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14.11-44 登校44

サブタイトルのナンバリングが間違っておったゆえ、修正したのじゃ。

   ドガガガガッ!!


 ワルツたちが迷宮の外に跳びだした後、間もなくして大きな揺れがラニアの町を襲った。迷宮の自己修復作用が、いよいよ最大限に働き始めたのだ。


 耐震構造ではなかったラニアの町並みは、揺れによってすべてが崩壊するはずだった。しかし、実際にはそうはならなかった。その場にはルシアがいるのだ。彼女は再び町並みだけを移動させて、迷宮の揺れから町を守ったのである。


 ちなみに、"町の移動"と簡単に書いているが、そう単純な話ではなかったりする。ラニアの町は森に囲まれているため、町の移動先には当然木々があり、魔物たちも潜んでいた。そんな場所に町を転移させるとどうなるか。あらゆる意味で、大惨事待ったなしである。


 流石のルシアも、自分の意思で森や魔物たちを潰すつもりはなかったらしい。ゆえに彼女は、町を移動させる先にあった森を、一旦空高い空中に浮かべ、その代わりに町を水平移動させたのである。


 原理は、ワルツが作ったエッシャー機関と同じだ。転移魔法を使って高い場所に森を移動させ、それを落下させて、地面に落ちる前に再び高い場所に移動させる、という無限ループである。魔力さえ供給していれば勝手に魔法が発動するオートスペルと転移魔法を組み合わせた全自動無限落下魔法、とも言えるかも知れない。


 そんな森がどこに転移させられていたのかというと、元々森があった場所の直上、つまり、町の真上だ。


 森の岩盤は、大気を攪拌させながら何度も落下を繰り返していて、異様な空気の流れを作り出していたようである。自然現象で言うなら、ダウンバーストに近いと言えるかも知れない。


   ドゴォォォォ!!


「「「…………」」」あんぐり


 町が転移させられた後、しばらく経ってから、町の人々は無限に落ち続ける大地の存在に気付いたようだ。最初は、黒い影のようなものが宙に浮かんでいて、それが大きくなったり小さくなったりを繰り返している程度にしか思っておらず、皆、新種の魔物かUFOが浮いている程度にしか考えていなかった。しかし、大気が攪拌させられていく内に、異様な速度で積乱雲が出来上がっていって、あれは何だ、という話になり……。大地が何度も転移して落ち続けている事に気付いた、というわけだ。


 そんな中で、ルシアは顔色一つ変えずに、迷宮を眺めていた。


「早く、迷宮の震動、収まらないないかなぁ……」


 オートスペルと転移魔法陣を使い、森を転移させていた本人であるルシアも、急激に変わっていく空模様に気付いて、心配していたようである。迷宮が動き始めてから15分ほど。未だ震動が収まる気配は無く、まだしばらくの間、森を落とし続けなければならなそうだった。


 彼女の隣には、テレサもいて、2人で迷宮を眺めていたようである。しかし、テレサの場合はルシアと違い、もう少し——いや遙かに、精神は()()()出来ているようだった。


「ア嬢?あれ、どうにかならぬのか?危険な気配しかしないのじゃが?」


 あれ——つまり、空で無限に落ち続ける大地をチラチラと見上げながら、テレサが文句を口にする。


「消し飛ばせば良いと思うけど、そんなことしたら、森とか動物とか、可愛そうじゃん?」


「……ア嬢の口から、可愛そうという言葉を聞くとは思わなかったのじゃ」


「……ちょっとそれ、どういう意味かなぁ?」イラッ


 ルシアに睨まれたテレサは、そっと視線を外すと、空に浮かぶ森を見上げながらこう言った。


「どこか遠い場所に移動させるというのはどうかの?」


「前にコルちゃんに言われたんだけど、転移させた先の生態系を破壊するかも知れないから、大規模転移魔法はあまりおすすめはしないって」


「ふむ、なるほど……。では、重力制御魔法で浮かべるというのはどうかの?」


「それでも良いけど、テレサちゃんの魔力は保つの?幻影魔法で、私の魔力を隠してくれてるんだよね?あまりおっきな力を使うと、隠しきれなくなるよ?」


「……意外に色々と考えておるの?」


「そりゃ、これまで色々あったし」


 ルシアはそう口にすると、空に浮かぶ森ではないどこか遠くの空に視線を向けて、目を細めた。何か、思い出すような出来事があったらしい。


 対するテレサは、眉を顰めながら、難しい表情を浮かべた。そんな彼女の反応に気付いたのか、ルシアが問いかける。


「……どうしたの?テレサちゃん?何かアイディアでもあるの?」


「……お主が重力制御魔法を使って森を浮かべる方法が無いわけでもないことに気付いてしまったのじゃが……正直、言うかどうか迷っておるのじゃ」


「言うだけならタダだから良いんじゃない?」


「……幻影魔法に使う魔力が足りなくなるのなら——」


「……つまり、私が融通すれば良いってこと?」


「そういうことなのじゃ」


「それ、結局、私の尻尾をモフりたいってだけじゃないの?」


「…………」


 テレサは難しそうな表情のまま、今度は目を閉じた。彼女は言えなかったのだ。いや、プライドやその他諸々が許さなかったのだ。モフりたい、という言葉も、モフりたくない、という言葉も。そう、複数の意味で……。


 結果、前にも後ろにも進めなくなったテレサが、肩をワナワナと震わせていると——、


   モフッ……


——何やらモフッとしたものがテレサの顔に押しつけられる。ルシアの尻尾だ。


「も、も、も、もふっ?!」びくぅ


「良いよ?別に……」


 そんな2人の行動を傍から見ていたワルツとポテンティア、それにアステリアは思う。


「……あの2人、何やってるのかしら?」

『僕の目には、テレサ様がルシアちゃんの尻尾の匂いを嗅いでいるようにしか見えませんね』

「ちょっと、コメントがしにくいです」


 謎の行動を見せる2人に、ワルツたちはただただ呆れたような表情を浮かべるのであった。


もう一言、書きたかったのじゃが、それについてはもう少し先に取っておくのじゃ。

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