14.11-27 登校27
ラニアの町にいた者たちには、目の前で起こった出来事を受け入れることは出来なかった。迷宮の中から巨大なスケルトンが出てくるとは思ってもいなかった上、そんなスケルトンよりも巨大な少女が一瞬でスケルトンをバラバラにしてしまうなどなど……。常識の眼鏡を掛けている以上、理解出来るわけがなかったのだ。さらには、転移魔法によって町ごと移動させられてしまうなど、非常識甚だしく……。町にいた者たちの頭は、現実を理解することを拒んでしまった、というわけだ。
そして今、彼らは、新たな非常識に直面していた。巨大なスケルトンの体内から外された大きな魔石が町の中に無造作に置かれていた訳だが、その魔石を——、
「お姉ちゃん、これどうする?持って帰れば良い?」ひょいっ
——と、持ち上げてしまう獣人の少女がいたのだ。ルシアである。ちなみに、彼女の場合は、基本的に非力なので、筋力で魔石を持ち上げているのではなく、重力制御魔法で魔石を持ち上げていたようである。
自分の身長よりも何倍も大きな魔石を、物理法則など無視するかのように持ち上げてしまうルシアを前に、町の人々の頭は真っ白になった。見ず知らずの冒険者たちだけではない。学院関係者たちも同じだ。ハイスピアなどは「あははは〜♪」と現実逃避をして、自分の世界に旅立っているほどだった。
そんな状況の中で、ルシアに問いかけられたワルツは、今更になって周囲の人々の様子に気付いたのか、険しい表情を浮かべながら「んー」と唸る。そして彼女は、妹に向かってこう返答した。それも、周りの人々に聞こえないような小さな声で。
「(……ルシア。周りの人たちに見られているから、そっと魔石を下ろしましょ?そっとよ?)」
「え゛っ……(今更?)」
ルシアは内心納得できなかったものの、姉に言われたとおり、魔石をその場にそっと置く。
それから彼女は考えた。
「(お姉ちゃん、なんで止めたんだろ……。お姉ちゃんもポテちゃんも、すっごく目立ってたのに……)」
ルシアが複雑そうな表情を浮かべながら考え込んでいると、彼女の肩に誰かの手が置かれる。テレサの手だ。
「……ア嬢。お主が何を考えているのか、妾には分かるのじゃ。どうせ、今更、とか思ったのじゃろ?諦めるが良い。これがワルツなのじゃからの」
「あ、うん……。そう、だったね……」
「ちょっと、なんでそこ、二人して頷いているのよ……」
ワルツが2人の会話に気付いて口を挟む。
「まぁ、確かに、さっきは私も目立ってはいたけれど、今はこれ以上、目立つべきじゃないと思うのよ。ほら、今はまだ授業中で、ハイスピア先生が言っていた魔石だか鉱石だかを回収出来たわけじゃないじゃない?いま絡まれたりしたら、回収が妨害されたりしないかな、って思ってさ?」
どうやらワルツは、町にいる冒険者たちに絡まれないか心配しているらしい。迷宮と言えば、荒くれ者の冒険者たちが集まる治安の悪い場所なのだから、絡まれる確率は決して低くないと考えていたのだ。
そんな彼女に対し、テレサが疑問をぶつけた。
「では、どうして先ほどは、ワルツは自ら、魔石を回収しに行ったのじゃ?あぁ、大きな魔石の方ではなく、そこに転がっておる小さな魔石の方の話なのじゃ?」
「あぁ、さっきのあれは、魔石さえ回収出来れば、さっさと帰れると思ったからよ?ほら、私たちって、グループごとに競ってる感じになってるじゃない?タイムアタックで帰れれば、町の人たちに絡まれる事もなし、それに成績も良い点数が付くかな、って思って」
「「なるほど」」
「でもさ……ハイスピア先生の反応を見る限りだと、そこの魔石を持ち帰るのが目的じゃないっぽいのよね……。もちろん、こっちの大きな魔石の方も違うみたいだし……。やっぱり、迷宮の中に潜って探さなきゃダメかしら?」
「ハイスピア先生かぁ……」
「ハイスピア先生のう……」
ルシアとテレサは、揃って後ろを振り向いた。するとそこには、地面にへたり込んで——、
「あははは〜♪」
——と現実逃避をするハイスピアの姿が……。そんな彼女は、ポテンティアとアステリアから手を差し伸べられていたようだが、我に返る気配はない。
「……先生が元に戻ってくれないと、どの魔石か分からないって事だね」
「……困ったのう」
「そうなのよ。困ったのよ」
と、ワルツが、お手上げ状態である事を両手で表現していると——、
「ポテくn……ポテちゃん?」
「ポテ!」
「…………」
——ワルツのグループメンバーが、少し離れた場所から駆け寄ってきた。そんな3人の姿を見たワルツは、ハッと何かを思い付いたらしく……。近くにいたポテンティアの耳元で何かを呟いたようだ。




