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14.11-42 登校42

   ズズズズズ……


 迷宮に開いていた大穴が、轟音を立てて蠢き始める。


「やっぱ、迷宮に穴を開けると、自動的に修復されちゃうんじゃん!」


 そんなワルツの言葉どおり、ラニアの町の迷宮が、自己修復のために変形を始めたのだ。


 その結果、直径100m近い大きな縦穴の壁をガラガラと岩石などの瓦礫が落下していく。地盤が緩くなったり、亀裂が入ったりして、重力に逆らえなくなった部分から壁が崩れ落ち始めたのだ。


 ルシアが作った階段も例外ではない。彼女が作った階段そのものは、かなり頑丈な鉄筋コンクリート並みの強度を誇っていたが、その根元にある迷宮の壁と接している部分には、それほど強度は無く、迷宮の振動によって、ぐらぐらと揺らぎ始めていたのである。


「ルシア!」


「えっ?!」


「転移魔法よ!冒険者の人たちを迷宮の外……じゃなくて、町の外に移動させて!」


「う、うん!」


 突然の出来事に慌てるルシアだったものの、姉の指示を聞いて、すぐに我を取り戻し、行動を始める。手当たり次第に、冒険者たちを町の外へと転移させ始めたのだ。


   ブゥンブゥンブゥンブゥン!!


 一見して順調に見えた避難作業だったが、8割ほど冒険者たちを地上に送り出した時に問題が起こる。


「お姉ちゃん!見える範囲に冒険者の人たちがいない!あと、ミレニアちゃんたちもどこかに行っちゃったみたい!」


「んなっ……テレサ!ルシアとアステリアの避難をお願い!」


「えっ……ワ、ワルツ?!妾に何をしろと?!」

「お姉ちゃん?!」

「ル、ルシア様と避難します!」


 自身を呼び止めようとする声(?)を振り切ったワルツは、目にも留まらぬ早さで階段を降り、1階層目に戻って、その場を見渡した。迷宮に侵入した際、一番最初にやってきた場所だ。冒険者たちも、ミレニアたちも、動いていなければその場にいるはずだと考えたのだ。


 実際、ワルツの予想は正しかった。


「きゃっ?!」

「な、何なんだ?!」

「くっ!」

「お前たち!ここから動くなよ!」

「何が起こってるんだ?!」


 数人の冒険者に守られる形で、ミレニアたちが物陰に身を寄せていたのだ。


「ちょっ!貴女たち!すぐに逃げるわよ!この区画は崩れるわ!」


 ワルツが声を上げると、冒険者たちは驚きの表情を浮かべた後で、今度は苦々しい様子で顔を顰めると、物陰から立てないまま、落ちてくる瓦礫を見上げた。


 逃げ遅れた彼らは、逃げたくても逃げられなかったのである。天井から落ちてくる瓦礫は、一つの重さが100kgを越えるようなものばかり。今は物陰に隠れているから無傷でいられるが、もしも一歩でも物陰から頭を出せば、大怪我を負ってしまう可能性が高かった。


「た、助けてくれ!落ちてくる瓦礫のせいで、頭を出せない!」


「そういうこと……ポテンティア!」


『脱出経路の安全を確保します!』


 ワルツの近くにポテンティアの姿は無かったものの、彼女が声を上げるとポテンティアの声がすぐに帰ってくる。


 その直後、迷宮の中で川でも決壊したのかと思えるほどの大量の黒い液体が、ミレニアたちの所へと流れてきた。ポテンティアを構成するマイクロマシンたちだ。マイクロマシンたちは、すぐに形を変えると、今度は屋根のような形状に変わる。ルシアの視界に入る場所まで移動出来る安全な通路だ。


『さぁ、みなさん!この通路を歩いて行く分には安全です!今のうちに避難をして下さい!』


「ポテくん?!」

「ポテか?!声しか聞こえないが……」


『話は後です!ルシアちゃんの視界に入るところまで移動すれば、彼女が転移魔法で安全な場所まで送ってくれるはずです!さぁ、早く!』


 ポテンティアが促すと、ミレニアやジャック、ラリーだけでなく、冒険者たちも急いで即席の通路を歩いて行く。


 そんな中で、ポテンティアは問いかけた。


『ところで、なぜ皆さんは、あの場所に残っていたのですか?』


 ポテンティアが問いかけると、ミレニアが返答する。


「声を掛けられたの。あの、グランドマスターって呼ばれていたお爺さんから、話がある、って。でも、あのお爺さん、迷宮が揺れてからどこかに消えちゃって……」


『……どちらに行ったかご存じの人はいますか?』


 ポテンティアの問いかけに、今度は冒険者が返答した。


「さっきの物陰の辺りで逸れたから、その近くにいるのは確かだと思う!」


『……分かりました。ワルツ様!もう一人、逃げ遅れた方がいらっしゃるようなので、確認をお願いできますでしょうか?あの、グランドマスターと呼ばれていたお爺さんです』


「分かったわ!もう、何やってるのよ……あのお爺ちゃん……」


 ワルツは瓦礫の雨が降る迷宮の中を歩き始めた。そんな彼女の頭の上には、瓦礫が落ちてくることは無く……。彼女のことを見送った冒険者やミレニアたちは、自分たちが危険な状況にあると言うのに、目を丸くしていたようである。


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