14.11-43 登校43
サブタイトルのナンバリングが間違っておったゆえ、修正したのじゃ。
頭の上に降ってくる瓦礫を重力制御システムで押しのけながら、ワルツはラニアの迷宮の第一層目を歩いて行く。
迷宮の中は、外の景色と同じように、どこまでも続いていそうな空や大地が広がっていて、偽りの太陽や月まで浮かんでいたようである。ただ、空が示す時刻は、実際の時刻よりもかなり進んでいるのか、遅いのか。日没か日の出か、空は真っ赤に染まっていた。
「(何も無い空から瓦礫が落ちてくるって、なんか不思議ね……)」
まるで、通り雨の中を歩くかのように、ワルツは迷宮の中を進んでいく。とはいえ、彼女が進んだ距離は、ほんの数十メートルほど。彼女はそこに、生体の存在を検知していたのだ。
「ちょっと、お爺ちゃん?さっさと逃げるわよ?迷宮が崩れちゃうかも知れないんだから」
ゴツゴツとした大岩が所々で顔を見せている草原のような場所で、ワルツがある岩に向かって呼びかけると——、
「お前……いや、お前たちは何者だ?」
——岩陰からグランドマスターのロズワルドが現れる。
「何者かって……そんなに重要な事かしら?」
ワルツが困ったように問いかけると、グランドマスターは即答する。
「当然だ!私たちには国や民を守るという義務がある!何者か分からんお前たちを、この国に、のさばらせておくわけにはいかん!」
「あぁ、うん。そう言う話ね。まぁ、そんなことは良いから、早く逃げるわよ?このままだと崩落に巻き込まれるんだから」
この老人は、今更になって、何を言い出すのか……。ワルツが肩を竦めていると、あろうことかロズワルドは、顔を真っ赤にしながら杖を構えた。どうやらワルツに馬鹿にされていると思ったらしい。
そんなロズワルドの杖から、不意に鈍い輝きが漏れる。仕込み杖だ。杖の中に隠れていた細い刀身のすべてが露わになったとき、ロズワルドは——、
「ふぬっ!」
——目にも留まらぬ早さで、ワルツへと斬り掛かった。この場にはワルツしかおらず、彼女を制圧するには丁度良いシチュエーションだと考えたらしい。
カキンッ!!
ロズワルドの刃から、甲高い音が上がる。何か凄まじく固いものに当たったかのような音だ。
それと同時に、ロズワルドの刃が折れて、剣先が地面に落ちてしまった。
「んなっ……」
ロズワルドはあり得ないものを見た、と言わんばかりに、その目を剥いた。なにしろ、彼の刃は、ワルツの首に当たる前に、折れてしまったからだ。それも、ワルツの髪の毛に当たっただけで。
対するワルツは、顔色一つ変えずに溜息を吐く。
「もう、お爺ちゃんったら。杖を振り回したら危ないわよ?さぁ、みんな待っているんだから、帰るわよ?」
「な……何者なのだ……」
奇怪な鎧を身につけている時ならまだしも、鎧を身につけていない状態で、刃を防いでしまうなどありえない……。未だ現役だった頃の実力を手放していないという自信を持っていたロズワルドは、思わず自身の正気を疑った。
対するワルツは、やはり一貫して敵意を見せることなく、ロズワルドに近付くと——、
「別に何者でも良いじゃない?私たちの正体が分からなくても、国はちゃんと動くし、お天道様もいつもどおりに登って沈んでを繰り返すんだから。むしろ、逆に正体を知ったら…………まぁ、もしもの話は無意味ね。さぁ、外に出るわよ?お爺ちゃん?」
——そんな事を口にしながら、彼の手から軽々と仕込み杖を取り上げて、適当にその辺に放り投げて……。そしてロズワルドの手を握って引っ張った。
「ほら、こっちよ?お爺ちゃん。頭に気をつけてね?」
「…………」
ロズワルドは、されるがまま、ワルツに手を引かれた。その間、不思議と空から瓦礫が落ちてくる事は無く……。彼は安全に、縦穴のある場所まで辿り着くことが出来た。そして、その場でロズワルドたちを待っていた冒険者たちと共に、ルシアの転移魔法によって地上へと送られ、事なきを得たのである。
その際、ロズワルドは思ったようだ。
「……もう……引退するか……」
と。




