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14.11-47 登校47

 ロズワルドをギルドマスターに引き渡したワルツたちは、足早にその場を立ち去った。これ以上、彼らに関わっていると面倒だと思ったらしい。


 ちょうどこの頃には、迷宮の蠢動(しゅんどう)も収まっており、ルシアは町を元あった場所へと戻した。同時に、空に浮かんでいた森も、あった場所へと戻す。


 その後で、一行は、担任教師であるハイスピアの元へと向かった。彼女は未だ、町の通りに佇んでおり、1時間ほど前から微動せずにワルツたちの事を待っていた(?)ようである。ちなみに、ラニアの町に到着していた学生グループは、全員がハイスピアの所に集合していたようだ。


 そのせいもあって、ワルツは少しだけ人見知りを再発しながら、遠慮気味にハイスピアへと話しかける。


「あの……ハイスピア先生?大丈夫ですか?」


 ワルツがハイスピアのことを気遣うような言葉を口にしたのは、ハイスピアが肩もふるわせず、ニコニコと笑いもせず、ぽかーんと口を開けたまま、明後日の方向へと視線を向けていたからだ。立ちながらにして廃人になっているように見えていた、とも言えるだろう。


 実際、ワルツが話しかけても、ハイスピアから明確な返答が戻ってくることは無い。ついでにワルツは、ハイスピアの目の前で手を振ってみるが、やはり反応らしき反応は無い。


「……まさか……立ちながら死んでる?!」


「「「いや、それはない」」」


 ワルツの発言に、一斉に否定の言葉が飛ぶ。ハイスピアに寄り添っていたミレニアたちの声だ。


 対するワルツはやれやれと言わんばかりに肩を落としてから返答する。


「もちろん、冗談よ?ハイスピア先生……ずっとこんな感じ?」


「えぇ、押しても引いてもダメね。よほど、あなたたちの行動がショックだったのね……」

「先生がこんな風になってるの、初めて見たぜ……」

「……あぁ、そうだな」


「そんなショックなことなんてやったっけ?滅茶苦茶自重してたのに……」


 そんなワルツの言葉に、その場の空気は2分される。何を言っているのか分からない、と言わんばかりの表情を浮かべるミレニアたちと、うんうんと頷くルシアたちだ。


 そのせいか——、


「「「えっ……」」」

「「「えっ?」」」


——その場が妙な空気に包まれる。双方共に、理解が追いついていないらしい。結果、皆、同じ事を考えてしまったようだ。……常識が外れているのは、自分たちなのだろうか、と。


 そんな中でもワルツが空気を読んだ様子はない。彼女はテレサに目配せする。


「テレサ。最終手段よ?ハイスピア先生を元に戻して」


「最終手段……とな?ふむ……手段を問わずに()せというのじゃな!分かるのじゃ!」


 テレサはそう言って、ハイスピアに近付いた。そして、何を思ったのか、自身の腰に生えていた尻尾の1本をカチャリと外すと、それをハイスピアの手に持たせる。


 そんなテレサの行動を見ていたワルツは、テレサの行動が理解出来ず、訝しげな表情を見せていたようだ。ただし口を挟むような事はしなかった。テレサの行動に迷いが無かったからだ。言霊魔法を使う以外の、何か新しいことをするのだろう……。その程度にしか考えていたのである。


 対するテレサは、ワルツにとって——いや、皆にとって、予想外の行動に出る。ただし、新しい魔法を行使しようというわけではない。


「……おっほん。では皆の者……逃げるのじゃ☆」スタタッ


 テレサはハイスピアに尻尾を持たせたまま、突如として逃げ出した。ワルツを含めて生徒たち全員が、呆然と彼女の姿を見送る。


 それからテレサは、20mほど離れたところで不意に後ろを振り返ると、ワルツたちに向かってこう言った。


「何をしておる?皆、早く逃げるのじゃ!前にも言ったのじゃが、その尻尾は、妾の身体から離れると、一定時間で爆発するのじゃ!」


 結果——、


「「「はあ?!」」」

「「「ちょっ?!」」」


——ワルツやルシアだけでなく、全員がハイスピアから逃げ出した。


 流石のハイスピアも、自身の生命に直結することだったためか、慌ててテレサの尻尾を捨てようとするが——、


「えっ?!ちょっ?!取れない?!」ブンブン


——原理不明の粘着力で手のひらにくっついており、どんなに引っ張っても取れなかった。


「ま、待って!」


 一斉に逃げ出した生徒たちは、ハイスピアが呼びかけても戻ってくる気配は無い。皆、ハイスピアから十分に離れて、テレサの尻尾ごとハイスピアが爆発するのを待っている、といった様子だ。近くで見ていた冒険者でさえも、ハイスピアに近付こうとせず、物陰からハイスピアのことを観察していたようである。


「お、お願い!もうボンヤリしないから!お願いだから、これ外して……」


 と、ハイスピアが泣きそうな表情を浮かべた頃——、


「……本当かの?」


——真っ先に逃げたテレサが、ニヤリとしながら物陰から姿を見せた。


 そんな彼女のしてやったりな表情を見た瞬間、ハイスピアは悟ったようである。


「……冗談だったのですね……」


 と。





 ……ちなみに、爆発するのは本当である。


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