表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2863/3387

14.11-46 登校46

サブタイトルのナンバリングが間違っておったゆえ、修正したのじゃ。

 グランドマスターであるロズワルドは、()()良いか、と言いながらも、その先の言葉を口にしなかった。頭の中にある言葉を言うか言うまいか悩んでいる、といった様子だ。


「えっと……"少し"じゃないの?」


 話の長い老人の典型例か……。そもそも話し出してすらいないロズワルドを前に、ワルツは困惑する。


 対するロズワルドは、ようやく心を決めたのか、今度は突然、両膝をついた。そして、懐から小さな筒のようなものを取り出した。所謂、懐刀だ。ようするに、自決用である。


 彼は懐刀の鞘を抜き放つと、それを自身の腹部に突き立てながら、言った。


「……先ほどの一件、無かった事にはできん。この首をくれてやるから、他の冒険者たちには手を出さんでくれ!」


 どうやら彼は、ワルツを襲撃したことを悔いて、責任を取ろうとしているらしい。


 しかし——、


「ぐぬぅっ……?!」


——彼の懐刀は、そこから1mmも動かなかった。まるで、空中に縫い付けられたかのように、ビクともしなかったのである。ワルツが重力制御システムを使い、懐刀を固定してしまったのだ。


 そのために、どうにか自決を図ろうとしているロズワルドを前に、ワルツはゆっくりと「んー」と唸って何やら考え込んでから、結論を口にする。


「とりあえず、自決は許さないわ?片付けるのが面倒臭いもの」


「なん……」


「それに、貴方に死なれると色々と困るのよ……。周りを見てみなさいよ」


 ワルツはそう言って周囲に視線を向けた。するとそこには、恐怖と悲しみと怒りの色を顔に浮かべた冒険者たちの姿が……。


 そんな冒険者たちは、空中に浮かんだ森や、転移した町、あるいは一瞬で変わってしまった天候などを見て、大半の者たちがワルツたちに対し、畏怖を感じていたようである。そんな中で、ロズワルドは自決しようとしていたのだから、冒険者たちにとってはこんな風に見えていたのだ。……自分の命を対価にして、ワルツたちから町を救おうとしている、と。


 結果、冒険者たちの間では、強大な力を前に感じる恐怖、非力な自分たちに対する悲しみと後悔、そしてロズワルドを死に追いやろうとしている(ようにみえる)ワルツたちへの怒り……。そんなものが満ちあふれていたのである。


「私たち、何もしてない……っていうか、そもそも、迷宮から町を救ったって言うのに、貴方のせいで全部、台無しになりそうなのよ。ほんと、そういう迷惑なこと、やめてくれない?それとも何?この国の全冒険者と戦って欲しいの?それなら別に良いわよ?この国ごと滅ぼすから」


 と言って、ワルツは重力制御システムを解除した。すると、ロズワルドが持っていた刃が自由になる。


 重さの戻ってきた刃を手にしたロズワルドは、しかし、刃を下ろすこと無く、そのままの体勢で固まった。ワルツの言葉や周囲の者たちの視線を見つつ、自分はどうすべきか悩んでいるらしい。


 彼に残されていた選択肢は2つ。恥を覚悟で自決をやめるか、このまま自決を強行するか。


 どうすべきかを悩んだ末、ロズワルドは——、


「……ここで死なねば男の恥!ふぬっ!」


——自決の道を選んだ。面子が大事だったらしい。


 なので、ワルツは再び重力制御システムを使って刃を止める。そして今度は、彼の刃を取り上げた。


「だから言ってるじゃん!そういうのホントやめて、って。自分勝手な理由が国を滅ぼそうとしてるって、分かんないの?お爺ちゃんなの?」


「「「(さっき、別に良いとか言ってなかったっけ?)(かの?)」」」


 と、ワルツの発言に、首を傾げる妹たち。何やら気になる事があったらしい。


 しかし、ワルツは、皆の反応には気付いていないらしく、今度はラニアの町における冒険者ギルドのギルドマスターを呼び()()()


「ぬおっ?!」ギュゥンッ!!


「ちょっと、貴方!この面倒臭いお爺ちゃん、どうにかしなさいよ!」


「え゛っ?!」


「じゃないと、この国、滅びるわよ?」


「ん゛な゛っ?!」


 肯定も否定も出来ないまま、ギルドマスターはロズワルドを任されることになった。この時、彼の顔に浮かんでいたのは絶望だ。なにしろ、ロズワルドの身に何かが起これば、目の前のバケモノじみた少女たちが、自分たちに刃を向けることになる——かもしれないのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ