14.11-48 登校48
「これでようやく、ハイスピア先生に魔石の確認をしてもらえるわね」
ワルツはそう言いながら、迷宮の中で採取してきた赤い魔石——炎の魔石をハイスピアへと差し出した。魔石の大きさはラグビーボールほどあり、人が手に持つにはかなり大きく重いものだ。そのためか、遠巻きにワルツたちの会話を眺めていた冒険者たちの間でザワザワと噂話のようなものが広がっていたようだが、ワルツに気にした様子はない。開き直っていたらしい。
「先生!これで良いですか?」
対するハイスピアは、せっかく取り戻した意識をもう少しで手放しそうになったが、両手で自身の尻尾を振り回している狐娘の存在に気付いて、慌てて我を取り戻す。
「え、えぇ……間違いないです。ワルツさんのグループは、これで目標達成ですね……」
「あー、その話なんですけど、実は……」
「私たちも採ってきちゃいました!」
『僕たちも採ってきています!』
ルシアとポテンティアが続けて声を上げる。そんな2人の手の中には、ワルツよりも大きな魔石の姿が……。もはや、バスタブクラスのサイズである。
「…………はっ?!が、頑張れ!私!」
「「「……?」」」
「いえ、なんでもありません。では、ルシアさんのグループと、ポテンティアくんのグループも目標達成ですね」
「えっと……私たちのグループは、テレサちゃんしか迷宮に入ってないんですけど……それでも良いんですか?」
『僕たちのグループも、アステリアさんと僕だけしか迷宮に入っていませんが?』
「……仕方ありません。現状、迷宮の内部は不安定な状況なのですから、これ以上、危険を冒すような真似はできません。今回は特例です」
ハイスピアはそう言って、残念そうに目を伏せた。ちなみに、その場には迷宮に入らなかった生徒たちも集まっていたようだが、皆、迷宮に入りたそうにはしていなかったようである。流石に、巨大なスケルトンが湧き出てくるような迷宮には入りたくないようだ。
こうして——、
「あと、残った課題は、無事に学院に帰るだけですね」
——ワルツたちの最初の授業は半分を終えたのである。そう、遠足(?)は帰るまでが遠足(?)なのだ。
「期日までに帰れば課題はクリアですが……」
「もちろん、今日中に帰りますよ?」
ワルツがそう口にしても、誰一人として難色を示す者は現れなかった。皆、帰る気、満々だったらしい。ラニアの町は観光を楽しめるような雰囲気ではない上、野営をするくらいなら自室でゆっくりと眠りたいと思う者が多かったのだ。……たとえ、帰り道で乗り心地の悪い馬車(?)に揺られようとも。
◇
ギュゥンッ!!
「ふぅ……ようやく帰ってこられたわね」
「な、なんだか、行く時よりも滅茶苦茶速くなかったか?!」
「風が気持ちよかったわ!」
「……そうだな」
「…………えへ☆」
ワルツたちは帰り道も、エッシャー機関付きの車両で帰ってきた。それも、行きと比べて倍以上の速度で、だ。
街道を移動する途中、学院近くの野営所で、見たことのある顔ぶれの学生たちが野営の準備をしていたようだが、ワルツたちが止まって声を掛けるようなことは無かった。一瞬で通り過ぎたので、声を掛ける暇すらなかったのだ。
ただ、声を掛けずとも問題は無かったようである。彼らにはハイスピアとは別の教員が同行しており、彼らと連絡を取る方法が無い訳ではなかったからだ。
「結局、お昼ごはんを食べ損ねちゃったわ。食堂、やってるのかしら?」
ラニアの町では、すべての食堂が閉店しており、食べられるとすれば炊き出しの食事だけ。しかしそれは、ラニアの町の人々や冒険者たちのためのものであり、ワルツたちが口にするわけにはいかなかったのである。
ゆえに、ワルツたちは急いで学院へと戻り、食堂で食事を摂ろうと考えていたようである。しかし、時間はすでに午後3時を回っており、食堂で食事が摂れるかは微妙だった。
「俺は夜まで待とうかと思ってる。結局、乗り物に乗るか、立っているかくらいしかしなかったから、身体を殆ど動かしてないしな」
「……同意見だ」
「……ふ、二人が食べないのなら、私も食べないわ?」
と、肩をワナワナと揺らしながら、ジャックとラリーの言葉に追従するミレニア。どうやら彼女はお腹が減っていたようだが、グループメンバー2人が昼食を食べないと言いだしたせいか、食べたいと言えなくなってしまったようである。
そんな彼女に対し、教師であるハイスピアが何かを言おうとした。
「えっと、それでしたら、教師権げn——」
そんな時のことだ。
「あら?もう帰って来ましたの?」
その場にお嬢様言葉(?)を使う人物が現れる。今日一日、入学試験を受けていたはずのエムリンザ帝国第一皇女のマリアンヌだ。




