14.11-35 登校35
「……本来であれば、試験を受けて頂かなければなりません。しかし、Sランクに匹敵する力があるというのであれば話は別。条件付きで迷宮探索の許可を認めます」
グランドマスターは苦々しい表情を浮かべながらそう口にした。
対するテレサたちの表情も険しい。
「「「条件?」」」
「記録にSランクに匹敵する実績があると記されておりますが、本当にそれほどの実力があるのか、記録だけでは証明できないのです。本来、高ランクの冒険者は、試験を受けて、それに合格する事で、実力があると認められるもの。試験を受けていない以上、Sランクとは認められず、迷宮探索は条件付きの許可となります。どうかご理解ください」
一旦は許可を出した手前、グランドマスターの腰は低かった。人によっては、その腰の低さを利用して、許可を無理矢理得ようとする者もいることだろう。
対するワルツたちは、無理に許可を得ようとは考えていなかったようだ。無理矢理許可を得たところで得をすることは何も無い上、許可が得られなくても、最悪、諦めればいいだけだからだ。
「で、その条件っていうのはどんなものなの?」
ワルツが問いかけると、グランドマスターはこう答えた。
「第一に、迷宮探索に行く者緒は、冒険者証にSランクに匹敵する実績が記されていること」
「んー、じゃぁ、ウチら全員ね」
「……第二に、迷宮の探索は、第一階層までで終えること」
「問題無いわ?」
「最後に……他の冒険者も護衛として連れていくこと。いやむしろ——」
グランドマスターは、一拍おいてから、言葉を続けた。
「護衛ではなく、同行する冒険者たちの事を守って欲しいのです。その上で、皆で生きて戻ってくることが絶対条件です」
「それなら……」
冒険者の護衛なんて付けずに、自分たちだけで行かせれば良いのに……。ワルツはそんなことを考えたようだが、グランドマスターの考えが分からないわけではなかったこともあり、言葉を飲み込むことにしたようである。
「……分かったわ。でも、足手まといになって何も出来ずに帰ってくるようなことにならないようにお願いするわね?それで、同行する冒険者って、どんな人たちなのかしら?」
ワルツがそう問いかけると、グランドマスターは、ギルドマスターへと視線を向けた。その視線の意味は、適当に見繕え、といったところだろうか。
対するグランドマスターは、グランドマスターの目配せにコクリと頷くと、ワルツに対してこう答えた。
「……俺が出ます」
ラニアの町において、最強の冒険者は、冒険者ギルドのギルドマスターだった。というのも、彼は、ギルドマスターになった今も迷宮探索をしている現役の冒険者。実績によりギルドマスターの地位が与えられた彼は、腕を鈍らせるようなことも無く、未だラニアの町では"最強"の名を冠していたのである。実力だけなら、レストフェン大公国の冒険者の中で最強と言っても良いかも知れない。
「あと、俺のパーティーメンバーにも声を……」
そこでギルドマスターは言い淀んだ。彼には一つ、不思議でならない事があったらしい。
「……しかし、迷宮内に入ろうにも、まずはスタンピードをどうにかしなければなりません。あれが落ち着いてからでなければ、迷宮に入ることすら叶わないでしょう」
ギルドマスターがそう口にした瞬間——、
「「「「えっ?」」」」
——ワルツたちの声が重なる。
「えっ……いや、今、ラニアの迷宮はスタンピードが起こっている状態……のはずだが?」
スタンピードが発生していることを分かっていて言っていたのではないのか……。ギルドマスターは、訝しげに問いかけた。ギルド内で業務をしていた彼は、外で起こった出来事を知らず、未だ、迷宮の中から強力な魔物が這い出てこようとしていると認識していたのだ。
ゆえに彼は、ワルツの次の発言を聞いて、耳を疑うことになる。
「えっ?迷宮から出てこようとしていた魔物なら、さっき邪魔だったから片付けたけど?」
「「「……えっ?」」」
ギルドマスター、受付嬢、それにグランドマスターの声が重なる。どうやら3人とも、外で起こった出来事を知らなかったようである。
ギルドマスターはギルド内で装備を調えていた故に。
受付嬢は受付で業務を行っておった故に。
グランドマスターは、すべてが片付いた後でラニアの町にやってきたために、スタンピードが終わっておったことに気付いておらんかったのじゃ。




