14.11-49 登校49
「お昼頃、ポテ様に聞いた話では、数日ほど家を空けられると聞きましたのに……」
「まぁ、色々あってね。さっさと帰ってきちゃったわ?ルシアやポテンティアたちも、今日中には帰ってくると思うわよ?」
ワルツはそう言った後で、私服を着ていたマリアンヌの格好を見て、ふと思い出す。
「そういえば、試験はどうだったのかしら?まぁ、その様子だと、大丈夫そうだけれど」
明るい様子で話すマリアンヌを見る限り、彼女が試験で失敗したようには見えなかった。少なくとも、目が死んでいるなどということはなかったからだ。
ところが、マリアンヌの返答はすっきりとしないものだった。
「あー、"あれ"は……まぁ、あんなもの、といった感じでしたわ?」
「ん?あれ?」
「ワルツ様のところで色々とあったように、私のところでも、色々とあったのですわ?でも、試験官の先生曰く、失敗というわけではないという話でしたから、安心して下さいまし」
「……説明されないと、安心しようにも出来ないのだけど……」
自分に置き換えて考えた時、他人に事情を聞かれて返答できないシチュエーションというのは、どういう状況なのか……。決して良いニュースがあるときに行う行動ではなかったためか、ワルツは尚更に心配してしまったようである。
彼女が心配した理由はそれだけではない。マリアンヌという人物の人柄をまだよく分かっていなかったことも理由の一つだ。マリアンヌが匂いを操る魔女だということは分かっているが、それ以上のことをワルツは知らず……。何か思いも寄らぬ問題を起こしたのではないかと心配になってしまったのだ。例えばルシアやテレサのように……。
対するマリアンヌも、ワルツがどんなことで心配しているかは、理解していたようである。ワルツに比べ、マリアンヌの方が、よほど"一般人"と呼べる者たちとの付き合いは長く、常軌を逸した行動というものを、ワルツよりもよく分かっていたのだ。
ワルツを安心させるためには、事実を説明するしかない……。そう考えたマリアンヌは、試験の最中に何があったのかを、この場で説明することにしたようである。どうやら彼女自身、自分の行動が、"常軌を逸していた"と理解していたらしい。
「そのうち分かってしまうことなので、ここで言ってしまいますけれど……実は、実技の試験で演習場を壊してしまったのですわ?」
「あー、やっぱり?」
「その言い方……ワルツ様も壊したことがありますのね?」
「あんな薄っぺらい壁じゃ、簡単に抜けちゃうもの。仕方ないわ?」
「そう言ってくださって、幸いですわ」
「で、何やったの……っていうか、どうして演習場を壊すに至ったのかしら?」
「……召喚魔法ですわ」
「召喚魔法?」
「「「召喚魔法!」」」
ワルツだけでなく、ミレニアたちも反応する。
「召喚魔法って……転移魔法でどこか遠くから物や人や魔物を呼び寄せる魔法じゃなかったっけ?」
ルシアがたまに聖剣や稲荷寿司やテレサを呼び寄せている姿を思い出しながら、ワルツは問いかけた。すると、ミレニアたちから一斉に訝しげな視線が飛んでくる。
「それは召喚魔法じゃなくて、ただの転移魔法よ?」
「召喚魔法っていうのは、この世界ではないどこか別の世界から、幻獣を呼び寄せる魔法だ」
「……時限付きだがな」
「ふーん。そんな、絵に描いた"召喚魔法"みたいな召喚魔法が存在しているのね」
まるでゲームの世界のようだ……。そんなことを考えながら発言するワルツだったものの、ミレニアたちは発言の意図が読めず、皆、首を傾げていたようである。
一方、当のワルツとしては、自身が知っている召喚魔法と、マリアンヌが使った召喚魔法との間に、大きな食い違いがあると思ったのか、続けて質問を口にした。
「幻獣って、何を召喚したの?」
その質問を前に、マリアンヌは、何故か眉間に皺を寄せる。
「……私にもよく分かりませんの。そもそも、召喚される幻獣は、異世界の生き物と言われているので、この世界の生き物に形が似ているとは限りませんのよ。名前だってそうですわ?発音できない名前の幻獣が召喚されることもざらにありますのよ?」
「ふーん。じゃぁ、名前も分からないのね?」
「えぇ。全部は分かりませんでしたけれど……確か……コルなんとかと言う名前だったと思いますわ?」
「……ごめん。それ、ウチの身内かも知れない……」
「「「「……えっ?」」」」
ワルツは身に覚えがありすぎる名前の2文字を聞いて、思わず頭を抱えたようである。考えれば考えるほど、妹が召喚されて、好き放題暴れたようにしか思えなかったのだ。
「(あとで確認しとこ……)」
ワルツは考えるのをやめた。ほぼ分かっている答えを悩んでも意味は無いと思ったらしい。
そんなタイミングで、ルシアのグループと、ポテンティアのグループも戻ってくる。そんな身内の姿を見たワルツは、ふと思い付いたことがあったらしく——、
「あー、せっかくだから、皆、私にちょっと付き合ってくれない?」
——ワルツはミレニアたちに対して、そんな事を口にしたのである。




