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14.11-41 登校41

 一方、レストフェン大公国中の冒険者ギルドを統括するグランドマスター——ロズワルドは、年の功と言うべきか、他の冒険者たちと一纏めにされる中でも、冷静にワルツたちの行動を観察していたようである。というより、彼にはやらねばならないことがあったと言うべきか。


「(ふむ……。力に溺れているかと思えば、そういうわけでもないようだな)」


 かつてS級の冒険者だった彼は、"グランドマスター"という立場から、ワルツたちの事を見定めようとしていたのだ。国にとって危険だというのなら、冒険者を総動員して、ワルツたちを排除しようとすら考えていた。


 そんな彼は、ワルツたちの正体を知らなかった。レストフェン大公国の冒険者ギルド本部は、公都にあるものの、彼らは一応、政府とは独立した組織。つまり、大公たるジョセフィーヌや政府関係者とは、距離を取っており、ジョセフィーヌが公都を追われた際も、政府の出来事に関与することは無かったのである。


 それゆえに彼は、ワルツたちが海の向こうにあるミッドエデンという国の関係者である事を知らず……。体内で異常な魔力を生成するがゆえに力に溺れる傾向のある魔力特異体の体質を持った子供たちだ、と単純に考えていた。


 ちなみに、魔力特異体の者たちは凶暴な性格になる傾向があるため、レストフェン大公国では、場合によっては捕縛や殺害が認められている。1人の命と、数千数万の命の重さを比べたとき、どちらが重いかは明らかだからだ。


「(しかし、気になる事がいくつかある。人を浮かべる魔法など、伝説くらいでしか聞いた事はないし……それに、ギルドを買収できるほどの資金など、どこから調達したのだ?)」


 つい数時間前、ロズワルドの執務室に、見たことも無いような種類の獣人の少女が現れて、一方的にギルドを買収したと通告してきたのである。本来、ギルドは買収など出来るはずはないのだが、少女が手渡してきた資料を見る限り、ギルドの資産や権利の大半が少女にあると書かれており、裏付けを取るために、簡単に調べてみると、そのすべてが確かに少女の所有物に変わっていた。


 その事実は、ロズワルドにとって、理解出来ない事だった。どんな権力を使ったとしても、ギルドの責任者であるロズワルドにバレないよう、ギルドの所有物を買収することなど不可能だと断言できるからだ。にも関わらず、実際に買収されてしまったというのは、いったいどういうことなのか……。ギルドの資産を管理する国中の不動産業者や関係業者をすべて同時に買収するなら不可能ではないが、そのようなことは自国の大公の権限や、政府の権力を以てしても実現出来ないようなトンデモないことだった。


 それゆえか、彼は、ふと思い至ったようである。


「(もしや、買収魔法なんてものがあるのか……?)」


 十人十色の種類がある魔法の中に、人を軽々と買収してしまうような効果のある魔法もあるのではないか……。もしも実在するとすれば、魔力特異体の者の存在も相まって、ギルドの買収を説明できるのではないか……。そう考えるロズワルドだったが、彼はすぐに考えを改めた。


「(まぁ、ありえんな。そんな便利な魔法などあるわけがない。おそらくは、ずっと前から入念に計画されていたのだろう。それに気付かなかったのは……私の落ち度だ)」


 恐らく、決算書の項目を見落としていたのだろう……。だとすれば全責任は自分にある……。そう考えたロズワルドは、それ以上、考えるのをやめたようだ。その代わり彼は、冒険者ギルドを取り戻す方法について頭を悩ませ始めたようである。


 ちなみに、実際には何が起こったのかというと、特に難しい話では無く、コルテックスと、彼女の部下たちが、人海戦術でレストフェン大公国の冒険者ギルドの資産を買い集めたのである。それも、短時間で、天文学的な大規模予算を振りかざしながら……。


「(しかし、とんでもない奴らだ。魔力特異体な上に、ギルドを買収できるほどの資金を動かせるなど、異常としか言いようが無い。いったい何者なのだ?……いや、この際、何者でも構わん。此奴らは危険だ)」


 しばらくワルツたちの行動を観察していたロズワルドは、方針を決定する。その決定は、ワルツたちにとっては決してポジティブなものではなく、彼女たちを排除するというものだった。


「(彼女たちにギルドを掌握される前に、行動に移さねば……)」


 短時間の勝負でケリを付ける必要がある……。そう考えたロズワルドは早速、行動に出ようとした。急いで公都のギルドに戻り、対策のための人員を集めようとしたのだ。具体的には、ラニアの町にやってきたときと同じように、転移魔法を使って。


 しかし——、


「……んん?」


——どうやら転移魔法は発動しなかったらしい。転移魔法を使おうとすると、魔力が発散してしまうのだ。


 一体、何が起こっているというのか……。今まで迷宮の中で、魔法が使えなくなった経験の無かったロズワルドは、その予想外の展開に、思わず目を細めてしまう。


「(なら、外に出て転移魔法を使おう)」


 そう決めたロズワルドは、大人しくワルツたちに従うような素振りを見せて、迷宮の外へと向かおうとする。


 そして階段を登り始め、地上まであと半分ほどの距離まで登ったときのことだった。


   ゴゴゴゴゴ……!


 突然、迷宮全体が、大きく振動を始めたのである。

 


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