14.11-33 登校33
「いったい何なんだ……!」
ギルドマスターの男には、意味不明な言動をするワルツたちのことが理解出来なかった。そもそも、人が宙に浮くこと自体からして、理解の範疇を超えていたと言えた。
現状が理解出来なかったのは彼だけではない。
「ど、どういたしましょう?」
受付嬢や——、
「……なんていうか……」
「……想像以上だな……」
「……ありえん……」
——ミレニア、ジャック、ラリーなどの3人も、ルシアの魔力に打ちひしがれたかのように立ち尽くしていたようである。
ただ、そんな彼らの耳には、テレサの発言はほとんど届いていなかったようである。ルシアの圧倒的な魔力から比べれば、意味不明なテレサの言動など、些細な事だったからだ。
ゆえに、ガラスの修理代を出しながらも、すぐに修理代を袖の中に仕舞い込んだテレサの事は、皆、ほとんど印象には残っていなかったようである。それほどまでに、ルシアの魔力は圧倒的で、皆の常識を書き換えてしまうほどのインパクトを持っていたのだ。
世界にこれ以上の"力"を持った少女は存在するのだろうか……。そんな考えが皆の脳裏を過ったわけだが——、
ドドドドド……バタンッ!!
——ギルドの扉がこれ以上無いほどに激しく開けられたことによって、皆の思考は一旦リセットされることになる。
いったい誰がやってきたのか……。皆が一斉に入り口の方を振り向くと——、
「……え゛っ……グランドマスター……?なぜここに?!」
——そんなギルドマスターの声の通り、レストフェン大公国の冒険者ギルドの総ギルド長——通称グランドマスターがそこに立っていたようである。見た目はただの老人男性だ。
しかし、彼はその見た目によらない凄まじい動きで、ギルドの中にいた一人の少女のところへと一気に駆け寄って——、
ズササーーーッ!!
——スライディング土下座を実施した。
「レ、レストフェン大公国の冒険者ギルドの総ギルド長を務めておりますロズワルドにございます!テレサ様でございますね!?この度は当ギルドに多大な出資をしていただきまして誠にありがとうございました!どうぞ当ギルドを自由にお使いください!」
と、口にする自分たちのトップの姿を見て、ギルドマスターの男は開いた口が塞がらない様子だった。受付嬢はグランドマスターを見たことが無かったものの、ギルドマスターの反応を見ていいるうちに、目の前の人物が、上司の更に上司に当たることを察した様子だった。
一方テレサは、「……コルの奴、買収と言ったのに、出資したようじゃの……」と少し不満げに呟いてから、グランドマスターに指示を出す。
「このギルドのガラスの修理を頼みたいのじゃ。つい、手が滑って割ってしまっての」
「はっ!仰せのままに!」ギュゥンッ
グランドマスターが、半ば物理法則を無視して、ギルドマスターに目配せをする。窓を直せと目で訴えたようである。
対するギルドマスターは、慌てて受付嬢に視線を向けた。彼の場合は、ガラスを直すための発注準備をしろ、と視線で訴えていたらしい。
そして最終的に——、
「か、かしこまりました!」
——受付嬢が動き出す。この時、彼女は、ようやく事態の深刻さに気付いたようである。……目の前にいる少女たちは、Sランク級の冒険者どころか、貴族よりも遙かに厄介な者たちだ、と。
こうして、ルシアの魔力によるギルド損壊事件は、一応終息することになった。一部に納得できない3人組がいたようだが、ひとまず彼女たちの事は置いておくことにしよう。
というのも、話はこれで終わりではなかったからだ。
「あ、テレサ?ついでに、迷宮に入るための許可を貰ってもらえる?」
「……ということなのじゃが?当然、迷宮に入っても良いじゃろ?」
「許可など必要ありません!むしろ、護衛をお付けいたします!」
グランドマスターが即座に頷いた。そして、先ほどと同じように視線のリレーが始まる。
その様子を見て、ミレニアたちは思った。
「……なんなのかしら……」
「……本当、なんなんだろうな……」
「……分からん……」
ルシアが持つ圧倒的な"魔力"、テレサが持つ絶対的な"権力"、ポテンティアが持つ究極的な"破壊力"、そしてワルツが持つ魅力的な"技術力"。その一つ一つが理解の度を越えていたらしく、3人は混乱のあまり、思考を停止してしまったようだ。




