14.11-28 登校28
「あぁ、そうだ」
何かを思い付いたのか、ワルツがポツリと呟く。それから彼女は、ポテンティアに向かって目配せをした。
対するポテンティアも、直前までのワルツたちの会話を聞いていて、彼女が何を言わんとしているのか理解していたらしく、コクリと一回頷いた。ようするにワルツは、ポテンティア目掛けて駆け寄ってきたミレニアたちに授業で回収するよう言われている魔石はどんなものかを聞いて欲しい、と視線で訴えかけたのである。
『(ワルツ様、自分で聞けば良いのに……まぁ、いいですけど)』
この町まで、ミレニアたちと一緒に来たのではないのか……。ポテンティアは内心で呆れながらも、やってきたミレニアとジャックに対応する。
『皆さんにはお恥ずかしい姿をお見せしてしまいましたね』
キラキラと輝かせながら駆け寄ってきたミレニアたちの前で、ポテンティアは申し訳なさそうに眉をハの字にした。
そんなポテンティアの言葉を聞いてから、ミレニアとジャックは2人揃って何故か顔を赤らめると、これまた何故かぎこちない笑みを見せながら、ポテンティアのことを褒め始めた。
「そんなことは……ないよね?ジャック」
「あ、あぁ……かっこ良かったと思うぞ?あんなに大きなスケルトンが、手も足も出なかったしな!」
「あれって、ポテ君の魔法?すごかったわ!」
『あれは——』
魔法ではない……。本当の事を言えばトラブルに発展すると思ったのか、ポテンティアは本当の事を言わずに言葉を飲み込んだ。
彼女(?)はその代わりに、用意していた言い訳を口にする。
『まぁ、似たようなものです。本当であれば、もっとスマートに対処すべきでした。巨大化しなくとも、この姿で倒そうと思えば、倒せていたはずですから』
「「そ、そうなの?」」
『えぇ。大きいだけのただのスケルトンでしたので、衝撃を与えるとか、酸を掛けるとか、まぁ、色々対処方法はあったはずです』
そう答えつつも、ポテンティアは、結局の所はマイクロマシンで片付けたのではないかと考えていたようである。どんなことをするにしても、マイクロマシンを使って片付けるのが手っ取り早いからだ。
そんなやり取りをしている内に、話題が自身の変身のことからズレたので、ポテンティアはワルツから受けた指示どおりに、ミレニアたちに向かって問いかけた。
『ところで、お二人は、このオリエンテーションの授業で回収する予定だった魔石の種類をご存じですか?』
ポテンティアが問いかけると、ミレニアとジャックは顔を見合わせた。どうやら2人とも知らないらしい。
それから2人は、近くにいたハイスピアの方へと視線を向けた。しかし、そこにいたハイスピアは、依然として——、
「あははは〜♪」
——壊れていて……。質問を聞けるような雰囲気にはない。
『お二人も知らないのですね?』
「ご、ごめんなさい……。授業の時にハイスピア先生が言っていたこと以上の事は知らなくて……。確か、迷宮の1階層目にある色が赤い魔石って、言ってたわね?」
「種類までは言ってなかったよな。だけど、ハイスピア先生……今は、混乱してるみたいだから、聞くに聞けないし……」
「そういえばハイスピア先生、冒険者ギルドで情報収集をして欲しいって言ってなかったかしら?」
『あぁ、確かに、迷宮の情報を集める際は、冒険者ギルドで情報を集めるようにと言っていましたね。赤い魔石についても同じなのでしょうか……』
大きなヒントを得たポテンティアが、ワルツに向かって視線を向けた——と、そんな時。
「……ワルツ」
ミレニアたちと同行してきていたラリーが、ワルツに向かって問いかける。そんな彼は、眉間に皺を寄せていて、何やら険しそうな表情を浮かべていた。
「今回の出来事、偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎる。お前たち、何か知っているんじゃないのか?」
迷宮から強い魔物が飛び出てくるなど、ラニアの町が出来てからというもの、前代未聞のことだった。そして、特別教室が設立され、そのメンバーがラニアの町を訪問するというのも、学院が出来てから初めての事。偶然にしては、あまりに話が出来すぎていた。しかも、迷宮から飛び出てきた魔物をワルツたちが軽々と倒してしまったのだから、尚更に彼女たちは疑われたらしい。
対するワルツも腕を組んで、難しそうな表情を浮かべた後で……。彼女はこんな問いかけを口にした。
「……じゃぁ、逆に聞くけど、貴方が原因じゃないって証明できる?」
と。




