14.11-50 生徒の帰還1
昼食を食べていないのは、ルシアたちも同じだった。むしろ、その場にいた者たちの中で、昼食を摂っていたのは、学院で入学試験を受けていたマリアンヌくらいのものだと言えた。
故に——、
「それじゃぁ、BBQしましょ?BBQ」
——ワルツは外でバーベキューをすることにしたようである。流石に学院内でバーベキューをすると怒られると思ったらしい。一応、今の時間は、学外での授業をしているはずなので、学院の外に出て野営をしたとしても問題はないはず、とワルツは考えたようである。
「随分、唐突だね?」
「まぁ、確かに、昼食は食べておらぬがの?」
「私もお供いたしますわね。お昼ごはんはあまり口に合いませんでしたし……」
『なるほど。つまり、お肉と野菜を採ってくれば良いと言うわけですね?森で』
「あの……BBQってなんですか?」
アステリアが問いかける。
「外で、肉とか野菜とか魚とか貝とかを焼いて食べるやつよ?」
「つまり、外で料理をする、ということですね!分かりました!」
「えっと……ちょっと違うような、合ってるような……」
すこし勘違いをしている様子のアステリアを前に、ワルツは詳しく説明するかどうかを悩むが、説明するよりも体験してもらった方が早いと思ったのか、そのまま話を進めた。。
「じゃぁ、ポテンティア?美味しそうな魔物を1匹調達してきてもらえるかしら?」
『どこに配達すればよろしいでしょうか?』
「そうねぇ……外の空き地で良いんじゃない?ほら、陸橋の付け根辺りの高台」
『承知しました。……なるほど。兄弟たちによると、あと3分ほどで到着するとのことです』
ポテンティアは、いったいどこから何を届けようというのか……。皆、頭にクエスチョンマークを浮かべていたようだが、当然と言うべきか、ポテンティアからもワルツからも説明は無い。
「それじゃぁ、遅めの昼食……っていうか早めの夕食を摂りたい人は、私に付いてきてね?」
ワルツはそう言って歩き始めた。その後ろを、ルシアやポテンティアたちなど、いつものメンバーが付いていく。
一方、その場には、ワルツやルシアたちの他に、ミレニアたちや他のグループのメンバーなど、クラスメイトたちが8人ほどいて、ワルツたちに付いていくかどうかを悩んでいたようである。今日一日の出来事があまりにカオスすぎて、ワルツたちに付いていくことでありつける食事がどんなものなのか、心配になっていたらしい。中には、恐ろしさすら感じていた者までいたようである。
そんな中、ワルツたちに遅れて歩き始めたのはミレニアたち3人組だった。その際、尻込みをしていたクラスメイトたちに対し、ミレニアがこう口にする。
「今日は色々あったけど、付いて行って損は無いと思うから、私たちは行くわね?」
決して長い言葉ではなかったものの、ミレニアのその言葉で納得したのか、他のクラスメイトたちもワルツたちのことを追いかけることにしたようである。
そしてもう一人。
「……えへっ☆」
教師のハイスピアも。
◇
ヒュゥゥゥゥ……ズドォォォォン!!
ドゴシャッ!!ドドドドド!!
『あぁ、ちょうどお肉が到着したようですね』
「いや、ちょっ……」
ワルツたちが、目的の高台に辿り着いた直後、空から肉塊が落下してくる。いや、正確には放物線を描いて飛んできた、と言うべきか。
到着した(?)肉は、斜め30度ほどの角度で地面に衝突した後、その場にクレーターを作りながら、ギュンギュンと回転し、丁度、ワルツたちの前で停止したようである。ちなみに、皮が付いたままだった上、血抜きのために落とされた首には、木の皮で作ったと思しき蓋がされていたので、地面の土が付いたりはしていない。
その様子を見て、ワルツが眉を顰める。
「普通に持ってくれば良いのに……」
『いえいえ、血抜きが必要でしたし、距離も離れておりましたので、急いで射しゅt……運んできたのですよ。それに何より、お肉は入念に叩いた方が、やわらかくなって美味しいと言いますよね?』
「そりゃそうだけど……」
魔物の肉を1体丸ごと叩いてやわらかくするというのは、やり過ぎなのではないか……。そう思うワルツだったものの、ポテンティアが言っていることは一応間違っていなかったためか、それ以上、突っ込むようなことはしなかった。
「これ、解体するの大変なんだけど?絶対、この中身、複雑骨折とか、そういうレベルじゃないことになってるわよね?」
『おや?これは失礼しました。骨付きスペアリブが食べられた方が良いかと思い、骨を残しておりましたが、次回、お肉の配達をする際は、骨も抜いた状態で配達いたします』
「そういう話じゃないような……まぁ、いっか……」
ワルツが色々と諦めていたその後ろでは、空から肉が降ってきた様子を見ていたミレニアたちが、唖然として目を丸くしていたようである。どうやら、そこに広がっていた光景は、彼女たちにとっても、想像以上のカオスだったらしい。
彼女たちが驚いていたのは、肉に対してだけではない。
「はい!コンロ4つ!」ドドドドンッ
「……コンロを作る魔法かの?」
「そんな魔法があるのですか?!」
ルシアたちが寸分違わないコンロを魔法で一気に作るなど、見たことも無いような光景が繰り広げられているのを見て、目を疑っていたのである。
どうやら自分たちは、間違った選択をしてしまったようだ……。クラスメイトたちがそう考えてしまうのも仕方のないことだと言えた。




