14.11-34 登校34
レストフェン大公国の冒険者ギルドを買収したことで、突然ラニアのギルドに現れた総ギルド長。そんな彼の許可を得て、ワルツたちは迷宮の中へと入れることになった。
ただ、話によると総ギルド長は、転移魔法でラニアの町までやってきたらしく——、
「むっ?!迷宮の魔物がスタンピードを起こしていただと?!」
——ラニアの町の迷宮で起こっていたことを知らなかったようである。
結果、彼は、ラニアの町のギルドマスターに詰め寄った。迷宮で魔物の暴走——スタンピードを起こした場合、公都にある中央のギルドに報告することが義務づけられているのである。にも関わらず、スタンピードのことを報告していないとなれば、職務怠慢以外の何者でもないからだ。
詰め寄られたギルドマスターは、焦った様子で、言い訳を口にする。
「ほ、報告は既に行っております!しかし、スタンピードと思しき現象が起こったのは今日の朝で、早馬を走らせたとしても、公都の本部に到着するのは何日も先のことになります!」
ギルドマスターのその言葉に、グランドマスターは一応納得したような反応を見せた。しかし、彼の懸念は晴れない。
「(だがそうなると、あの方々に出した許可を取り消さねばならん……)」
彼は、テレサたちに、迷宮に入る許可を出してしまったのである。しかし、迷宮の中は今、危険か安全かも分からない状態。そのため、たとえ屈強な冒険者たちをテレサたちの護衛に付けたとしても安全を確保出来るとは言えなかった。
ゆえに、グランドマスターは、再びテレサの前に立つと——、
ズサッ……
——その場に膝をついて、そして額を地面に付けながら、こう言った。
「も、申し訳ございません!テレサ様!先ほど、迷宮探索の許可を出したことを取り消させてください!」
ギルドへの出資者であるテレサたちだけでなく、彼女たちに同行させる予定の冒険者たちの事も死なせるわけにはいかなかったグランドマスターは、恥やプライドをすべて捨てて、ただひたすらに謝罪した。今ここでプライドなどというものを気にしていたら、この先、人が死ぬかも知れないからだ。
対するテレサは、怪訝そうに眉を顰めながら問いかける。
「なぜダメなのじゃ?」
「いま受けた報告によれば、ラニアの迷宮は、スタンピードにより、とても不安定な状態とのこと。そのような場所では、たとえ屈強な冒険者たちを護衛に付けたとしても、あなた様方の安全を確保することは出来かねます。何卒ご再考を……」
「ふむ……。つまり、妾たちが戦えれば問題は無いのじゃな?ならば問題は無かろう」
テレサはそう口にすると、受付嬢へと視線を向けた。
「そこの受付嬢よ。妾たちのランクをSランクに上げるためにはどうすれば良い?……あぁ、妾の冒険者証はこれなのじゃ」すっ
「う、受け取りますが、Sランクに上がるのは簡単なことでは…………っ?!ヴァイスシルトのメンバー……!」
受付嬢は、半ば混乱しながらも、頭をどうにか回転させた。テレサにしても、ワルツにしても、魔物の討伐数などの実績は、Sランクに上がるのに十分足りていたのである。あと、足りないものがあるとすれば——、
「……試験を受けていただければ、Sランクに上がることは可能です」
——昇格試験だけだった。
そんな受付嬢の言葉に、グランドマスターが目を白黒させる。
「ど、どういうことだ?!」
「か、彼女たちは、現在Dランクの冒険者ですが、魔物の討伐数や素材の採集数が桁違いに多く、実績だけで言うなら、今すぐにでもSランクに上がることが出来るほどの実力者なんです!」
「なん……」
グランドマスターの頭は混乱の度を深めた。ギルドが買収されるなど前代未聞だった上、その買収者が冒険者で、しかも実績がSランク相当など、予想も想像でも出来ることではなかったからだ。
ゆえに、彼は考える。
「(……もしや、この者たちなら、他の冒険者の護衛無しに迷宮探索ができるのではないか……?)」
と。
その結果、彼は、決断することになる。




