14.11-26 登校26
「あー、ポテンティア?格好いいことを言ってるところ悪いんだけど、スカートの中、完全に見えているわよ?」
『あぁ、大丈夫です。スパッツを履いているので』
「そういう問題なのかしら……」
ワルツたちの上空では、直径数十メートルという巨大なスカートがブォンブォンと揺れていた。周辺地域に隠していたマイクロマシンたちを集めて巨大化したポテンティアのスカートだ。
巨大なポテンティアの足下にいれば、スカートの中身が見えて当然だったのだが、ポテンティア(小)の話によると、見られても恥ずかしくはないらしい。角度的に、ワルツたちからは見えていても、ラニアの町の方からはギリギリ見えなかったことも、恥ずかしくなかった理由なのかもしれない。
まぁ、それはさておき。巨大なポテンティアは、大気を乱しながら、スケルトンに向かって手を伸ばす。
対するスケルトンは、まさかポテンティアが自分よりも巨大だとは思っていなかったのか、顎が外れんばかりに口を大きく開けていた。しかし、頭を掴まれる直前で、自分が危機的状況にあることに気付いたのか、彼は必死になって抵抗を始める。
ドドドドドッ!!
スケルトンを掴もうとするポテンティアの手に対し、スケルトンから無数の魔法が飛んでいく。強大な魔力を身体から染み出させていたスケルトンらしい攻撃だ。一般人相手なら、一瞬で消し炭か肉塊になってしまうほどの強烈な攻撃だと言えるだろう。
しかし、相手は、人の形をしているとは言え、元は空中戦艦のポテンティア。対人、あるいは対生物用の魔法攻撃を受けたところで、痛くも痒くもなかった。
結果、彼女の手は、何の抵抗もなくスケルトンの頭に到達する。まるで少女が乱暴に人形を掴むかのようにスケルトンの頭を掴んだポテンティアは、そのままスケルトンの身体を地面から引っこ抜いた。
ドゴゴゴゴゴッ!!
「アステリア?分かった?ポテンティアのことをまったく心配しなくて良い理由」
抵抗らしき抵抗を見せることなく、人形のように扱われるスケルトンを見上げながら、ワルツはアステリアに問いかけた。
するとアステリアは空を見上げたまま、ぽかーんと口を開けて、しばらく固まり……。そしてややあってから、こう口にする。
「……私の中で、何かがガラガラと崩れていくような……そんな気がします……」
「あー、それは多分、お腹の音じゃないかしら?ほら、私たち、お昼ごはんを食べてないし」
「…………」
アステリアからの返答が無くなった。どうやら、彼女の中にあった"何か"が完全に崩れ落ちてしまったらしい。具体的には、常識に類する何かが。
一方、ポテンティアに持ち上げられたスケルトンも、ぽかーと顎を外したままだった。完全に脱臼した状態だ。どういう原理で下顎が落下しないのかは不明だが、とりあえず、衝撃を与えない限りは顎の位置から外れて落ちることは無いようだ。
そんなスケルトンに対して、ポテンティアは問いかけた。
『さて、小さき者さん。僕の忠告を無視して暴れようとしたあなたには、選択肢が二つあります。焼却処分か、粉砕処分か。選んで下さい』
《——理解——不可——》
『……質問にお答えいただけないということは、こちらで勝手に決めて良いということですね?分かります。では、さっそく——』
それから起こった出来事は、まさに一方的な暴虐だった。スケルトンは一切の抵抗を許されることなく、肋骨を外され、心臓があっただろう場所から魔石を取り出されて……。ただの巨大な骨に戻ってしまったのだ。
さらに、二度と復活する事が無いよう、マイクロマシンたちのレーザーによって、残った骨も焼かれて……。スケルトンは灰以下の何かに変わり、風に乗って消え去っていった。
スケルトンがポテンティアに鷲づかみにされてから塵に返るまで、たったの10秒。もはや作業である。
その後、巨大なポテンティアの姿は液体のように溶けて四散し、その場に静寂が戻ってくる。迷宮から他に魔物が出てくる気配も無い。なので、ルシアは、ラニアの町を元の場所へと戻すことにしたようだ。
結果、町は、迷宮の穴を取り囲むような元の位置へと戻ってくるのだが——、
「「「…………」」」しーん
——残念と言うべきか、何と言うべきか……。街の中に喧噪が戻ってくることは無かったようだ。




