14.11-31 登校31
「(いや、もう、受付の貴女がダメって言うなら、それでダメで良いんだけど……)」
このままだと話が大きくなりすぎると思ったのか、ワルツはその場から逃げ出したくなってきていた。彼女が自分の冒険者証に記録されている情報を利用して、迷宮に潜れるよう交渉しようと考えていたのは確かなのだが、実際に話が進んでくると、冷静になってきたのか、忌避感を覚えつつあったようである。……ようするに、いつもどおりのワルツだ。
一方、そんな彼女のことを後ろから眺めていたミレニアたちは、険しい表情を浮かべながら、3人で何やら話し込んでいたようである。
「ワルツさんって、年上に見えないんだけど……」
「それな……」
「…………」
「しかも、今、Sランクがなんとかって話をしてたわよね?」
「まぁ、ポテもそうだけど、みんな強いからな……」
「…………」
「いったい、何なのかしら……」
「大陸の外側の国って、案外、あんなのばっかりなのかもしれないな……」
「……いや、それはない」
ミレニアとジャックが会話をしている中で、時折ラリーが言葉を挟む。元々彼は寡黙なタイプのようだが、意見はしっかりと言うタイプでもあるらしい。
「どうしてそう思うの?」
「少なくとも、ポテに紹介して貰った人は、みんなヤバそうな人たちばかりだったが?」
「あんなのばかりだったら、今頃、レストフェンは地図に無い」
「まぁ、それもそうね……」
「まぁ、それもそうか……」
ミレニアたちから見て、ワルツたちは比較的温厚(?)で、戦争を仕掛けてくるような集団には見えなかった。これがもしも、ワルツたち以外のミッドエデン人も皆凄まじい強さを持っているのだとすれば、その中には当然、気性の荒い人物もいるはずなので、いわゆる世界征服を企む者たちが現れてもおかしくないはずである。しかし、今のところ、世界には国が乱立していて、ミッドエデンという国は海の向こうにしか無いのである。それ即ち、異常な力を持っているのはワルツたちだけ、ということの証ではないか……。ラリーはそんなことを考えていたようだ。
「もし、レストフェンがワルツさんたちの国に併合を迫られるとしたら……」
「併合?戦争になる、とは言わないんだな?」
「戦争になんてならないでしょ。一方的に殲滅されるか、気付かないうちに滅ぼされるか……そのどちらかになるでしょうね。でも、もしも、レストフェンが併合されたら……空飛ぶ船とか、馬のいらない馬車とかが、国の中に溢れかえるようなことになるのかしら?」
「ミレニアん家も貴族なんだから、そういう発言は……って言いたいところだけど、俺もちょっと見てみたいな。きっと国が変わるとか、そういうレベルの話じゃなくて、国のあり方そのものが大きく変わるんだろうな」
「…………」
変わるレストフェン大公国の姿を想像しながら、どこか目を輝かせるように会話を交わすミレニアとジャック。そんな2人の話を聞いていたラリーも、反論するようなことはなく、彼はただ静かに、ワルツの背中に視線を向けていたようだ。彼は彼で何か思うことがあるのかも知れない。
ちなみにそのワルツには、3人の会話が聞こえていて、3人がミッドエデンに対してある種の憧れを抱いている事に気付いて——、
「(ほ、褒めたって、何も出ないんだからね?)」
——と、内心で悶えながら、羞恥に苛まれていたようである。
それからしばらく羞恥の時間が続き、ワルツの精神的なHP(?)が残り1割を切ったところで、ようやくギルドマスターらしき人物が現れた。
「で、どこだ?その冒険者は——」
彼は受付前までやって来ると、部屋の中をぐるりと見回した。しかし、Sランクに迫るという屈強そうな冒険者は見つけられない。いるのは学生服を着た少年少女たちが3人と、明らかな子どもが1人だけ。その中の約1名が、挙動不審な動きを見せていたようだが、彼はその人物のことをスルーして、一緒にやってきていた受付嬢へと問いかけた。
「おい、いないぞ?帰ったんじゃないのか?」
「いえ、彼女です」
「彼女……?」
背が高く、体格も良かったギルドマスターは、受付嬢に言われるまま、足下を見下ろした。するとそこには、顔を真っ赤に染め上げながら、プルプルと振動する子どもの姿が……。一見する限りは、緊張のあまり、足を震わせているかのように見えなくなかった。
そのためか——、
「いや、待て。人違いだろう」
——彼はワルツが冒険者だとは思えず、再度の確認を取る。彼から見る限り、ワルツはただの子ども。Sランクの力を持つ冒険者には到底見えないどころか、彼女の後ろに控える3人の学生たちに虐められているかのようにすら見えていた。
しかしやはり——、
「いえ、彼女で間違いありません」
——受付嬢は肯定する。
「ふふん。お前、もしかして、子どものいたずらか何かに引っ掛かったんじゃないのか?」
「そう思うのでしたら、ギルマスが——」
確認すれば良い……。受付嬢がそう口にしようとした時の事だ。
ドォォォォン!!
凄まじい魔力の気配が、ギルドを包み込む。先ほどの巨大なスケルトンの比ではない。あまりの魔力に、建物が軋んでガラスが割れ、地面に落ちていた塵が空中に浮かび上がるほどのトンデモない魔力がギルドを包み込んだのである。
その瞬間、ギルドマスターは「かはっ?!」と肺の空気をすべて吐き出しながら空中に浮かび上がることになった。何が起こっているのか分からないまま、彼がギルドの入り口へと視線を向けると、そこには——、
「誰だか知らないけど、お姉ちゃんを馬鹿にする人は、私の敵だね」じとぉ
「ワルツを馬鹿にする人は、ア嬢に滅ぼされてしまえば良いのじゃ」イラッ
——狐の獣人が二人ほど立っていて、凄まじい殺気を放っていたようである。
あああああ!12月あああああ!




