「ちょっ……やめるのじゃ!お主らは火炎耐性があるゆえ良いかも知れぬが、周りの者たちには耐えられぬのじゃ!」ぼぅっ

「あちちっ?!テ、テレサ様が燃えてますよ?!」

『ふふふ……涼しくなってきましたねぇ!』

「あははは〜♪」

「あぁ……なんだか、すべての事がどうでも良くなるような光景ですわ……」


「「「…………」」」ぽかーん


——といったように、炎を中心にして燥いでいたとかいなかったとか……。まぁ、一部には、展開について行けず呆然と立ちすくむ者たちもいたようだが。


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