14.11-29 登校29
「…………」
「どうなの?」
ラリーとワルツとの間に、異様な雰囲気が立ちこめる。不穏な空気とまではいかないが、お互いに腹の探り合いをするような状況になっていたためか、平常の空気とは言えなかった。
ワルツからしてみれば、自分たちがスケルトンの暴走の原因となったとは到底考えられなかった。彼女たちが到着する前から、ラニアの町の迷宮からは、強い魔物が飛び出そうとしていたのだから、彼女たちが迷宮の魔物を刺激するなど不可能だからだ。
だが、関与していないことを証明する事も不可能だった。なにしろ、ワルツの周囲には、いわゆる"常識"が当てはまらない者たちが多く集まっていて、その誰かが原因だとしても、何ら不思議な事ではなかったからである。強大な魔力を持つルシア然り。マイクロマシンたちを謎の力で操るポテンティア然り……。
ただ、自分が迷宮の暴走に関与していないことを証明できないのは、ラリーの方も同じはずだった。普段の自分の行動、あるいは関係者の行動が、スケルトンの暴走に繋がっていないことを証明する手段が無いからだ。
「証明できないでしょ?証拠があるなら話は別かも知れないけれど、憶測だけでこんなやり取りをしても無駄よ。無駄」
ワルツはそう言って話を終わらせた。これ以上、長引かせても埒が明かないと思ったらしい。
「(ラリーが言っている通り、私たちが原因になっていないと言い切れないのよね……。むしろ、原因の可能性の方が高いというか……)」
自分たちが原因かもしれないと自覚しながらも、ワルツはそれを認めることなく、頭を切り替えて、ミレニアたちに対してこう言った。
「じゃぁ、冒険者ギルドに行って、赤い魔石が何者なのか、確認しに行きましょう?」
対するミレニアは、目を丸くして問いかける。
「えっ……こんな状況なのに、まだやるの?!」
「えっ……中止する理由が無いわよね?別に、町が破壊されたわけでもないし、怪我人がいても、私たちにはどうにもならないし……っていうか、彼ら自身でどうにか出来るでしょ」
例えワルツたちがいなくとも、安全になった今なら、町の人々同士で回復魔法を掛け合うことが出来るはずだった。その上、町には被害が生じていないのだから、ワルツたちが出来る事は何も無かったのである。
対するミレニアは、このまま授業を継続して良いのか悩んだようだが、ハイスピアに対して視線を向け、そして彼女が元に戻っていないことを確認してから再び考え込み……。そして考えを改めることに決める。
「……分かったわ。でも、迷宮への侵入が禁止されたらどうにもならないわよ?」
「あぁ、そこは大丈夫よ?通るから」
「えっ……通る……?」
「ほら、行くわよ。お金じゃ時間は買えないんだから」すたすた
「ちょっ……ちょっと!」
ワルツは一体何を言っているのか……。そんな疑問を抱きながらも、ミレニアはワルツの事を追いかけた。その更に後ろを、不満げなラリーと——、
「思いのほか、グイグイと引っ張っていくタイプなんだな……」
——と何やら感心した様子でジャックが付いていく。
そんな4人グループを見送りながら、ルシアたちは皆、同じような表情を見せていたようだ。具体的には——、
「お姉ちゃん、本当に人見知りが激しいのかなぁ?」
「……気にしたら負けなのじゃ」
『少なくとも、積極的でないのは確かですね』
「えっと……私にはよく分からないです……」
——困惑という表情を。
◇
そしてワルツたちのグループは、冒険者ギルドへとやってきた。他のグループは、乗り物酔いでダウンしているメンバーや、町の中ではぐれたメンバーを探すために、同行はしていない。
冒険者ギルドの中には、殆ど人はいなかった。大半の者たちが迷宮から出てくる魔物対策のために駆り出されているか、町からの避難を強要させられたからだ。
「すみません」
背の低いワルツが、カウンターにいた受付嬢へと話しかける。
対する受付嬢は、今までずっと室内にいたためか、外で起こった出来事を知らなかったらしく、ワルツの問いかけをすべて聞くことなく、ほぼ自動的にこう口にし始めた。それもワルツの方を直接見ずに、何やら忙しそうに書類に目を通しながら。
「ただいま、ギルドからの緊急依頼の受付は、ランクC以上からとなっております」
「ランクCからか……。そういえば、機動装甲と一緒に冒険者証を無くしちゃったのよね……」
「紛失ですか?では、こちらに——」
受付嬢はそこでようやく顔を上げた。するとそこには誰もおらず、彼女は一瞬固まることになる。
「え゛っ……ど、どこから声が……」
「いや、ここにいるから」
ワルツがカウンター越しに声を上げる。背が低すぎて、カウンターに隠れてしまい、受付嬢からは見えなかったのだ。
「……えっと……」
「……何よ?子ども扱いしたら、張り倒すからね?」ゴゴゴゴ
ワルツが殺意(?)を纏っていると、受付嬢は困惑を隠せない様子のまま、ギルドカードの再発行手続き書をカウンターの上に置いた。ワルツの見た目は子どもにしか見えなかったが、前例でもあったのか、念のため手続きだけはすることにしたようである。




