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14.11-38 登校38

「なんで私たち……空を飛んでいるのかしら…………ここ地中だけど」

「ハイスピア先生がいつも笑ってる理由……なんとなく分かったぜ……」

「…………」ぽかーん


 ミレニア、ジャック、ラリーの3人は、拒否権も無いままに宙に浮かべられて、迷宮の穴蔵の中を浮かんでいた。ワルツの重力制御システムによって浮かべられていたのだ。扱いの雑な冒険者に比べて随分丁寧に浮かべられていたのは、重力を操っていた人物が冒険者たちの場合とは別だからか。


 宙に浮かべられたミレニアたちに、恐怖の色は浮かんでいなかった。他の冒険者に比べて、ワルツたちとの付き合いが長く、心に少しばかり余裕があったからだ。あるいはワルツが、恐怖を感じさせないよう、気を配っていたことも原因の一つだろう。まぁ、今日顔を合わせたばかりのラリーだけは、普段以上に寡黙になり、口を大きく開けたままで固まっていたようだが。


 そんなこんなで、ワルツたちを先頭に、冒険者16人(?)と学生3人が浮かべられて迷宮探索が進んでいく。


「なんかさ……急に後ろが静かになったんじゃない?」

「そうかなぁ……?」

「多分、喋り疲れたのじゃろ」

『先ほどまでみんなで大声を上げていましたからねー』

「(いえ、驚きが大きすぎて、頭が真っ白になっているのだと思います)」


 ワルツ、ルシア、テレサ、ポテンティア、それにアステリアの5人は、そんな事を口にしながら、後ろを振り向いた。すると、底に浮かんでいた冒険者たちは、例外なく恐怖の表情を顔に浮かべていて……。まるでワルツたちの事を恐ろしい魔物でも見るかのように見つめ返していたようである。


「あー、皆、怖がっているわね。そうよね。何が起こるか分からない迷宮の中に入ったんだもの」

「そうかのう?ア嬢の浮かべ方が悪いだけではなかろうか?」

「えっ?もう少し激しく動かした方が良いの?」

『いえいえ、ただ揺らすだけでは逆効果です。最近、戦艦をしていて分かったのですが、揺らし方にも種類がありましてね?』

「(スリルを楽しむような状況じゃない……って、ツッコミを入れるべきなんでしょうか?)」


 何が出てくるのかも分からない大穴を越えながら、ワルツたちにしか分からない談義が展開されていく。


 とはいえ、彼女たちの話は、そう長くは続かなかった。間もなくして目的地に到着したからだ。


 迷宮の入り口は今、一階層目に降りるための経路が大穴によって無くなっており、ミルフィーユのような階層構造が、大穴の上から望むことができる状態だった。それゆえ、ワルツたちは、宙に浮かんで大穴を越え、ミルフィーユの一階層目に到着しなければならなかったのだが、地上からの目的地までの距離はおよそ100mほど。一言二言交わせば到着する程度の短い距離だったのである。


   シュタッ……

   ドサッ……


「はい到着」


「とりあえず解放するね?」


 一階層目に到着したところで、ルシアは冒険者たちを地面に下ろした。ワルツも同様に、ミレニアたちを地面に下ろす。


 結果、血気盛んな冒険者の一部が、ワルツたちに文句を言うため詰め寄ろうとするのだが、その直前。


「ルシア?何があるか分からないから、冒険用の装備を身につけた方がいいわ?ほら、私、こんな(なり)だし、何かあっても、助けられないかも知れないから……」


「うん?んー、分かった」


「テレサとポテンティアは……まぁ、防具なんて無くても良いわよね?テレサは無駄に頑丈に作られているし、ポテンティアは……そもそも"怪我"なんて概念は無いだろうし」


「納得は出来ぬが、どうやらそのようじゃのう……」

『僕も納得できませんが、確かに怪我という概念は僕には存在しませんね』


 ワルツたちがそんなやり取りを交わした直後から、冒険者たちは黙り込むことになる。


   ブゥン……


 ルシアが伸ばした手が、転移魔法特有の低音を響かせながら、何かを掴み取ったのである。


 彼女が手にしたもの——それは剣の柄の部分だった。刀身は存在しない。まるで、刀身がすっぽ抜けてしまった出来損ないの剣のようだった。


 しかし、それでも、冒険者たちは絶句した。なぜなら——、


   ブォンッ!!


——剣の柄から青白い光が吹き出して、まるで剣のような形に変わったからだ。むしろ、剣そのものである。



光狐「杖です」

他「「「……」」」」

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