14.11-40 登校40
そして結局——、
「……まぁ、わざわざ危険を冒すことも無いわよね」
「……うん」
「……余計なものを見つけて申し訳なく思っておるのじゃ」
「……こんなことも、たまにはありますよ。……たまには」
『えぇ、稀に極頻繁にありますね』
——ワルツたちの迷宮探索は、始まる前に終了した。入り口から入ったところで目的のものを回収出来てしまったのだ。
結果、フル装備状態だったワルツたちは、すべての装備を解除して、地上へと戻ることにしたようである。ただ、帰り道には、来た時と同じように大穴が開いており、越えて外に出なければならなかったので、ワルツたちは階段を作ることにしたようである。宙を浮かんで飛び越えられば、ほぼ一瞬で帰ることができるが、今後、迷宮探索を行う冒険者たちの事を考えて、敢えて経路を確保しておくことにしたのだ。
ちなみに階段は、ルシアの魔法で作ることになった。それも一瞬で。
ドゴォォォォンッ!!
「はい、完成!」
「相変わらず、見事ね」
ルシアは、迷宮に空いた大穴の周囲をグルグルと螺旋階段のように上がっていく階段を作り上げた。幅は3mほど。補強用の柱と、手すり付きの立派な螺旋階段だ。それが、地上から迷宮の第一層——どころか、迷宮の奥底まで、ずっと続いていたようである。
「さぁ、帰るわよ?」
ワルツたちは迷宮探索が出来なかったことを残念に思いながら、迷宮を貫く階段を上へと登り始めた。
すると、ようやく落ち着きを取り戻したのか、一層目に放置して帰ろうとしていた冒険者の一部から声が上がる。
「ちょっ……」
「な、何故だ?!」
「まだ探索は——」
「えっ……探索したいの?」
ワルツが足を止めて冒険者たちに視線を向ける。その視線には何か特別な効果が含まれていたわけではなかったものの、冒険者たちは一斉に黙り込んでしまった。
「まぁ、止めはしないけど、私たちとしては目的が達成できたから、もう帰るわよ?」
ワルツのその言葉に、冒険者たちは、皆揃って納得出来なさそうな表情を見せた。無理矢理迷宮の中に連れて来られたというのに、結局、何もせずに帰るのか……。冒険者たちはほぼ全員が憤りと安堵の感情に挟まれていたようである。
そんな中、ワルツたちに対して声を上げる者が現れる。
「お、おい!もう良いのか?!」
ラニアの町のギルドマスターだ。
「えぇ。用事は済んだし、無関係な人たちを危険に巻き込みたくないし、それに、この迷宮を破壊したく……いえなんでもないわ」
と言いながら、手にしていた赤い魔石を持ち上げるワルツ。その魔石を見て、ギルドマスターは言った。
「……炎の魔石なんて、別にこの迷宮でなくたって、どこにでもあるだろ?」
「へぇ、炎の魔石って言うのね?これを回収するのが授業の目的だったのよ。ほら、私たち、見ての通り学生だし」
「…………」
ギルドマスターは黙り込んだ。お前らのような学生がいるか、と思う一方で、一つ思い出したことがあったらしい。
「そうか。お前たちだったのか。今度新しく学院に新設された特別教室の学生というのは」
「ん?あぁ……学院から迷宮の管理者に連絡を入れてある、って先生が言っていたわね……」
「なるほど……そういうわけか」
ギルドマスターは納得した様子だった。学院の学生は、レストフェン大公国の内外問わず、周辺諸国からエリートばかりが集められているのである。その中でも特に優秀な学生を集めた特別教室の生徒が、優秀では無いわけがないと気付いたのだ。
まぁ、だとしても、規格外にも限度があったためか——、
「…………いや、やっぱりおかしいだろ」
——ギルドマスターの男には、やはり常識を吹っ切ることは出来なかったようだが。




